インベーダー・フロム・過去
作:西田三郎「第21話」 ■エンド・オブ・ザ・インヴェンション
目かくしされたまま、全部脱いだ。部屋は温かかったが、わたしは震えた。
公一と小泉の視線がぬめぬめと全身を覆っているようだった。
「……どう?何が見える?」公一が静かな声で言う「……今、君にはおれの姿も、彼の姿も見えない。何も見えない中で、誰の顔が浮かんでくる?」
静寂と暗闇の向こうで、新たに煙草に火を点ける音が聞こえた。小泉が煙草に火を点けたのだろうか。なるほど、あの朝、灰皿には確か、3種類の煙草の吸い殻があった。わたしと、公一と、小泉、3人がこの部屋で煙草を吸ったのだ。
「……男の顔が見えないかい?毎晩夢に出てくる、あの男の顔が」
「……」わたしは黙って首を振った。
ほんとうにわたしの瞼の裏には誰の顔も映らなかった…ただ、闇があるだけだった。
「……こんなふうにすれば思い出すかな。この前の晩みたいに」
公一がふいに、わたしの背後に立った。
「ひっ…」公一が耳たぶに吸い付く。ぞくり、と背筋が踊った。
「……こんな風にされるのが好きなんだろ?」
「……そんな…」わたしは言ったが…もう声も震えている。
「……知ってるよ。君が毎晩のようにうなされはじめると、僕はいつも君の耳をこうやって舐めてたんだ……知らなかったろ?…そうするといつも君は、いい声を出して鳴くんだよ」
「あっ」
ベッドの上に押し倒された。
「もう跡が消えてるね」わたしの上に覆い被さった公一が言う。「たくさん跡を残したのに……まあ、君にとっては記憶もキスマークも変わらないんだろうね」
「んっ」左の首筋を強く吸われる。3週間前、キスマークをつけられていたところだ。
「ほら、小泉くん、君もおいで」
「えっ」小泉が戸惑う「…今日もですか?」
「…うん、君もしたいだろ」
「……」小泉は黙っていたが…やがて彼がシーツの上を這ってくる音がした。
「……んっ……くっ……」
ふたつの唇が、躰のいたるところに吸い付いてきた。
左の脇腹、右足の付け根、左右の太ももの内側に……それだけじゃなかった。おへその下も、両方の乳首も……それから裏返されて、四つん這いにさせられてお尻にも背中にも、膝の裏にも、脹ら脛にも。二つの唇はすべてを強く吸って、わたしの躰じゅうをキスマークだらけにするつもりらしかった。
「……あ、や、………ん………くっ……」
わたしはそれだけで充分熱くなっていた。どちらがどちらの唇なのかは、はじめは考えたけれども、すぐそんなことはどうでもよくなった。左右から、乳首を吸われた。背中を反らせて、その感覚をしっかりと受け止めた。躰はなんだか全体的にぬめってきたようだ。わたしの汗と、二人の唾液で。
「……あ………」脚の間に、手が入ってくる。わたしはお尻を突き出していた。
「……3週間前は洪水みたいですごかったけど、今日もそうなりそうだね。もうべちゃべちゃだよ」
亢奮のせいか、公一の声には少し金属的な響きが混ざっていた。
と、ふたつの唇がわたしの脚の間に殺到した。
「いやあっ……」
二人とも、聞く耳は持たなかった。多分男二人でキスしてるみたいな感じだったのだろうけど、わたしの脚の間…その、前からお尻の穴にかけての部分を2本の舌が絡み合いながらなめ回した。さすがにお尻を逃がそうとしたけど、二人係がかりで押さえつけられて逃げることができない。それどころか、頭をシーツの上に押しつけられ、もっと高くお尻を上に上げさせられた。
とんでもなく恥ずかしい格好だったと思う。そして二人の舌の攻撃は情け容赦なかった。
「……ああっ……………あっ………あ………あ………いい……すごい……いい」
「3週間前もそんなふうに言ったね」と公一。
「………して………めちゃくちゃにして…………」
「3週間前もそう言ったぞ」
二人がシーツの上を動き回る音がした。
「あぐっ……」口の中に硬く、熱くなった肉棒が押し込まれた。
