インベーダー・フロム・過去
作:西田三郎「第15話」 ■カウンター・アタック
何も解決していないし、公一は帰ってこない。連絡もとれない。それでも朝はやってきた。
通勤電車やっぱり満員で、やはり彼=“侵略者”=“シマハラ”は現れた。「おはよう」耳元で囁かれる。
「…」わたしは驚きもしなかった。振り返って彼の顔を見ようともしなかった。
「……どうしたの?冷たいじゃん」“侵略者”がまた囁く。「……一昨日の晩は、凄かったね」
「……」無視を続ける。ほんとうに心の中は地下湖の水面みたいに静まり返っている。
「……なんで無視すんの?」男が不満げに言う「おとといは伊佐美ちゃん、あんなに乱れて、やらしいことさせてくれたのに」
“侵略者”の手が綿のスカート越しに、軽くわたしのお尻をなでた。
まるで夢の中の出来事のようで…わたしはその感覚をリアルに感じることができなかった。
「……覚えてないし」あたしはボソッとつぶやく。
「……覚えてない?」“侵略者”の手がピタっと止まる。「……ほんとに?ぜんぜん?」
「……うん」
「………」“侵略者”は手を動かさずに、しばらくじっとしていた。
わたしは大人しくしていた。
「……ねえ」あたしは振り返らずに言った「シマハラくんなの?」
「………」男は動かない。返事もしない。
「……答えて。あんた、シマハラくんなの?」
「………ほんとに、ぜんぜん覚えてないの?」“侵略者”=“シマハラ”は……明らかに狼狽している。「おれのことも?おとといの晩のことも?」
「………ぜんぜん」わたしは言った「ねえ、そんなことよりあんた、ほんとにシマハラ君なの?」
「………」“シマハラ”は明らかに狼狽している。彼の動揺の匂いを嗅いで、わたしは少し気分が良くなった「………ほんとに覚えてないんだ……」
「……あんたこそ、覚えてる?二人で白浜に行ったの。バイクのうしろに乗っけてくれたよね?」まるで台詞を棒読みするように、現実感を失ったわたしの唇が勝手に喋っていた。「ほら、あのボート小屋。覚えてる?…?ねえ、二人で一緒に入ったよね?」
わたしは後に手を伸ばして……“シマハラ”のズボンの上から股間を握った。
「…ちょっと……」“シマハラ”が腰を引いた。わたしは逃がさなかった。「おい、ちょっと…」
「…ごめんね、わたし、あんたの事忘れてたよ。すっかり。あんなに気持ちよくしてくれたのに、ほかの男たちみたいにすっかり忘れちゃってた」
わたしは後ろ手でゆっくり“シマハラ”のズボン前を上下に撫でた。“シマハラ”は狼狽えながらも、だんだんズボンの前を熱く、固くしている。滑稽だった。滑稽で、いい気味だった。
「……待てよ……あっ」ファスナーを下げてやった。すかさず指を入れると、下着を持ち上げる熱い肉の感触を感じた。「……待てって……ちょっと……」
「……触ってよ。いつもみたいに」わたしは左手で“シマハラ”の手首を掴み、自分のスカートの前に擦り付けた「……ほら、触ってよ。触って、思いださせてよ」
「………」おずおず、“シマハラ”の手が動き始める。
“シマハラ”はそろそろとわたしのスカートの前を捲りはじめる。わたしは“シマハラ”のズボンのファスナーの中に入れた指を複雑に動かした。“シマハラ”の腰がびくん、と跳ねる。
その反応にわたしがくすっ…と嗤ったのが合図だった。
“シマハラ”はヤケクソになったのか、スカートの前から乱暴に手を入れてきた。
“シマハラ”の指が、直接触れる。
「んっ」こんどはわたしがびくん、と跳ねた。
「ああっ?」“シマハラ”の指がまた大きく戸惑う。「……あ……あの、これ……」
「……うん」わたしは自分でゆっくり腰を動かし始めた。「履いてないんだ、きょう。…びっくりした?」
「……ひっ」わたしは“シマハラ”の下着のがま口を探り当て、指を滑り込ませた。
わたしも直接、触ってやった。さらに自分の手の上にお尻を押しつけて、ゆっくりと腰を回す。
「……ほら、濡れてるでしょ」わたしは言った「あんたも濡れてるけど」
わたしは指先に“シマハラ”の先走りの液を絡めた。“シマハラ”の肉棒は、ますます固く、熱くなった。
スカートの中に入った“シマハラ”の手を太股で強く締め付ける。逃げ場を失った指が藻掻いた。
死んでも離さない勢いで、わたしはさらに手を挟み込む。
「ど、どうしたんだよ」“シマハラ”が悲鳴に近い声を出す「どうしたんだよ、今日は」
「……べつに。いつもと同じよ」わたしは言った「あんたも言ったでしょ。わたし、いやらしいの」
