お母さんなんて呼ばなくていいのよ 作:西田三郎 ■お母さんなんて呼ばなくていいのよ
英治は床に倒れたまま、指一本動かすことさえできずに、一重が散らかり切った部屋を片づけるのを見ていた。一重は何も言わず、もくもくと部屋を片づけている。相変わらず表情は悲しげなままだった。みるみるうちに、部屋は以前の整然さを取り戻していった。
一体自分は、何をされたんだろう?なんで躰が動かないんだ?
毎晩の金縛りと、まったく同じだった。しかし今は意識もはっきりしており、これは明らかに現実である。先ほど一重に触られた首筋には、なにか不思議な異物感があった。しかしその位置は死角であり、英治には見えない。
部屋がすっかり片づけられた。
一重が英治の前に立ち、英治を見下ろした。一重の身長が、いつもの何倍にも思えた。
「…ほんとに、ごめんね…英治くん」
「…僕に…何を…」英治は一重を見上げて、言った。
一重がしゃがみ込んで、英治の顔を覗き込む。一重の手が英治の顔に延び、短い前髪を優しく掻き上げた。
「…人間の体には108のつぼがあってね、それぞれが体のいろんなところに影響してるの。…今、あたしが英治くんの首に刺したのは“癒身”っていうつぼ。」
「…」
「…ここを刺すとね、鍼を刺してる間中、体が動かなくなるの。でも、抜いたら元通り動くようになるから、安心してね」
「…そんなことじゃなくて…僕に…何を…」
「…」
一重は答えず、傍らに置かれていた白い仮面と、蒟蒻を取り上げた。蒟蒻は先ほど一重が改めて冷蔵庫からもってきたものだった。一重が、仮面をつける。
毎夜現れた、あの女だった。一重は仮面をつけたまま、英治の頬を蒟蒻で撫でた。
「…い…いや…」
一重が仮面を外す。無表情な仮面の下から、一重の悲しそうな顔が現れた。
「…ごめんね…こんなことして…わかってる。英治くんが、こんなこといやだってこと」
蒟蒻が頬から首筋に下り、ゆっくりと上下になぜる。毎夜の感覚を呼び覚まされ、早くも英治の躰は反応をはじめていた。
「…でも、我慢できなかったの…ごめんね。…あたし、そういう女なの…」
「んっ…あっ…」
英治が身もだえするのを悲しそうに見ながら、一重が言葉を続けた。
「…あたし、初めて英治くんに会ったときから、英治くんのお母さんにはなれないって思ったの…だって…」一重の手が、英治の制服のシャツのボタンを一つ一つ外してゆく。「…だって、あたし、こんな女だもの…でも、努力はしたんだけどな…せめて…せめて、お姉さんには、なれるかなって、思った…」
シャツのボタンは全て外された。今度は一重の手が、英治のズボンの前ボタンに掛かる。
「…でも、それも無理だった…英治くん、ぜったい、あたしのことなんか、お母さんと認めてやるもんかって…思ってるでしょ?…でも、あたしも同じなんだ…判る?」
ズボンのチャックが降ろされた。動けない英治には、それをくい止める術はなかった。
ズボンが引き下ろされる…連日の責めでかすかに屈辱の染みを浮かせた白いブリーフが、露わになった。これから待ち受ける強制的な愉悦を待ち焦がれるかのように、肉体は英治の意に反して明確に反応を示していた。パンツの布地が、すでに硬く隆起した肉茎に持ち上げられている。
鍼による戒めと、淫らな愛撫を受けながら裸に剥かれていく英治の姿を、母の遺影が仏壇から見守っていた。
「…あたしも…英治くんの母親にはなれないの。…英治くんを息子だなんて…思えないの…弟だなんて…だって…」一重が少し、顔を伏せた。「…こんなに、好きなんだもの…」
一重の手がブリーフに掛かった。
「やめっ…て…」
「なんで…?」一重が無慈悲にブリーフを引き下ろした。一瞬布地に引っかかった肉茎がはじかれ、腹を打った。「…いつも…英治くん、気持ちよさそうにしてくれたじゃない…」
「…そん…な…」
「…わかってる…英治くんがいやだってことは…でも…あたし…」一重が英治の躰を見下ろす。
手足を動かせず、晒された躰を隠す術を持たない英治は、思わず顔を背けた。
