必殺にしきあなご突き
作:西田三郎

「第7話」

■“必殺にしきあなご突き”

 駅のトイレに人影はなく、あたしはフラフラの彼女をなんとかトイレにかつぎ込んだ。
 「水………」彼女が言うので、洗面台のところまで言って水を出した。
 彼女は洗面台に寄りかかり………冷たい水で何度も何度も顔を洗った。
 
 あたしはその背後に立って、また彼女に掛けるべき言葉を探していた。
 いろいろ考えたけど、やはり今、言える言葉はひとつしかない。
 あの電車の中で彼女と老人を取り囲んでいた、好色で品性下劣で道徳心にも公共心にも欠けたギャラリーたちのひとりだったあたしとしては、それしか言うべき言葉は見つからない。
 「………ごめんね………」
 「………………いいよ、もう」彼女は洗面台でさらに顔を洗い続けながら言った「………なんとか……なんとかするよ。………毎朝こんなの、やってらんないよ………そうでしょ?」
 「………うん……」
 顔を洗い終えた彼女が、ハンカチで顔を拭いてあたしに向き直る。そして微かに笑った。
 冷たい水で冷やされて血の気を失った彼女の顔は………恐しくなるくらい綺麗だった。
 「ごめん、その……………スカートの中拭きたいから、誰か入ってこないか入口のとこ見ててくれる?」
 彼女がそう言ったので、あたしは彼女に背を向けた。
 
 と、その時だった。
 背後から彼女が、掌であたしの肩甲骨の間に触れた。
 「えっ?」肩甲骨の間で、彼女の手がぐいっと時計回りに回る。ごりゅ、という音が自分の脊椎に響くのが聞こえた。「ひゃっ…………」
 次に、腰の上……左右の腎臓の辺りを、いっぺんにずん、と突かれる。身体中に、びりっと痺れが走った。
 最後に彼女はあたしの背骨をつーーーーーっと下から上に指でなぞると、上から何個めかの間接を探り当て、その部分をぐいっと押す。
 「あ………………は?…………」
 
 彼女に振り向こうとしたが、首が動かない。
 声も出なかった。
 全身が長時間慣れない正座をした後みたいに、じーん、と痺れている。
 
 彼女があたしの前に回り込んできて、顔を覗き込んだ。
 彼女は笑っていた………あの黒目がちの目を細めて。
 「……どう?“必殺にしきあなご突き”?」彼女はさも楽しそうに笑いながら、棒立ちで動けないあたしの周りを回る「……“にしきあなご”って何だろう、って思ってさ、図鑑で調べたんだよね。そしたら尻尾を植物みたいに海底に埋めて、棒立ちになってる魚だっていうじゃない………………?ふうん……ナルホドね、こうして見てると、なんか、わかるような気がする」
 
 “な……なんで………”あたしは思ったが、声が出ない。
 
 「なんであたしにこれができるのかって?……そう思ってるの?………毎日毎日、あのジジイに同じことされてたら、イヤでも身体が覚えるちゃうよ

 そ、それにしても。
 ほんとうにあたしは金縛りに遭ったみたいにぴくりとも動けない。
 彼女は動けないあたしの身体をトイレの個室に押し込み、自分も中に入ってきてドアを閉め、鍵を掛けた。あたしはトイレの壁に背を付けて、目を見開いているしかなかった。
 彼女があたしの真正面に来て、身体を押しつけてくる。柔らかい、羽のように軽い身体。
 やっぱりあたしはおかしいんだろうか?
 こんな状況でも、胸がドキドキするのを感じた。
 
 「……あんたも、あたしがされてたような事されたいんでしょ?………されたいから、あたしの事助けないで黙って見てたんだよね?…………今からあんたに、あたしがされた事とおんなじことしたげる。あんた、毎日この前あたしがあのジジイにされてたこと思いだして、オナニーしてたんでしょ?……変態だよね………とんでもない変態だよ、あんた
 言われても言い返す言葉がなかった……もっとも、あたしは口が利けない状態だったのだが。
 と、彼女の手があたしのスカートの中に入ってきた。
 “ひっ………”彼女の指がパンツの上から脚の間に触れる。
 「………困ったなあ………もう濡れてんじゃん。あんた、オナニーほんっとに好きそうだもんね。好きそうな顔してるよ。むっつり助平でしょ、あんた」
 微妙な指使いで、湿った布地をゆっくりと擦られる………正直言って、それだけで気が遠くなるくらい気持ちが良かった。

 「………あんたはいいよね、可愛くなくて。別にブスってわけでもないけど。………ねえあんた、あんたにああいうジジイみたいな変態に、いつだって目をつけられちゃう子の気持ちわかる?………小さい頃から、別に好きで可愛く生まれついたわけでもないのに、何かっていうとあの手の変態に目をつけられて、何回も何回もいたずらされて育った子の気持ち判る………?わかんないよね、あんたみたいに、人の不幸で欲情する変態には。わかりっこないよね………あたしがどんな思いをしながら、今まで生きてきたか」

  “えっ………あっ……”彼女の冷たい手が、パンツの中に入ってきた。
  彼女はもう片方の手で、あたしのブラウスのボタンを外し始めた。

 「はじめは4つの時で……近所に住んでる浪人生に。その次が小学校1年になったばかりの時、帰り道で知らないオッサンに、小学校高学年の時なんか、担任の先生にパンツの中に手を入れられちゃった。それから中学の時は………まあいいや。とにかくいろいろあったわけ。なんでだろうね?……あたしそんなに可愛い?あたしそんなに、やらしいことしたくなるような顔してる?

