インベーダー・フロム・過去
作:西田三郎「第10話」 ■ビコーズ・ザ・ナイト
「お願い…」わたしは居間に入ってきた公一の首に飛びついた「やって…」
“抱いて”と言おうとしたのだが、口が勝手にそう喋っていた。
「…ど、どうしたんだよ?」公一は目をぱちくりさせて驚いた。
わたしはサマーセーターと、ぐっしょり濡れたパンツだけの格好だった。さぞ公一は驚いたことだろう。
でもわたしは、そんな公一の戸惑いを感じる余裕も失っていた
「…お願い…」そのまま公一の唇に吸い付く。自分から舌を挿れて公一の下唇を噛んだ。
「ちょっと待てよ…おい………むぐ…」公一の抗議をさらに吸い付くわたしの唇が封じた。
わたしは公一に飛びついた。冗談みたいに、ぴょん、と飛んで両脚を公一の腰に巻き付けた。
その体重を支えきれずに、公一は後ろ向きに床へ倒れ込んた。
どすん、という大きな音がしたが、気にしなかった。
「…ちょっと、待て。待てって。殺す気かよ…なあ、どうしたんだ…ちょっと…むぐ」
わたしはまたかぶりつくように公一の唇に吸い付いて、舌を差し挿れた。
公一の舌を吸い込み、その唾液を飲み込む。公一はじたばたと暴れたけど、だんだん大人しくなっていった。そのまま口を放して、公一のズボンのベルトを緩める。
「…なあ、なんなんだよ。どうしたんだよ、一体」
「あんたが悪いのよ…」わたしは低い声で言った「きのう、あんなことして。あんなとこでやめて」
「え…何…?あっ!」
公一のスーツのジッパーを下げて、トランクスごと一気に引き抜いた。
公一は上半身はジャケットにシャツとネクタイ、下半身は靴下だけの全裸、というとても情けない格好になった。起きあがろうとする公一を制して、また床に押し倒す。
見ると、公一のあれはすでに固くなって上を向いていた。
「…ほら、…あんたもこんなになってんじゃん」わたしは言って、それを握った。
「そんなこと言ったって、おまえ…あっ!!」
わたしはそのまま下半身まで移動して、公一の陰茎を口に含んだ。一気に喉の奥まで含んだ。
洗ってない陰茎は、少し据えた匂いといおしっこの味がした。
優しく舐めたりしなかった。わたしはめちゃくちゃ乱暴に、唇と頭を使って公一の陰茎を扱きたてた。チュバッチュバッと音を立てて吸った。その度に、公一の腰がびくん、びくんとうねった。
「…ちょっと…やめ……なあ……おいっ…って……あっ」
公一は抵抗を諦めて、そのまま上半身を床の上に投げ出した。
「…ほら、すっごくなってるよ。公一の。ほんっとやらしいんだから…ねえ、こういうの好き?こんなに乱暴にされるの、好き…?」わたしは唾でべちょべちょになった公一の陰茎をゆっくり手で扱きながら言った。
「……ん」公一はしっかり目を閉じていた「…やめろって…」
「ねえ、ほんとにいや?こういう風にされたら、ほんとにいや?」
「……んん」公一は答えない。陰茎の先端から、先走りが溢れだしていた。
「…ねえ、答えてよ。あたし、やっちゃうよ。このまま、それでもいいの?」
「……ん」
またわたしは公一の陰茎を含んで、今度は舌を使って念入りに舐めまくった。しょっぱい味が口中に広まる。…公一は抵抗を完全にあきらめて……わたしの髪に両手の指をからめてきた。
「……んっ……ふっ……あっ……おい……おい、もう、ダメだって…なあ……おい…」
散々ねぶりたおして、公一の陰茎が、さらにものすごい固さで天井を向いているのを確認すると、わたしはその根元をしっかりと握って、片手で自分の下着を脱いだ。
「…え…おい……って、マジ?なあ、ちゃんとベッドに行こうよ……なあ…」
「…だめ、ここで、するの…」
わたしは公一の陰茎を2、3回激しく擦ると…その切っ先を、さっきまで散々自分の指を出し入れして、柔らかく、熱くなったわたしの入り口に当てた。
「はっ…」声を出したのはわたしの方だった。公一は目を見開いて呆然と、わたしを見上げている。
「……おい…なあ…ゴム、せめてゴムつけよう。……な、おれも、おまえも、子どもまだ要らないだろ…なあ、ゴムだけ…」わたしは全く耳を貸さなかった「おうっ!!」
「んんっ!!」わたしはそのまま、一気に腰を沈めた。
浅ましいまでのすごい力で、濡れた肉が公一の陰茎を締め上げる。
「くうううううっっ」しばらくわたしは動かずに…肉が締まるに任せた。
「…あああ」公一は喉仏を見せて、反り返った。
「あ、あ、あ、…」公一とわたし、どっちが先に動き始めたのかは判らない。
でも、わたしは動いていた。公一も動いていた。はげしく上下に躰を揺さぶり、揺さぶられる。
「…ああ……いい……こんな……の………好き?……ねえ……?」