はじめは誰のものか判らなかった。しかし言われるまでもなく舌を動かし、そのかたちを確認し、味わうと……それが公一のものではないことが判った。しかし…もうどうでも良かった。普段公一にしているように……この3週間、数多の男達にしたように……わたしはめちゃくちゃにそれを舐めた。
「……おっ………うっ………おお、奥さん、ヤバいですよ……うおうっ……」小泉が情けない声を上げる「めちゃくちゃいいよ………この前より………ずっとイイっすよ…あうっ!」
つまり、この前もわたしは小泉の肉棒を舐めたということか。わたしはさらに舌をいやらしく、ねっとりと動かしてみた。あっというまに小泉は四の五の言えなくなった。
「……すごい。3週間前と同じだ……太股まで溢れてるよ」背後から公一が言う。「この3週間、一体何人とやったんだ?そいつらの前でもこんなに濡らせたのか?そんなふうにしゃぶったのか?」
「……」わたしは答えなかった。口の中には小泉のものが入っていたし、忙しかったのだ。
「……で、見つかったかい?夢の中に現れるシラハマだかシマハラだかは?誰がシマハラなのか判ったか?過去の男たちの中の、どいつがシマハラだったんだ?」
「……それは………んっ!!」
挿入された。
一気に根元まで。多分、避妊はなしだと思う。
「は……あ…………」思わずわたしは小泉のものを口から出した。
ぎちぎちと、公一の肉棒をわたしの粘膜が締めた。まるで粘膜でそのカタチを確認しているみたいだった。確かに公一の言うとおり、わたしはこの3週間、過去の男達を巡礼して、その全ての肉棒を味わった。人それぞれ、セックスのやり方があって、人それぞれ、肉棒のカタチがある。そして、今わたしがくわえ込んでいるのは、夫の肉棒だった。それが一番良かったかって……?さあ、そうだというと偽善になるだろう。しかし……わたしは深々と肉棒を突き入れられながら……本来自分が居るべき場所に、帰れたような気がした。
公一が動き始めた。
「あっ……あっ…………んっ…………ああっ……………んっ…ああっ…ああああああっ」
無我夢中で腰を振りたくった。
そして目かくしをされながら、目の前にあるはずの小泉の肉棒を手探りで探した。小泉はわたしの手を取って、さらに熱く、硬くなり、わたしの唾液と彼の出した先走りとでべとべとになった肉棒を握らせた。慌ててほおばり、舌を烈しく動かす……。もうメチャクチャだった。
あっという間にわたしはイきそうになった。
「あ………い…………や……………いく………」
「まだだめだ」そう言って公一が、不意に腰の動きを止める。
「………そ、そんな…………」
「イかせてほしいかい?」言いながら公一は手を前に回して、剥きだしになっていたわたしのクリトリスをいじった。
「………ひっ………やだ、だめ………いやあっ……」
「……イカセてほしかったら、今ここで約束するんだ」淫核を捏ねながら公一が言う「イきたいだろ?」
「……い………い、か……せて………」
「じゃあ、約束してくれ。このことを忘れないって。ほかのことみたいに、このことをすっかり忘れないでほしい。ずっと覚えておいてほしい…?できる?」
「………」わたしはぶんぶんと首を縦に振った。
「……よおし……約束だよ」
そしてあと3回ほど深く突き入れられて………わたしはラブホテル中に聞こえそうなくらい大きな声を上げながら絶頂を迎えた。意識が戻るのに、1分ほど掛かった。
息も絶え絶えになりながら、わたしはベッドに俯せに横たわっていた。
公一と小泉の荒い息が聞こえる。
「公一……?」わたしはそのままの姿勢で言った。
「何?」
「今、わかったよ」
「何が?」
「…シラハマもシマハラも、わたしの過去には居ないんだよ。存在しないんだよ」
「………」
「………シマハラが居るのは…………わたしの夢とあなたの妄想の中だけ」
しばらくそのまま、3人とも無言だった。
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