ハードコアな夜
作:西田三郎「第6話」 ■いつもダンナさんこんなことしてくれるかい?
さて、話を戻そうか。
「…ん……く……」ときおり“奥さん”は鼻息混じりの声を出す。
ベッドの上に仁王立ちになっていたおれは、いつの間にかトイレに行くのを我慢している奴みたいな、情けない前屈みの姿勢になっていた。
ブラジャーとショーツだけの“奥さん”は、おれの前に跪き…1週間前に同じ事をしてくれた時よりも、ずっと露骨でねっとりした舌使いで、おれの肉棒に舌を這わせていた。
“奥さん”は上気した頬でしっかり目を閉じている…が、時々薄目を開けておれを見上げ、そしてちらりと横目で床に転がっているダンナさんの方を見る。おれもダンナさんの方を見た。ダンナさんの顔は真っ赤だった。そして肩と腹が大きく息づき、ズボンの前をこれ見よがしに突っ張らせて、ゆっくり腰を前後させている。
“奥さん”は時々顔に掛かった髪を掻き上げて…“夫の目の前で卑劣な侵入者に口を犯されている妻”のあられもない横顔をダンナさんに見せつけた。
それにしても……“奥さん”の舌の動きはどうしようもなくいやらしく、かつ的確である。
あの大人しそうな、聡明そうな“奥さん”がおれの前に跪き、淫らに舌を動かしている。
あの喫茶店で、ちゃんと服を着て、まっすぐおれの目を見つめて真剣に話していた“奥さん”の姿を思い描くと……いかん、これでは出てしまう。
「……ふーん、“奥さん”、なかなかやるじゃねえか。え?」
「………」“奥さん”は固く目を閉じて何も言わない。
「……なあ、あんた」おれはダンナさんを見て言う「毎晩、こんなふうに念入りにしゃぶってもらってるのかい?……いやあ、うらやましいねえ。“奥さん”、本気でしゃぶってるよ。毎晩あんたにしてるより、ずっと熱心かもよ?……なあ、“奥さん”」
「……ん」
「……どうだい?固いかい?………もうすぐこれを、あんたにブチ込んでやるからね……」
「……うっ」
“奥さん”がなまめかしく肩を挙げた。あ、ちなみに言っとくけど、こうした台詞はぜんぶ、あの“段取り”の中に書いてあったことだ。まあ、細部ではおれのアドリブによって補ってるとこはあるが…なるべく“段取り”から大きく外れないように、気を遣っていた。…少なくともそのあたりまでは。
「……さて、“奥さん”、そのへんでいいぜ」“段取り”通りにおれは言った。事実、それ以上続けられるとマズかったのだが「……“奥さん”ばかり働かせちゃあ、不公平ってもんだ。“奥さん”、今度はあんたの番だよ」
「…いや…」“奥さん”がおれの顔をゆっくりと見上げ、ベッドの上を後じさる「いやっ!!」
「…今更何言ってんだよ」
おれは“奥さん”に覆い被さって、その躰を押し倒した。
背中に手を回して、ブラジャーのホックを外す。非常に弱々しい抵抗をものともせずブラジャーを抜き取ると、次はショーツに手を掛ける。降ろされまいとする“奥さん”の手の動きは、これまた容易い。おれはあっという間に、“奥さん”を辛うじて覆っていた2枚の頼りない布っきれをはぎ取ると、一緒に丸めて、ダンナさんの方に投げた。上手いことそれは、ダンナさんの顔面に覆い被さった。
ベッドの上で躰をよじって胸と股間を隠そうとする(ふりをしている)“奥さん”の肩に手を掛けて、強引に仰向けにさせる。そして胸を隠している両手の手首を取り、頭の上で重ねて押さえつける。
“奥さん”はおれから顔を背けた…そしておれは、改めて“奥さん”の躰をじっくりと鑑賞した。
いったいこのスリムな躰のどこにそれが隠されていたのだろうと思うほど、豊かでまるい乳房がまず目に飛び込んでくる……乳輪は小降りで、その中央の乳首はすでに固くとがっていた。
落ち着いてくると、さらに“奥さん”の躰の様々な部分を心の中で評価することができた。
一週間前には、こんなふうにじっくり目で愉しむ余裕はなかった。
