必殺にしきあなご突き
作:西田三郎

「第6話」

■ギャラリーのうちのひとり

 それからしばらく、朝の通学電車で彼女を見かけることはなかった。
 

 しかしあたしは毎晩のように、彼女と、“必殺にしきあのあご突き”と、あの老人のことを思い浮かべてはオナニーに耽った。いや、こんなことを堂々と言うのも何だけど、人生のうちであれほどまでにオナニーに取り憑かれた期間はない。授業中に居眠りが増えたし、中間テストは散々な結果だった。お弁当の時にまた裕子が暢気な痴漢話をはじめようとすると、強引に話題を変えた。
 
 ああ、あたしってこんなに変態だったの?
 
 時々本当に泣きたくなった。しかしあたしの脳裏からあの老人に辱められる彼女の姿は消えず、それはいつも下腹部あたりに種火を灯すのだ……時と場所を選ばず。

 満員電車に乗っているときが一番厄介だった……同じ車輌のどこかに、彼女と、あの老人が居るような気がして仕方ないのだ。あたしは電車の中でいつも彼女を捜していた。そして、ひたすらに再び出会えることを願った……出会った時に何を話すべきなのかはさっぱりわからなかったが。
 
 願いは一月後に叶えられた。
 その満員電車の中で一月前に嗅いだあのシャンプーの香りが漂ってきた時は、夢を見ているのではないかと思った。
 あたしが顔を上げると、目の前にあの老人のもじゃじゃの白髪頭がある……その向こうで彼女は、ドアの窓に押しつけられるような形で立っていた。というか……ドアに貼りつけられている
 彼女の細い肩が小さく震えていた。
 横を向いた彼女の前髪のすきまから、ほんの少しだけ彼女の鼻先と唇が覗いている。
 その唇もまたピクピクと震え、声にならぬ助けを求めているのが見えた。
 
 その場であたしは何をしたろうか?当然だが、彼女を助けはしなかった。
 
 あたしは老人の頭越しに、彼女の下半身で起こっていることを覗き込んだ。ほんとうに最低だと思う。しかしその時のあたしに、彼女を助けようなんていう選択肢はまったく思い浮かばなかった。オナニー狂いのどすけべえ変態女子高生と言われようが、人でなしのけだものと呼ばれようが仕方がない。あたしは覗き込まずにおれなかったのだ。
 
 彼女のスカートは腰までまくり上げられ、パンツは太股の真ん中あたりまで降ろされていた。
 
 きつく閉じられた彼女の脚の間に、老人の人差し指と中指が出入りしていた。
 その指は塗れ光っていて……溢れだした液が一滴……彼女の太股の裏を伝っている。
 
 あたしの頭の中は真っ白になった。全身の血が逆流して、耳の中がドクンドクンと脈打つ。
 喉がカラカラになって……掌にじっとりと汗が滲む。
 
 老人はゆっくり、ゆっくりと彼女の脚の間に指を出し入れしている。
 ぴくっ、ぴくっと彼女の少年のようにすっきりしたラインのお尻が震えるのが見えた。なぜかそれに併せてあたしのお尻も、ぴくっ、ぴくっと反応した。老人は出し入れする指のスピードをだんだんと早めていった。彼女の内股を伝う液の筋が、ひと筋、またひと筋増えていく。
 ……彼女の横顔を見た。
 口がぱくぱくと動き、彼女の目の前のガラスは曇っている
 今や老人は凄まじい速度で指を動かしていた……耳をすますと………何だか湿った音が聞こえてくるようだった。
 
 『あ、あんなふうになるんだ
 
 人の身体があんな風になっているのを見たのは、それが初めてだった。
 というか、オナニー狂いのあたしだけど、少なくとも自分はああなったことはない。
 
 不意に老人は出し入れをやめると、ゆっくりと彼女の脚の間から指を引き抜いた。
 老人の指にこってりとついた体液が、ひとしずく細い糸をともなって車内の床に落ちていく。
 
 彼女はドアに釘付けにされたまま、虫の息だった……しかし老人はまだまだ彼女を許す気ではないらしい。老人は彼女の両膝の間に自分の膝をこじ入れて脚を開かせた。彼女は抵抗できないまま、濡れた内股を晒される。そのまま老人の掌が、彼女の脚の間のさらに深いところに押し込まれた。グイッと、老人が掌を押し上げる。彼女の背中が、ビクッと強ばる
  ………そしてしばしの間緊張を見せた後、また弛緩した。
 
 「………かは………」彼女が窓にさらに熱い息を吹き付けるのが見えた。

 その………多分、奧まで指を入れられたのだろう。

 あたしの位置からはよく見えないが、それだけは判った。
 老人の掌が、彼女の脚の間でゆっくり回り始めた

 「…………は………………あ………………」微かに、彼女の吐息が聞こえる。
 老人の手の動きを凝視していると………ほんとうに湿った音が耳まで届いてきた。
 老人はそうやって彼女の粘膜を、じっくりと、まるで親の敵みたいに執拗にねちっこく責め続けた。老人の掌からもさらに彼女の液が溢れ、それは今や手首あたりまで垂れている。……人によって濡れ方には個人差があると思うけど……その時の彼女の濡れ方には『自然の驚異』を感じた。
 ウケを狙ってこんな表現をしているのではない。
 
