インベーダー・フロム・過去
作:西田三郎「第12話」 ■ダンナの目の前でされたこと
「ねえ、昨日ダンナさんが帰ってくるまでに、自分の手でもしたでしょ。だっておれ、昨日すごい中途半端なとこでやめちゃったからね。…ごめんね」
“侵略者”が耳元で、わざと熱い息を吹きかけるようにして囁く。情けないけど、一言一言囁かれるたびに、わたしの躰からは力が抜けていくようだった。息を吹き込まれているほうの耳たぶは破裂しそうなほど熱くなり、額に汗が滲む。厭な汗だった。しかしそれでも一言一言囁かれるたびに…いやだ。頭がぼんやりしてきた。
「…ねえ、お願い、やめて…」わたしは“侵略者”に言った「……今日は……やめて…」
「…なんで?ダンナさんが居るから?」今度はわたしの首筋に軽くキスをする。軽く、慎重なキスだった。「ダンナさん、こっち見てるよ。ほら」
「んっ…」
言われるままに、公一の方を見た。
異様にぎらぎらした目で、公一はわたしを見ている。いや、わたしだけを見ているんじゃない。公一は、わたしたちを見ていた。
その目に怒りはなかった。悔しさもなかった。わたしを、今、目の前で辱めようとしているこの“侵略者”に対する憎しみもなかった。その目から見受けられたのは、純粋な、少年のような好奇心だった。多分、いま公一の胸は、初恋のときのようにときめいているに違いない。
“ときめいてる”なんて、このシチュエーションに最も相応しくない表現だと思う。
でも、やはり公一の目はそれを物語っている。
夕べあれほど激しくセックスした時も、公一はあんな風にわたしを見なかった。
結婚して以来、わたしはあんな目で公一に見られたことはない。「…こういうの、燃えるんじゃない?ダンナさんの前で恥ずかしいことされるのとかさ」
「そっ…そんな…あっ!」
“侵略者”はまるで皮を剥くみたいにわたしのカーディガンをぺろんと肩から剥がし、肘のあたりまでずり下げた。カーディガンがそこで引っかかり、わたしの両腕は後に回される。目の前のおやじと、おたく大学生が目を丸くする。男はおやじとおたく大学生の期待に応えるように、わたしのブラウスのボタンの一番上を外した。
「やっ…やめ…」あたしが首を振って暴れると、“侵略者”がわたしのうなじにちゅう、と音を立てて吸い付く。「んんんっ…!」
「ほらほら、暴れちゃダメだよ。ダンナさんによく見えないじゃないか」
「…いや…」また一つ下のボタンを外された。あっという間に3つめも。
公一を見る…馬鹿みたいに、ぽかんと口を開けて見ている。馬鹿!アホ!助けろよ!!
「ほーれ」そう言って“侵略者”は、わたしのブラウスの前を、目の前のおやじと大学生と…そしてそれを凝視している公一に見せつけるように、広く開いた。どんなブラジャーをしてきていたのか忘れていたが、一番常套な、レースのついたやつだった。「ほら、見てるよ。ダンナさんも」
「……やあっ……」ブラの肩紐に手が掛かる。
“侵略者”が何をしようとしているのかは明らかだった。もうカーディガンが伸びても、周りに気付かれてもいいや。これからとんでもなく恥ずかしい思いをするよりは…。と、とんでもないことが起こった。“侵略者”の手を払おうとしたわたしの右手首を、目の前のおやじに掴まれたのだ。
「?!」おやじは鼻の頭に油っぽい汗をかいていた。そしてわたしの手を引き寄せると…「…やっ!」
おやじは何と、自分の背広のズボン前に、わたしの手を導いたのだ。
なんて事だろう…おやじのは、ズボンの中でもの凄く固くなっている。わたしは慌てて手を引き戻そうとしたけど、おやじの手はわたしの手首をがっちりと握って離さない。
「ちょっと、やめ…」わたしは自由な左手を使って手首を取り戻そうとした。「えっ??」
信じられないことに、その左手も掴まれる。見上げると、おやじの隣に立っていた大学生風のおたくっぽい奴が、おやじと同じように鼻の頭に汗をかいて、ニタニタ笑っていた。
「……そんな……あっ」
おたく大学生はおやじに倣うように、わたしの左手を自分のGパンの前に擦り付けた。こっちもおやじに負けず、かちかちになっていた。でもどちらかというとおやじの方が…って何を考えてるんだろうわたしは。そんなふうに、わたしの両手の自由は奪われてしまった。
「あらら、なんだろうね、この人たち。まるでコバンザメだね」“侵略者”が耳元で囁く。
「……ん………やっ…!……いやっ!」
そう言いながら、“侵略者”はブラジャーの後ホックを悠々と外した。そして、前に手を回して……そのままブラジャーをおっぱいの上まで引き上げた。