何度でも言うが、“奥さん”の肌は真っ白でなめらかである。しなやかな躰は亢奮でゆっくりと息づき、肌が次第に薄くピンク色に染まっていくのが見えた。首筋から鎖骨のライン、胸の丘陵からくぼんだ鳩尾、縦型のきれいな臍からなだらかにまた坂を描く下腹…薄目の茂みから固く閉じられた真っ白な太股…その部分は長く、可愛らしい膝小僧からしまった足首までの臑部分は、さらに長かった。すべてが自然に繋がっていて、不自然なところは何もなかった。“奥さん”の躰は小さな宇宙だった。「……や……」“奥さん”が荒い息をしながら、また身をよじろうとする。
“段取り”どおりだったが…おれはほんとうに我慢できなくなり、目出し帽の縁を鼻の上までまくり上げると、“奥さん”に吸い付いた。
「やっ……!あっ…………んっ」
首筋を吸い、そのまま両方の手を遣って乳房をこね上げる。そろり、そろりと舌を胸元まで這わした。そして右の乳房を握りながら、左の乳首に吸い付く。
「…………くっ………いやっ…………あっ……うっ」
舌で乳首を転がしながら、もう片方の乳首をつねるようにして刺激する。そして掌全体でその柔らかさ、吸い付くような肌の質感を味わう。おれが強く吸ったり、甘噛みをすると、“奥さん”の躰がびくん、とベッドの上で踊った。たっぷり時間をかけて左右の胸を弄び…飽きると舌と手を左右交代させて右の乳首を吸い、左の乳房を揉んだ。
「………ん………ふ………くっ………や………やめ……て…」
“段取り”にあったとおりに“左右対称の責め”を心がけながら、おれは名残惜しく魅力的な胸から舌に這いおりると、両手で乳房をこってりと揉み続けながら、舌を臍まで下降させた。
「あふっ……や、……やだ」
臍に舌を入れた。綺麗に掃除されていたようで、味はしなかった。
さらに下へ下へと…自分の舌を這わせていく。
「……あ……いやっ………だめ………それ…………や、やめて………んっ…!!」
乳房を揉んでいた手を“奥さん”の腰まで移動させて、しっかりと腰を固定する。
そしておれは“奥さん”の脚の間に顔を突っ込んだ。
“奥さん”は弱々しく脚を閉じようとしたけど、おれはさらに両肩をねじこんで“奥さん”脚を大きく開かせた。
「……いや……いやあ……」“奥さん”が背けた顔を自分の手で覆う。
これは“段取り”にはない、完全なおれのアドリブだった。
何故かと言うと…1週間前、ビデオカメラの前でした時、“奥さん”はおれにこれをさせてくれなかったからだ。そして“段取り”にもこの行為をする指示はなかった…しかし、もはやここまで来ているのである。ほんの少しのアドリブは許されるだろう。
目と鼻の先で、熱くなった“奥さん”のくちびるが息づき、溢れた液がその周りをべっとりと濡らせている。“奥さん”は何とか脚を閉じようとしたけど、おれはそれを許さなかった。
「…い、いや……やめ……て………お願い……」蚊の鳴くような声で“奥さん”が言う。
ダンナさんの方を見ることができないのが残念だった。
どんな顔をして、どんな思いで、どれほど亢奮してダンナさんはこの光景を眺めてるんだろう?
それを思うと気が逸った。
おれは慎重にその唇に指を添え、左右にくっ、と開いた。
「……あっ…」“奥さん”の腰がまた、びくん、と跳ねる。
舌を伸ばして…唇の上端にある突起にちょん、と触れた。
「…………はあっ…」“奥さん”の躰が海老のように反った。
おれは舌を動かし始めた……先ほどの“奥さん”の舌に負けないくらい、念入りに、丹念に…かつ淫らで、いかがわしく。おれのこれまでの大して自慢できるほど豊かではない性体験の中でも…それは多分、もっとも丁寧な仕事だっただろう。
「……いやあっ!………あっ…………んんっ………くうっ………はっ………あんっ!!…」
“奥さん”はまるで、つり上げた魚みたいに烈しく跳ねた。
やがて“奥さん”の両太股はおれの頭を挟み込み、“奥さん”の手はおれの目出し帽に包まれた頭を、かき回すようにやさしく撫でた。
「……あ、ああ……」
おれは口を離して言った。
「……どうだい、“奥さん”。気持ちいいかい?ダンナさんいつも、こんなことしてくれるかい?」
「……」
返事がなかったので、おれはまた舌を動かし始めた。
返事の代わりに“奥さん”は狂ったみたいに悶え、喘いで……しまいにはブリッジの姿勢で、躰を突っ張らせた。NEXT/BACK TOP