 彼女はもう死に体の状態だったが……それでもやはり老人は彼女を許さない。
 
 老人は一旦べとべとになった掌を彼女の脚の間から抜くと、親指と人差し指の間に彼女の液でできた糸を引かせた。ふつうに書いているが、それは卒倒するくらいいかがわしい眺めだった。そして人差し指と中指をまた彼女の股間にねじ込むと、上に立てた親指で彼女のお尻の割れ目を押し開く。
 
 『え……そんな……、う、うそでしょ。……まさか』
 
 そのまさかだった。
 
 親指は難なく彼女のお尻の穴を探し出した。
 一瞬だったが、彼女のお尻の穴が見えた。人のお尻の穴を見るのは、それがはじめてだった。自分のお尻の穴だって、ちゃんと見たことはない。
 というか……ここは満員電車の中なのだ。
 彼女はこの人混みの中で、スカートをまくりあげられて、パンツを降ろされて、散々あそこを指でいたずらされた上に、今度はお尻の穴まで犯されようとしている……とんでもないことだった。

 こんないやらしいことがこの世の中にあっていいのか。

 あたしは自分が見ている目の前のものからだんだん現実感が失われていくのを感じた。

 だいたいここまでの痴態を繰り広げて、何であたし以外の誰もこの事態に気づかないんだ?

 あたしは周囲を見回した……そして、彼女と老人を取り囲む車内の十数人の人々の視線が、彼女の股間と老人の手に集中していることを知った。出勤途中のサラリーマン、作業服姿の若い男、大学生風、あたしと同じくらいの歳の高校生、あたしよりも年下らしい高校生……あたし以外はみんな男だったが、誰もが彼女が辱めを受けている様を、興味津々で眺めている。誰の目もらんらんと輝き、それぞれの顔は紅潮していた。
 ふと隣に立っているハゲの中年の下半身に目をやると、スーツのズボンがギンギンに突っ張っている。
 
 周りに居る誰もが、彼女の受難に気づいており、それを目で楽しんでいた。
 そしてあたしは、その中の一人なのだ。
 
 「…………くっ…………」
 
 老人の親指が、ゆっくり、ゆっくりと彼女のお尻の割れ目に消えていく。
 窓際に、歯を食いしばる彼女の横顔があった。ちらり、と彼女が横目であたしの方を見る。
 
 彼女と目が合った。彼女があたしを認めて、一瞬眉をひそめ、目を背ける。

 彼女はそのまま、あそことお尻の穴を延々と弄ばれ続けた……あたしを含む、何人ものギャラリーが見守る中で。老人の手はますます乱暴に動き、湿った音はますます大きくなる。彼女の太股を濡らす液は今やその柔らかそうな脹ら脛を伝い、紺のソックスを湿らせている。
 
 彼女は何度も歯を食いしばり、背中を緊張させては、また弛緩させた。
 つまりあれは……いかされてるということなのだろうか。
 ここまで狂った事態が展開されているのだ……彼女がいかされてしまったからとて、何の不思議があるだろう?
 
 彼女が3回いきはてたところで、ようやく老人は彼女を許すことにしたようだ。
 べとべとになった掌を彼女の股間から引き抜く……指先からポタポタと液が滴った。
 
 老人は自分のポケットからハンカチを出すと、彼女の内股をきれいに拭い、パンツを引っ張り上げ、丁寧にスカートを元に戻した。
 そして………彼女の両肩を掴み、親指を首筋に当てて、ぐいっと押す。
 あの“ごりゅ”というはっきりした音がすると同時に、彼女はそのままその場所にくずれるようにへたり込んだ。
 同時に、電車が駅に滑り込む。
 「ご馳走様でございました……
 老人はそう言って頭を下げると、ギャラリーが見守る中、開いた反対側のドアから悠々と降りていった。周りから拍手が起きないのが不思議なくらいだった。
 
  彼女はドアの前にへたり込んだまま動かない。
  あたしは彼女に向かって足を踏み出した。
  
  彼女を立たせると、彼女の肩に手を回した。今度はあたしが、これまで彼女が辱められる様を喜んで眺めていたギャラリーたちの好奇の視線に晒されることになったが……どうってことはない。
  電車が次の駅に着くと、あたしはぐったりとしたままの彼女を支えながら、ホームに抜け出した。相変わらず彼女の身体は軽い……まるで中身が入っていないみたいだ。
  
  「気分が悪い………トイレに連れてって……お願い」
  彼女に耳元で囁かれて……あたしの背筋は一瞬ぞくりとした。
 

<つづく>

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