百目
作:西田三郎「第3話」 ■誰も見てないよね
部屋中を新聞やシーツやタオルで覆ってしまうことの意味はよくわからないが、そうすることによって鳴門さんはますますエッチな気分になるようだった。
僕は何に対しても、ややこしい細かいことは考えず、実を取るタイプだ。
だから別に、彼女の変なこだわりのことは一旦頭の隅に追いやって、セックスに集中することにしたた……というか、鳴門さんの積極姿勢に身を任せていただけだったのだが。
鳴門さんは僕の口の中で激しく舌を動かしながら、右手でズボンの上から僕の股間をまさぐった。
「……すっごい………もうこんなになってる……」
口を離した鳴門さんの唇と僕の唇には、唾液の糸が引く。
「………だって、そりゃ、もう」僕は訳のわからない返事をした。
鳴門さんの手が巧みに僕のズボンの前ボタンを外し、チャックを降ろして、中に侵入してきた。
「あっ」思わず先に声を出してしまった。
トランクスの上から、鳴門さんが僕のカチカチになっている肉棒をぎゅっと握ったのだ。
と、とろん、とした目で僕を見ていた鳴門さんが、ちらりと覆いの掛かった姿見のほうを見る。
思わず僕もそっちのほうを向いた。
何もない。すっぽりとシーツを被せられた姿見がある以外は。
「どうしたんですか……?」
「………なんでもない」そういうと鳴門さんはガマ口から指を侵入させてきた。
「……おっ」呆然としている間に、肉棒を引きずり出される。
「………すっごい………ねえ、興奮してる?」鳴門さんが悪戯っぽく僕を見上げた。
「……見りゃわかるでしょ」僕は苦笑いしながら答える。
「はむ…」
鳴門さんが僕の陰茎の先を銜えた。
ああ、キスの巧みさからそれは何となく想像できたけど、鳴門さんの舌の動きはとんでもなかった。一体、一見地味で根暗なこの人のどこに、こんないやらしい部分が潜んでいたのだろうか。今の鳴門さんは、居酒屋で働いている鳴門さんとはまるで別人だった。
この変貌と部屋中を新聞紙やタオルで覆いまくる儀式とは、何か関係があるのだろうか?
あっという間に僕はいきそうになり………と、思った時にはすでにいっていた。
鳴門さんの口の中で、思いっきり射精した。
「あっ……すいません」間抜けに謝りながらも、射精は収まらなかった。
鳴門さんはしっかりと目を閉じたまま、律動を続ける僕の陰茎をさらに唇で扱き上げ、さらに両手で睾丸をもみ上げる。ヤバい、……この女はヤバい。僕は思ったがもう遅かった。僕はそのまま激しい快楽に仰け反ると、ベッドの上に仰向けに倒れていた。
鳴門さんは、チュッ、と音を立てると、そのまま僕の躰を這い上がってきて、悪戯っぽく笑う。
そしてごくり、と音を鳴らせて、僕の精液を全部飲んだ。
この上なくいかがわしい眺めだった。
「………気持ち良かった?」鳴門さんが聞く。「ごめんね、あたし、今日ちょっと変みたい」
“今日ちょっと”じゃないだろう、と思ったが、上気した鳴門さんの顔と、濡れ光った唇は例えようもなくいやらしかった。僕は鳴門さんの肩を掴むとそのままベッドに引き倒して、今度は僕が上になった。勃起は収まっていなかった………まあ、僕、若いし。
僕がキスしようとすると鳴門さんは僕の顔を制した。
「だめだよ、きたないよ」後で判ったが、“だめだよ”は鳴門さんのセックスのときの口癖だ。
「ぜんっぜんきたなくないですよ」そう言いながら僕は強引にキスをした。
自分の精液の味がしたが、まあそれも一興だ。
僕はいささか乱暴に、鳴門さんのジーンズを剥いだ。真っ白な太股が、恥ずかしそうに重なり合った。そのまま薄いベージュのパンツにも手を掛ける。
「………ちょっと………ちょっと待って」鳴門さんが言い、僕はまたかよ、と思った。
「何ですか」
「……あの……ちょっと………部屋の中、見てくれる?」見ると鳴門さんはしっかり目を閉じている。
「……え?」
「………部屋の中、ぐるっと見回してくれる?」鳴門さんはそう言うと、ほんの少し薄目を開けた「……誰も、見てない?」
「………?」僕は言われるままに部屋を見回した。
新聞紙に覆われた食器棚やバスタオルを掛けられたテレビあるだけで……誰も見ているはずがない。
「……誰も、見てませんけど……」ってか、誰が見てるってんだ?
「……じゃ、いいや」
鳴門さんはぐったりとベッドに身を預けて、躰を弛緩させた。
一も二もなくベージュの下着をはぎ取ると、大きく脚を開かせてその間に顔を埋めた。
「えっ………やっ…………ちょっとそれ………」いきなりの事に、鳴門さんも驚いた様子だ。「んんんんっ!!!!!」
僕は舌で2、3回鳴門さんの入り口を舌でなぞると、すぐさまクリトリスを探り当ててそこを舌先で刺激した。舐める前から、その辺りはぐっしょりと濡れていた。僕は思う様、舌を動かした。顎のあたりまで、鳴門さんの体液と僕の唾液が混ざり合って垂れた。
「………だ………めだよ…………ちょっと。あ、あ、あ………………んっ………ちょっと待って………待ってってば…………あ、あ、あ、………………んんんっっ!!!!」
鳴門さんの躰がびくん、とうねった。そして大人しくなった。
「……気持ちよかったですか?」
「………もう……どこでそんなこと覚えたのよ………」鳴門さんが拗ねた声で言う「すけべ」
「……挿れていいですか?」
「うん………ちゃんと脱がせて」
そう言えば鳴門さんの上半身は手つかずのままだった。
僕は鳴門さんのTシャツをバンザイさせて脱がせると、ブルーのブラジャーを外した。
案外、悪くない形のおっぱいだった。僕はさっき渡されたコンドームを装着し、鳴門さんを仰向けにして大きく脚を開かせた。内股のあたりまでが濡れ光っていた。
足首を持って、高く持ち上げてみる。
「だめだよ……そんなの」
「誰も見てませんよ」
僕はそのまま、一気に挿入した。
「ああんっ!!!」鳴門さんが僕にしがみついてくる。「ねえ………見てない?誰も見てない?」
鳴門さんが耳元で囁く。
「誰も見てませんってば」
僕がそう言うと、鳴門さんは安心したように、激しく動きはじめた。
さっき口でいかせてもらったおかげで、随分と長くもった。
セックスが終わり、しばらく二人でベッドの上でぐったりしていた。
やがて僕は起きあがり、たっぷり精液をため込んで膨れ上がっているコンドームをぶらぶらさせながら、ユニットバスに向かった。
電気をつけ、中に入る。
ユニットバスの鏡も、ガムテープで固定されたバスタオルで隠されていた。
いざセックスが終わり、冷静になった頭で見ると、やっぱりそれは異様な眺めである。
僕はぶらさがるコンドームをそのままに、恐る恐る鏡の前に掛けられたバスタオルに手を伸ばした。
一体、何が見えるってんだ?
そっと、すこしだけバスタオルを除けてみた。
何ということはない。自分で言うのもなんだが、端正な僕の顔が映っているだけだった。
<つづく>
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