ボタンを全部外されたワイシャツは左右に大きく開かれ、その左右に、固くなった乳首が上を向いている。痩せた白い胸には肋骨が浮き上がり、まだ贅肉を乗せていない腹には縦型の毛のない臍がある。その臍のすぐしたに、固くなった肉茎の先端があった。その根元にはかすかでまばらな恥毛。肉茎は血管を浮き出させ、ビクン、ビクンと震えていた。先端からすでに溢れている粘液が、臍のくぼみに垂れている。
「…ごめんね…あたし…こんなことしかできない女なの…こんなことしか…」
「うっ…!」
一重の手が、熱く、固くなった肉茎に触れた。毎夜と同じく、冷たい手だった。
「…ごめんね…英治くん、あたし、こんな女で…」一重は少し、鼻に掛かった声で言った。
「はあっ…!!」
一重の指先が、英治の肉茎の先端からあふれ出た粘液をすくい上げた。そのまま一重はそれを肉茎全体に塗りつけるように、ゆっくりと手を上下に動かし始めた。
湿った音がした。
「やあっ…や…や…め…て」
「…英治くん…ごめんね…あたし、こんなことしか、英治くんにできないの…あたしの事、お母さんなんて、呼ばなくていいのよ…」一重は一拍間を置いてから、少しトーンの低い声で続けた。その間も手を休めることはない「こんな女だと思って、軽蔑してくれていいのよ…だから…今は…何も考えずに、楽しんで…お願い」
英治は必死に目を閉じ、歯を食いしばった。しかし、湿った音は聞こえてくるし、全身を飲み込み、全神経をも凌駕するこの激しい歓喜からは逃れられない。あっという間に、英治は瀬戸際に追いつめられていった。このままでは、1分も絶たないうちに射精させられてしまう。それだけは出来ない。それだけは。なぜなら自分を淫らに責め立てているのは、父の再婚相手であり、ここはその女と父が交歓する寝室であり、そしてその様子を、母の遺影が見ているのだ。
何があっても、母の遺影の前でそんな屈辱を受ける訳にはいかない…しかし頭でそんな事を考えれば考えるほど、英治の全身は甘美な痺れに侵されていった。
「……あっ…ああっ…」
「…いいから…英治くん…出して、いいのよ…」
「んんっ……あっ………………んああっっっ!!!」
目の前が白くなり、下半身から下の感覚が失われた。
激しく堰を切った鈴口は真上を向いており、勢い良く精液を放出した。英治は、自分の唇に、顎に、自らの熱い精液が飛び散るのを感じた。もんどり打つような長く、激しい律動は、いつまで絶っても収まらなかった。自分の体の一部分ではなくなったかのように、精をまき散らしながら猛り狂う肉茎。胸に、腹に、精液が飛び散った。
やっと律動が収まったときには、英治は白目を剥き、涎を垂らしていた。
自らの精液を体の表面にまき散らし、息も絶え絶えの英治を、相変わらず悲しそうな顔の一重が見下ろしている。
「…すごい…こんなに出てる…」
一重の手が、英治の躰の上にまき散らされた精液を、ゆっくりと塗り広げていった。
「…いや…」
「…ほら…ね。英治くん…お願いだから…楽しんで…。ね…あたし…こんなことだけは上手だから……」
白濁した粘液を塗り込められた英治の上半身は、カーテンの隙間から入ってくる外からの光に照らされ、ぬらぬらと光っていた。一重は未だかすかに律動の余韻を残し、英治の萎れきった肉帽の先端から滴り落ちている液をすくい上げると、英治の陰嚢の裏や、肛門の近くまでそれを塗り混んでいった。
脱力感と無力感と、敗北感のはざまで、英治は痺れるような嗜虐感を味わっていた。
ひとしきり英治の躰中に精液を塗りたくった一重は、またも英治の力無い肉茎をつまみ上げる。
「…ダメ……だ…よ…もう…もう……もう…ほんとに…出ない…よ…」
一重が顔を上げ、優しい笑みを見せた。
「大丈夫よ…ほら」
いつの間にか一重の指先に、髪の毛のように細い鍼があった。
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