「いやあっ……」人前でこんなに恥ずかしい姿にされるなんて…公一も見てるのに…。
わたしの手をそれぞれの股間に擦りつけているおやじとおたく大学生は、まるでその光景を独占するみたいにわたしにさらに近寄って、わたしのおっぱいが周りに晒されることを防いだ。ぜんぜん有り難くない。公一を見ると……あのマヌケ!むっつり助平!背伸びしてこの光景を見ようとしている。
「ひっ……ちょっと…やめ…」もう誰に言っているのかわからなかった。
おやじとおたく大学生の手が伸びてきた。二人とも、ものすごい激しさでおっぱいを掴んできた。
「…やあっ……いやっ!!」目の下で二人の男にめちゃくちゃにおっぱいを弄ばれる。「…やあ…」
その間、“侵略者”はわたしのスカートをたくし上げて、腰の当たりで裾を折り返して纏めた。パンツが丸出しになる。ブラウスのボタンはさらに外されて…(もう誰が外したのかもわからなかった)おへその辺りまで開かれていた。わたしを取り囲むように立っている3人の男たちのせいで、周りからは見えないのか、それとも同じようにそれを目で愉しんでいる奴らに取り囲まれているのかわからないけど、とにかくわたしを助ける者は誰も居ない。離れたところに立っている公一の顔が、おやじの頭越しにちらちらと見える。その目を見ていると公一の亢奮っぷりが、ここからでもはっきりと伝わってきた。
男はスカートの前も捲り上げた。おたく大学生がそれを助ける形で、わたしのおっぱいを揉む手を休めてスカートが落ちないように支えた。露骨に下を覗き込むおたく野郎。となりのおやじも、いまやわたしのおっぱいを独り占めにしながら、目を細めてわたしのパンツを見た。
ええと…今日はどんなパンツ履いてたっけ?白だっけ、ベージュだっけ?
なんだか、もうどうにでもなれ、と投げやりな気分になってる自分に気付いた。
“侵略者”の手が前に回ってきて…パンツの上淵から中に入ってきた。入るに任せてしまった。
「…ああら、伊佐美ちゃん、べちょべちょだよ。昨日あんなにヤりまくったのに、まだ足んないの?…それとも、3人相手なんて新鮮だった?」
「……ちが…」“う”は声にならなかった。指がいきなりクリトリスに触れたのだ。「…っあ」
「一度に3人相手にしたことって、さすがにないでしょ?伊佐美ちゃん」
「…やあ…」指に捏ねられる。ひざががくん、と落ちそうになる。3人を相手にしたことはなかった。でも確か、2人を相手にしたことはあった。学生時代にはまっていた、お酒のせいだった。誰と誰を相手にしたのかも、はっきり覚えていない。男二人はまるで双子の赤ちゃんがお母さんの左右のおっぱいを吸うように、わたしのおっぱいを吸った。四つん這いの姿勢で片方の男のあれを舐めている間に、もう片方の男が後にしゃがみ込んで指を入れてきた。しばらくそうしたあと、男達が交代して同じようなことをした。そして胡座をかいた男の膝に座るみたいにして、わたしはその上に腰を落とした。長くて、固かった。目の前にもう片方の男のすごく熱くなったものを突き出されて、言われなくてもわたしは自分からそれを口に含んだ。しばらくそうした痕、四つん這いにされて、わたしが舌でさらに固くした別の男のあれを、後から入れられる。それは固さはいまいちだったが、とても太かった。今度は目の前にわたしのだした液でべとべとになっているあれが突き出される。わたしはまた、言われないでもそれを舐めた。自分の味がした……それから何度体位を換えただろう。男達はなかなかいかなかった。わたしは酔いもあって(と、思いたい)気が狂ったみたいに悶えて、昨日みたいに声が枯れるほど声を出した…。
そんなことを思い出しているうちに、わたしは自分で腰を動かしていた。
「なんだよ、伊佐美ちゃん。すごいじゃん」“侵略者”が言う。「もう、ヤケになっちゃった?」
前を見上げる。
おやじと、スカートを捲り上げているおたく学生がギラギラした目で、ひとりでに踊るわたしの腰を見ていた。ほどなくして、“侵略者”がパンツの前から手を抜くと、おやじとおたく学生の手が殺到するように、パンツの上淵から、脇から入ってきた。
「……うっ……あっ!」あまりにも前の二人の手は乱暴だった。
でも、それほどの痛みは伴わなかった。粘膜を傷つけないよう、わたしの躰は馬鹿正直に反応して、せっせと粘液を溢れさせていたからだ。“侵略者”はうしろからつるり、とパンツを剥いて、わたしのお尻を剥き出しにした。まさか…と思ったけど、そのとおりになった。“侵略者”のゆびがわたしのお尻をなぞるようにして滑り落ち、お尻の穴に触れた。
