ほんとうにお願いします 作:西田三郎 ■挿入
助平はテメエだろうがと思いながら、おれは河底さんの躰を裏返した。
「え…そんな…」河底さんは口ではそう言っていたが、抵抗なく裏返った。
そんな、じゃないだろ。なんていやらしい尻なんだ。乳と同じく、尻もまた俯せにされても天井を向いている。過剰なまでに存在を誇示する尻である。
おれは河底さんのくびれた腰を掴むと、上に引っ張りげた。また、抵抗はなかった。
「うんっ…」
四つん這いに這わされたその躰を見て、おれは思わず驚嘆した。
柔らかそうに盛り上がった尻。背中は必要以上になめらかかカーブを描き、くぼみを見せている。その上に浮き出た肩胛骨。脚は全体的に長くはないが、膝小僧から尻に至る太股の部分が程良く長い。
まったくなんと言うか…バックから犯されるために生まれてきたような女だった。
河底さんはその姿勢で指を噛みながら、大人しくしていた。尻はゆるやかに、くねり続けてきた。
「つけて…」河底さんが顔を上げずに言った。
「え?」
「ゴム、つけて…」
「あの…どこにありますか」
河底さんが四つん這いの姿勢のまま、おれを恨めしそうに見る。
「何…持ってきてないの?自分」
「…ええ…あの、僕、上手くやりますから…」
「…そこの、ベッドの横の戸棚の、薬箱に入ってるから…」
いらいらしたが、まあ仕方がない。面倒くさいことになっても困るからな。おれは大人しく従った。言われたとおりに薬箱を探ると、“うすうす”の2ダース入りの箱があり、中には半分ほどのコンドームが残っていた。いったいこれまでの12個は誰と使ったんだ?ぜんぶ、違う相手と使ったのかも知れない。そのうちの一個は、おれをこの部屋に来るようにそそのかした、経理の吉田係長なんだろう。吉田の助平野郎は、そのうちの何個を使ったんだろうか?おれの後にはこの残りのコンドームを、誰が使うんだろうか?
ともあれおれは慌てる手で袋を破ると、もはや爆発寸前になっている自分の陰茎にコンドームを装着した。装着しているうちに、射精してしまいそうだった。気をつけておかないと、1分ともたないかも知れない。
その間、河底さんは四つん這いの姿勢のまま待っていた。尻を相変わらずくねらせて。
準備が終わり、おれは河底さんの尻に向き直った。
河底さんはくねらしていた尻を止めて、シーツを噛んだ。
「声、出してもいいんですよ…」
「あほ…この部屋、壁、薄いねん」
おれは河底さんの手を取ると、後ろに延ばして、コンドームを填めた陰茎を握らせた。
「あ…」
「もう、こんなんですよ」
「…あほ…んっ!」
おれは陰茎の先を、河底さんの入り口に軽く触れさせた。
河底さんの腰がまたゆっくりとうねり始める。その動きだけで、逝きそうになった。
「ほしいですか?」
「あほ…もう…勝手にしいや…んあっ!」
おれは一気に陰茎を挿入した。充分に潤んだ内壁はまったく抵抗なくそれを受け入れ、受け入れた途端にきつく締め上げてきた。
「ちょっと…河底さん、締めすぎですよ…」
「…ああっ…あっ…」
先に島本さんが動き始めた。台所で見せた動きより、ずっと官能的で、ねっとりした動きだった。
尻は前後に動き、きつく締め上げる入り口がおれの陰茎をゆっくりとしごいた。
この売女!止めんか!すぐ出ちまうだろーが!
おれは負けじと腰を動かし始めた。とりあえず前後に。
「…あっ…ああっ…あっ…くうっ…んっ…ああっ…」
そうすると今度は尻が円を描いて動き始めた。どうなってんだ?
おれはその動きに逆らうように、逆回転に腰を回し始めた。こんなに工夫しなければならない性交は生まれてはじめてだった
「やっ…んんっ…くっ…あんっ…ああっ…はっ…」
「河底さん、近所に…近所にまる聞こえですよ…」
河底さんは一瞬うらめしそうにおれを振り返ると枕に顔を埋めて声を押し殺した。
尻は好き勝手に動き回る。おれはそれに追撃されぬよう、全知全能を駆使して腰を使った。
まったくなんていやらしい女だ!おれはもはや何も考えられなくなった。
長く持たせようなんていう考えは放棄した。どうせもう持ちそうもない。
とにかく激しく前後に動き、河底さんを突き倒した。
この売女!あばずれ!会社全員の男をたらし込んでる淫乱女が!今まで一体何人の男とヤッてきたんだ!一体、はじめてヤッたのはいくつの時だ?中学のときか?小学校のときか?幼稚園のときか?そうでないと一体どうやってこんなにファックが得意になるんだ?このダッチワイフが!肉便器が!三度の飯よりファックが好きなど助平女が!
おれは様々な罵詈雑言を頭の中で並べ立てながら、河底さんを突きまくった。
「んんっ…んっ…んんんっ…くっ…」
枕に顔を埋めた河底さんは、尻を踊り狂わせ、弓なりに沿った腰でウェーヴを描きながら、快楽をむさぼり食っていた。いい気なもんだな!こっちは死ぬ思いなんだ!
「んんんんんんっっっっっっっっっっ…!」
だしぬけに、河底さんが高く腰を突き上げる。
両脚をぴんと伸ばし、枕に押しつけた顔とつま先で体重を支えているような格好になった。
繋がっているおれの体も、吊られてふらりと持ち上がる。
締め付けていた内壁がさらにきつく陰茎を締める。まるで雑巾絞りをされているようだった。
「だあは!」おれはなんだかよく分からない悲鳴を上げて、一気に放出した。
「んあっ…」
島本さんの腰がまだ下がる。そしておれの陰茎をくわえ込んだまま、千切らんばかりに尻が振り回された。
「おっ…おっ…おうっ…」今度はおれが悲鳴を上げる番だった。
一回射精したものと思っていたが、その動きのせいでおれの陰茎はいつまでも、いつまでも律動を続けた。永遠に終わらないのではないかと一瞬怖くなった。まるで最後の一滴まで搾り取られているかのようだった。
「はあ…」
河底さんの力が尽きて、尻がベッドに沈み込む。
その拍子におれの陰茎が抜けた。コンドームの先の精液溜まりには、はち切れんばかりに高濃度のザーメンが溜まっていた。おれはもう27。ほんの10分ほど前に、1回射精している。
おれは俯せになった河底さんの裸の背中の上に覆い被されるように倒れ込んだ。
お互い完全に息が上がっていて、しばらく言葉は出せなかった。
やがて少し落ち着いてから、島本さんの方が口を開いた。
「けだもの…」そう言って島本さんは、いたずらっぽく笑った。
けだものはアンタだろうが。おれはそう思ったが、答えずに目を閉じた。
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