「…あっあっあっおっ…」公一は女みたいに声を出した。わたしの肉は、とくに意識せずともさらに締まり…公一を圧迫する「……いい、すごく…いい…」
「……あっ……あっ……あっ……おねが……い………もっと……突いて……突き上げて……」
「…おうっ」激しくグラインドさせるように、公一が腰を突き上げてきた。
わたしは全身汗まみれになっていた。エアコンもつけていなかった。部屋の灯りさえつけていない。
わたしは上半身を覆っている、セーターがうっとおしくなり、万歳をしてそれを脱いだ。腰を激しく廻しながら。肩にひっかかっていたブラジャーも自分でむしり取って、どこかにうっちゃった。
わたしの胸が、下からの突き上げでぷるぷると揺れた。
間もなく公一の両手が下から伸びてきて、わたしの両方の乳房を強く掴んだ。
「…あんっっ!」思わず声が出た。
昨日みたいに優しい愛撫ではなかった。というか、結婚して以来の乱暴な揉みかただった。
でも、その手つきにわたしは亢ぶった……乳房を刺激されているその直接の感覚ではなくて、公一が夢中になって、わたしの乳房を乱暴に鷲掴みにしているという事実に、そしてそんな気分になった公一の感情に。
今日、あの男に電車の中でされたことを思い出す。
つねり上げられた、乳頭の感覚を思い出す。
激しく出し入れされた指のことを思い出す。
“乱暴なのも好きなの?”と、あの男は囁いた。そうよ、とわたしは思った。そうなの。乱暴なのが好きなの。今も、わたしのこと見てるんでしょ?ほら、今日、あんたに指でめちゃくちゃにされたあそこに、公一のが入ってんの。それで、あんたが好き放題にいじり回したおっぱいも、いまは公一がおもちゃにしてるの。それで、公一はわたしのことを愛してるの。わたしも公一のことを愛してるの。
判る?
あんたが過去のどこからやってきたのか判らないけど、わたしの今の生活すべてをあんたのものにすることは、出来ないの。ほら、あんたも、わたしとこんなことしたいんでしょ?
「あ、あ、あ…お……伊佐美…もう、おれ……おれ…」公一がせっぱ詰まった声を出す。
「……あっ……あっ……あっ……わ……わたしも…」わたしは上半身を折り曲げて、溢れてくる感覚を…5回目の絶頂を、またも全身で受け止める準備をした「……わたしも……いっちゃう……」
「………だから、……はやく………はやく……抜かない……と…」
「……い……いい……の………そのまま……中で……出して」
“イッて”と言おうとしたのだけど、口は勝手に“出して”と言っていた。
公一のグラインドが小刻みになって、わたしはお尻を公一の腰に叩きつけるように動く。
「……あっ……あっ………あっ………伊佐美………い……く……おうっ!1」
わたしの躰の中で、熱くて濃厚な公一の飛沫が弾け飛んだ。
それと同時に、わたしは海老反りになって……後に回した右手を床について…イッた。
でも左手は、公一の陰嚢を激しく転がしていた。
転がしながら、陰茎も扱き上げる。
「あああ……っ………もう……」
陰嚢があっという間にわたしの手の中で週手記して…第2弾目もしっかりわたしの中で弾けた。さっきより、激しい弾けかただった。わたしは声もなく、天井を見上げていた。
ぽかんと空いたわたしの口の端から、涎が一滴垂れた。
その後、わたしたちはもう一回してから(今度はベッドでした)、出かけた。
夕食の用意を何もしていなかったし、もう時間も11時近かったので、近所の終夜営業の居酒屋に行った。わたしたちは生ビールをそれぞれ、わたしはかいわれごぼうサラダと、ほっけの干物を注文、公一が大蒜の丸揚げと、サイコロステーキを注文して、しばらく無言で食べた。
公一はわたしがなぜあんなにおかしくなったのか、自分から尋ねなかった。
わたしも言わないつもりだったけど……生ビールを2杯おかわりしたところで、また口が勝手に喋りはじめた…久しぶりに酔ったような気がする。
わたしは今朝の電車であったことを話した。
小声だけど、出来る限り詳細を話した。包み隠さず。
あの男にされたこと、言われたこと、そしてわたしがどうなったのかということ。
公一は無言で聞いていた。
怒りも、悔しがりもしなかった。わたしも、そんな反応を求めていた訳じゃない。
「そうか…」わたしの受難話を全て聞き終えてから、公一が言った「明日の朝、一緒に家を出て、電車に乗ろう。それで、そいつを捕まえよう」
言いながらも公一の鼻息は少し荒くなって、目が潤んでいた。
居酒屋からうちに帰って……寝る前にあと2回、あたしたちはやった。
<つづく>BACK/NEXT TOP