「………」
わたしの脚の間で大人しくしていた“シマハラ”の指が…観念したように動き始めた。
いつもの、あの…的確な動きで。
「……んんっ……」思わず逃げそうになった自分の腰をしっかり据えて…わたしの方も指をできる限り…いやらしく動かした。
「……あっ……はあっ…」“シマハラ”が吐息を吐き…いつもみたいにわたしの耳たぶを噛む。
「……ん………」
全身にびりびりっと電流が走った。
わたしはおびただしく濡れて……“シマハラ”の手をべとべとにした。スカートの中はむせかえっている。滑らかに、せわしなく、“シマハラ”の指先がクリトリスをこねる。わたしは痛いくらいにしっかりと唇を噛んで、出そうになる声を堪えた。できるだけシマハラの指の動きに合わせるように…わたしも“シマハラ”の亀頭を弄んだ。あっという間にいきそうになった。
だけど“シマハラ”だって…もうそれほど持ちそうにない。
気持ちよかった。いつもよりずっと。
「………あっ」声を出してしまった。
“シマハラ”の人差し指が、ぬるり、と奥まで入ってきたのだ。さらにもう一本、指が入ってくる。意識せずともわたしの肉が、勝手に2本の指を締め上げた。“シマハラ”はそのまま乱暴に、指を抜き差しはじめた。
「……ほら……ほら……こ……これ……これが好きなんだよね、伊佐美ちゃん。これが、欲しかったんだよね……いやらしいね、伊佐美ちゃん。ほんとうに……いやらしいね」
「……シマハラくんだって…」わたしは“シマハラ”の亀頭をつねった「ほら…」
「おうっ…」すかさずわたしはズボンの中で“シマハラ”の肉棒を乱暴に扱き上げた。
「……は……あ、………んっ」“シマハラ”も激しく指を出し入れする。
どれだけお互いの快楽を貪りあっただろうか。そう長い時間は掛からなかった。
「あ………う………」“シマハラ”のズボンの前が高くなった。どうやらつま先で立っているらしい。「………ああ……………お…………うっ!!」
わたしがいく寸前のところで、“シマハラ”は敢えなくズボンの中にしたたかに射精した。
パンツの中でいかせてやったので、多分わたしの服にはかかってないはずだ。わたしの脚の間の指の動きは、すっかりお留守になった。わたしはそれでも許さなかった。まだびくんびくんと律動している“シマハラ”の肉棒が勢いを失う隙も与えずに、さらにそれを扱き上げてやった。パンツの中は精液でべちょべちょになっていたので、わたしが肉棒をしごく淫らな音は、周りに聞こえそうだった。
「……あ……っちょっと………ちょっと………もう勘弁………あっ………うっ!!」
“シマハラ”は続けざまに射精した。一滴残らず搾り取ってやるつもりだった。
わたしは指を休めなかった。
と、電車が駅に着いた。
わたしと“シマハラ”を含む乗客の濁流が電車の外に流れ出す。
“シマハラ”はチャックを開けてズボン前を濡らせたまま、わたしから逃げようとした。わたしはその手をしっかりと掴んで離さなかった。
階段の手前で、“シマハラ”の脚を停めた。
わたしと“シマハラ”を除くほかの人々は勢い良く階段を降りていく。
“シマハラ”はもう逃げるのを諦めていた。
わたしは“シマハラ”の顔を見た。そして、愕然とした。
濃い眉にはっきりした二重。鼻は大きくて唇は分厚い。男性的な男前だった。
昨日みた夢の続きで見た“シマハラ”の顔とは、全く違っていた。
しかもその男はとても若くて…ついさっき二十歳になったとこ、という感じだった。
「………シマハラくん?」わたしはぽかんと口を開けて言った「……違う……よね?」
「………離してくれ!」
“シマハラ”は…いや、“シマハラ”ではないその男は、わたしの手を振り払うと、ものすごい勢いで駆けだした。わたしはあまりに呆然としていたので、その跡を追うことができなかった。
わたしの頭は、ひどく混乱していた。っことは、誰なんだ、あれは。
気が付くと…ホームの少し離れたところに見覚えのある顔が立っているのに気付いた。
おととい、わたしがさっきの男に痴漢されているのに“便乗”して、わたしのあそこに指を突っ込んだおたく風の学生だった。多分、電車の中で全てを見ていたのだろう。ビビッたのか、呆然として立ちつくしている。
わたしは彼と目を合わすと、……まったく無意味に……力無く笑いかけた。
おたく風学生は回れ右をして…脱兎のごとく逃げ出した。<つづく>
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