「…や、やめて」わたしは言った。掠れて上擦っていて、とても本気でそう言っているようには聞こえない。
「こっちも、昔は結構使ったでしょ?」“侵略者”に言われる。
「い、いや」それはさすがにない…覚えている範囲内では。
「…ウソばっかり。…でも、ダンナさんはここ触ったことないよね。伊佐美ちゃんが嫌がるから。ほんとうは、好きだから触らせないんでしょ?…ここ触られると、自分でもどうなっちゃうか判んないから、ダンナさんには触らせないんでしょ?」
「…う…」男の指先が入り口に当てられる「お願い…いや……」
「ほうら」
「んっ……くっ……」
少しずつ、“侵略者”の指が…公一よりずっと細い指が…そこに入っていく。
前は好き放題におやじとおたく学生に触りまくられていたが、それさえ忘れるほどに、わたしはお尻に神経を集中させていた。ちらりと、公一を見た。公一は顔を紅潮させていて、汗ばんだ額には前髪が一筋張り付いている。すごく亢奮してるのだろう。心臓をどきどきさせて。昨日あんなにヤりまくったのに、ズボンの中のあれはぎんぎんになっているに違いない。そういえば、おやじとおたく学生は、わたしの下半身を攻めるのに夢中になって、ズボン前に押しつけていたわたしの手首を戒めているのを忘れているようだった。だけど、わたし押しつけられていた両手を、逃がすのを忘れていた。それどころか、自分で擦っていた。はじめおやじは固さでリードしていたけど、やはり今となってはおたく学生の方が、若さの所為もあって固い。公一のよりも、ずっと。
二人の熱い鼻息がわたしの顔にかかる。
「く……あ………あ、あ、」“侵略者”の指がだぶん根元まで…わたしのお尻の穴に埋まった。
「……すっごいよ。伊佐美ちゃん。ぎゅうぎゅう締めてる。…ダンナさん、バカだねえ。伊佐美ちゃんがこっちの方が好きなこと、知らないんだよ、きっと」
「…………や、……め、……て……」わたしは目の前の固い方…おたく学生のシャツにしがみついていた。顔を学生の胸に埋めてしまった。厭な汗の匂いがした。多分満足に風呂にも入ってないのだろう。でも、彼が物体としてそこに居てくれるだけでもよかった。気圧されて、クリトリスをいじっていたおやじの手がズボンから出てゆく。代わりに、わたしのそんな様子にたいそう欲情したのか、おたく学生は右手をわたしのパンツの中に入れ、左手でわたしの右の乳房を千切れんばかりに揉み上げた。すごすご退散していたおやじも、負けじと窮屈な格好で手をわたしの左の乳房に手を伸ばし、おたく学生以上に激しくおっぱいを捏ねる。
そして“侵略者”はお尻の穴の中で、指をくにっと曲げた。
「……ぐ………………う、う、」
わたしはくぐもった声を上げた。すると“侵略者”の手がわたしの顔の前に回ってきて、顎をつかん顔を上げさせる。顔を押しつけていたおたく学生のシャツに染みがついていた。わたしの涎だった。
「……あ、む」“侵略者”の指が、口の中に入ってきた。
唇から溢れた唾液をからめ取り、舌をいじる。口の端から涎がこぼれた。
“侵略者”は、わたしの目の前で、公一にも見せつけるように、涎で糸をひく指を翳した。その粘液越しに、公一を見た。溢れ返っている下の粘液を見せられるよりも、辱められ、貶められているような気がした。
おたく学生が…多分、AVかなんかで観たのをマネしているんだろう…突き立てた中指をわたしの中に入れて、ぺちゃぺちゃくちゃくちゃと激しい音を立ててグラインドさせながら出し入れさせた。めちゃくちゃな突き方だった。その動きには、思いやりのかけらもなかった。そのようなことを現実でもしたがる男は、わたしの覚えている限りでもたくさんいた。でもその動きに会わせて、わたしの肩が笑った。お尻の穴はさらに強く“侵略者”の指を締め付ける。口の中には指が2本、突っ込まれている。
もう一度公一を見た。すごく亢奮しているのだろう。耳まで真っ赤になっている。
ばかね、とわたしは思った。
なんでわたしがこんな目に遭ってるかわかる?
それは、あんたのせいじゃなくて、わたし自身のせいなの。あんたは関係ないの。
そう思った直後、わたしはイッた。
もう少しで“侵略者”の指を噛みきるところだった。<つづく>
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