 “………………いやっ”
 ブラウスがはだけられ、ブラジャーが強引にたくし上げられる。
 「へーえ、結構おっぱい大きいじゃん
 彼女はそう言うと、あたしの乳首を掴んでくりくりと擽り始めた。
 “……あっ………やっ…………”
 同時にパンツの中に入った彼女の指は、ぬるぬるになったその辺り一帯から、何かを探している。 何を探しているのかは言われないでも判った。
 こ………このままそんなとこまで触られたら………
 あたし、一体どうなっちゃうんだろう………?

 「あ、乳首立ってきた」彼女はほんとうに嬉しそうに言った「……いやらしい女だねえ」
 “ん…………………………………………………くっ”
 パンツの中の指が、ついにクリトリスを探り当て、乱暴なくらいの刺激を与えはじめる。
 
 その部分が感じた強い感覚は、声にもならず、身体の運動でも消化されず、行き場のない電流のようにあたしの身体の中を駆けめぐった。さらに刺激は容赦なく与えられ、その度に感覚は倍増する。しかし今のあたしには、それを外に解放する術がないのだ。目が回ってきた。頭の中がガンガンした。目の前で何度も火花が散った。奥歯を噛みしめ、なんとか激しい感覚から逃れようとしたが、無理な話だった。逃れようとすればするほど、感覚は激しくなり、あたしを追いつめていく。
 
 「そんなにいいの……?やらしいんだから。もうべっちょべっちょになってるよ。涎まで垂らしちゃって………やらしい子」
 そう言われてあたしは自分が涎を垂らしていることに気づいた。目頭からは、涙も流れている。涙はまだいいとして、垂らした涎を自分で拭うことができないということの情けなさは、ちょっと経験したことのない人には説明しがたい。
 
 あっという間に内臓が裏返るような絶頂が襲ってきた。
 何の受け身もなしに甘受する絶頂は、まるで生きたまま火に炙られるかのようだった。
 
 「もういっちゃったの?………まだまだだよ。今度はこれが入るからね」
 そう言って彼女は自分の人差し指をあたしの目の前に翳す。
 それができたなら、あたしは左右にぶんぶん首を振っていただろう。
 彼女の繊細できれいな指が、まがまがしい性器のように見えた……その時点ではほんものの性器を生で見たことは無かったのだが。
 彼女はその指をくわえると、自分の唾で湿らせ、あたしの入口にあてがった。
 “………い、いや………………………ん、んんっ!!”
 一気に奧まで貫かれる。
 自分でも触ったことがないくらいまで、彼女の指先が届いた。
 不思議と、痛さはなかった。いや、痛かったのかも知れないが、それを感じるより先に、彼女の指はあたしの奧にあるとんでもないところに触れた。あまりの感覚に、吐きそうになる………自分でも知らなかったその部分を、彼女の指が小刻みに振動して責め立てる。
 「……ほら、あのジジイね、あたしにこんな風にするんだよ。ほら、すごいでしょ?……なんだか、痺れてきちゃうでしょ。立ってらんなくなるでしょ。…………あのジジイ、これが好きなの。あたしの中に指突っ込んで、こんな風にかき回して、ここ?……このへん?……このあたりを、ぐりぐりすんの……どう?気持ちいい?……たまんない?………またいっちゃいそう?
 “…………お………お願い……………や、やめて…………”
 このままでは本当にまたいってしまう。いや、彼女はそのつもりなのだ。
 この後、いっちゃった後も、彼女はあたしを許さないだろう。
 いったいいつまでこれが続くのだろうか………あたしは恐ろしくなった。
 多分、彼女は、あたしがおかしくなるまでやめないだろう。

 「………ほら、いっちゃいなよ。我慢しないで。何回でも何回でもいかしたげるから。…………ねえ、あたしなんかこんなこと、電車の中でされてんだよ?……わかる?…………それがどんなに恥ずかしいか、情けないか………どんなにミジメかわかる?………あんたはそれを、黙って喜んで見てたんだよ。それをオナニーのネタにしてたんだよ。それって、ひどくない?……なんでそんなひどいことができんの?」
 
 “………………………んんんっっっっっ!!!!”2回目の絶頂だった。
 それでも彼女の気持ちは収まらず、あたしはまだ動けない。
 
 「ほら、後ろ向きなさいよ」身体を裏返され、壁に顔を押しつけられる。「さっき見てたよね。あんたのお尻も、あたしがされたみたいにしてあげる
 ゆっくりと指が肛門に入ってきた……あたしは奥歯を噛みしめてその奇妙な感覚に耐えた。
 「知ってた………?人間、お尻でもいけるんだよ
 彼女が言ったことは、本当だった。
 

<つづく>

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