国民の初夜
作:西田三郎

「第4話」

■と、いう訳でベッドへ

 「あっちで……しよ」って……わたし、何言ってんだ
 “しよ”は無いだろう“しよ”は。ああもっと、的確な言葉を選ぶんだったかしら。“抱いて”とか何とかかんとか。いや、でもなあ……さすがに、こういう状況で“抱いて”なんて芝居がかった言葉、出てこないわ。何だかそんな事言うと吹き出しちゃいそう。
 いや、“しよ”っていうのも言ってみると案外エッチで良かったんだけど。
 
 それにしても、焦った。
 ダンナさん、大人しそうな人だとずっと思ってたけど……いきなりパンいち、ブラいちに剥かれちゃうとは。
 それもこんな台所で。さっき雰囲気出してストッキング脱いだんだけれど、あれが効いたのかしらね。
 
 とりあえず中断して、そのままの恰好でベッドまで行った。
 「あの……明かり、消してもいい?」ベッドに腰掛けて、ダンナさんを見上げる。
 「いや、ダメ。……っていうか…………点けたままでもいいでしょうか?
 「……え、あの、だって……それは」
 
 ダンナさんの目は、真剣そのものだった……というか、言葉は丁寧だったが有無を言わせない雰囲気があった。ああ、やっぱり男の人ってこうなのかしら。……こうなんだろうなあ、やっぱり
 
 と、ダンナさんの下半身に目をやる。……たまげた
 
 ズボンの布地が、何かに押し上げられて突っ張っている。突っ張った先は、真っ直ぐにわたしの顔を向いていた。つまり……その、これってアレか。所謂、勃起しているというやつか。ああ、何てことだろう。
 目の前でダンナさんが勃起している。
 当然だが、実際に勃起している男性を見るのはこれがはじめてだった。
 そ、それにしても。わたしはいきなり恐くなった。
 
 つまり……ダンナさんは、わたしを見て勃起しているわけだ。このわたしの身体を見て、それに欲情して、ズボンの前を突っ張らしているわけだ。ダンナさんのそう言った反応は、このわたしに密接に関連しているわけであって……それどころか、その欲情の対象はこのわたし、紛れもないこのわたしなのだ。………ああああああ、どうすればいいのだ。
 わたしの頭の中はごちゃごちゃに混乱し、瞬く間に真っ白になった。
 
 「ああ、もう……ごめん」ダンナさんはいきなり謝ると、わたしに飛びかかってきた。
 「きゃあっ」
 
 いきなりベッドの上に押し倒される。ダンナさんが全体重を乗っけてきた。当然、つっぱってるズボン前も、わたしのお腹あたりにぴったりくっついてくる。ひいい。ちょっと待って。
 ダンナさんの唇がわたしの首筋に押し当てられて、強く吸い上げてくる。同時に右手が背中に回ってきて、ブラジャーのホックを探っている。さらに左手は、わたしのパンツの中に潜り込もうとしていた。ああ、すごい、3つのことをいっぺんにするなんて。
 
 はじめはくすぐったいだけだったが、首筋に唇が触れるたびに、背筋がぞくっと震えた。
 ダンナさんは背中に回した手で必死にホックを探っている。なかなか外れないようだ。わたしはパンツに潜り込もうとする彼の手をなんとか押さえようとした。いくらなんでもそれはあまりにもいきなり過ぎる。いや、どうなんだろう?いきなり過ぎるんだろうか?
 
ふつうはこんな風にいきなりパンツの中に手を突っ込んだりするものなのだろうか?
 
 いや、普通がどうとかそういう問題ではない。ダンナさん、ちょっと焦り過ぎだって。
 
 「待って……待ってって……あっ………いやっ……」

 自分でそう言って、その声が妙に鼻に掛かっていやらしかったので改めてびっくりした。
 ダンナさんは物凄い勢いでパンツに手を入れようとする。
 わたしは太股をしっかり閉じて、両手でそれを封じようとした。首筋にはキスの雨が降ってくる。背中はその度にぞくっ、ぞくっと震える。そして……背中のホックはまだ外れない。
 
 「……あっ……えっ……そんな……待ってって……ねえ、あんっ……」
 
 ああどうしよう。言えば言うほどやらしい気分になってきた。
 ダンナさんもそうらしい。ああ、これは、これはとんでもないわ。わたし、少し初夜を甘く見ていたみたいだ。……かと言って、どんな初夜を期待していたのかといえば、これと言った明確な形はない。とりあえず、コーヒーでも飲んで、それぞれお風呂にでも入って(いきなり一緒に入るってのはどうかな、とか考えていたが……それどころではない)、電気消して、それからネチネチと……いや、ネチネチとって、一体何を考えてるんだわたし。
 

 「き……気持ちいい?」ダンナさんが物凄い鼻息とともに囁く。
 「……いや、その、気持ちいいというか………あっ、やだ……」
 
 ついに背中のホックが外れた。
 ダンナさんはブラジャーを前からひっ掴むと、わたしの腕から抜き取り、部屋のあらぬ方向に放り投げた。自分で言うのも何だけど、案外豊かなわたしの胸がまろび出る。当然、おっぱいを男の人に見られるのはこれが初めてだ。しかも部屋には皎々と明かりが灯っている。ひええええ。わたしは慌てて両腕で抱えるように胸を隠した。
 
 「見せて……見せてくれよう……」
 
 ダンナさんはそう言うとわたしの両手首を掴むと、万歳をするような恰好で頭の上で押さえつけた。
 
 「ひっ……待って……ちょっと……やだ……ええええっ
 
 ダンナさんが左の乳首に吸い付いてきた。思わず身体が仰け反る。
 やらしい、これはやらしい。ダンナさんはまるで赤ちゃんのように、わたしの乳首を吸い始めた。ホ、ホントに男の人って乳首とか吸うんだ、とわたしはパニックになりながらもまた改めて感心した……と、それに気を取られてパンツの中に侵入しようとしていたダンナさんの手を食い止める太股の締め付けが緩くなっていた。
 すかさず、ダンナさんの指が奧に入ってくる。
 
 「ひっ………」
 
 触られた。

 ああ、何てことだろう。
 生まれてはじめて、人に触られててんだわ、わたし。
 いや、子どもの頃から自分で触るのは大好きだった……それっておかしい?……普通?……まあ今となってはどうでもいいけど……それにしても、人に触られるというのは……ああもう、何が何だかわかんないわ。
 

<つづく>

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