イグジステンズ
〜存在のイっちゃいそうな軽さ〜





■9■ ボデイ・スナッチング

 また、エロ小説みたいな出だしで失礼。

「おら! おら! おら! おうら! おら! おら! おら!」
 わたしは飯田のうえに跨って、激しく上に突き上げられていた。
 飯田はいつもわたしを騎乗位で突き上げる。
 そうすると、めちゃくちゃに濡れた。
 見下ろすと、わたしの細い身体には不釣り合いな、ちょっとやばいくらい大きなおっぱいが波打つように揺れて、飯田の目を楽しませる。
 もちろん、わたしもその様を見て楽しんでいた。
 見下ろせば自分のおっぱいが揺れている、という光景は、想像以上に楽しかった。
 わたしの部屋で、バックから突かれていたときの苦痛とは大違いだ。
 ここは飯田の部屋で、違う部屋でセックスしているという実感が、わたしをいつもより昂ぶらせる。
 
 違うのは部屋だけではない。
 やっぱり……他人の身体だと“入ってる”感がぜんぜん違う。
 わたしはあの少女期のジョディ・フォスター風小娘の姿をして、飯田とセックスしている。
 入れられなれているはずの飯田のアレが、いつもよりも窮屈に感じるのは気のせいだろうか。それどころか、入り込んだ飯田のアレを包み込んでいる部分が、けっこうしょっちゅうビクビクと痙攣して、まとわりつく感じがする。
 
 わたしは部屋の片隅にある姿見を、チラリと見た。
 飯田の、はっきり言ってかなりだらしなくなっている身体の上にまたがっている、ほっそりとした少女の姿が見える。
 淡い色の髪を振り乱し、あばらが浮 いているくせに、やたら発達したおっぱいが元気よくびゅんびゅんと跳ねている。
 それを、下から伸びてきた飯田の手がねちっこく揉みしだく。

「おら! おら!……え、おい……な、何……鏡なんか見てるんだよ……」
「あっ……んっ……み、自分で見てるとなんか……すっごく……ちょーエロい感じ……」
 
 わたしは正直に言った。“ちょー”とか言ってみたけど、少し古いだろうか。
 それにしても、うれしそうな飯田の顔を見下ろす。ほんとうにニヤケていて気持ち悪い。

「……ほら、もっとよく見てみみろよ……」
「えっ……あっ……」

 飯田がわたしの……いや、悔しいけど、本来のわたしよりかなり軽い小娘の華奢な身体を乗せたまま、ベッドの上で身体の向きを変える。
 姿見で、わたしがわたしの姿を真正面から見えるフォーメーションに持っていきたいのだ。
 いやらしい。けがらわしい。でも、わたしにとってもいやらしい。そくぞくする。

「ほら、よく見えるだろ……自分で自分の恥ずかしい姿、自分で眺めて感じてみろよ……」

 ほんと、マジで最悪。変態。
 小娘相手だったら、こんなにセックスに凝るんだ。こいつ。

 あの小娘の白い肌は、うっすらとピンク色に染まっている。
 ところどころ浮き出した汗が、朝露みたいにきれいな玉になっている。
 鏡の中の顔は前にこの部屋で会ったときよりもずっと可愛らしい。
 思っていたよりずっと幼く、あどけない感じだ。それが、半眼で、唇を半開きにして、溺れるみたいに喘いでいる。
 犯罪だ。飯田は犯罪者だ。いや、少女がそうやって快楽を貪っている姿もまた、かなり犯罪的だ。
 それに乗っかって体験を共有しているわたしは、いちばん犯罪的なのかもしれない。
 犯罪的に、すべてがエロい。
 これがエロくなくて何がエロいのだろうか。

「……け、けだものっ……」とか言ってみる。「未成年とファックしてる気分ってどーよ? 自分の部屋に、未成年を連れ込んで、騎乗位で犯しまくってるって気分はどうよ?」
 言うたびに、溢れた。肉がひくっ、ひくっと勝手にひきつる。
 そうしてわたしは腰をくねらせた。ほんとうのわたしより細い腰、軽い腰、しなやかな腰を。

「う、あっ……おおっ……あっ……す、すげえっ……すごいよお前……い、いつの間にか……こ、こんなにインランになりやがって……」
 
 情けない声で喘ぐ飯田。
 まるで自分がこの小娘をインランに仕立て上げたような口ぶり。厚かましいんだよ。

あのお姉さんとあたし、どっちがキモチイイ?」腰を揺すりながら飯田の顔を覗き込んでやる。
「ど……どのお姉さんだよ?」

 イラッとした。『どの』ってあんた、飯田のくせに。ただのおっさんのくせに。
 結婚前の市川海老蔵にでもなったつもりなわけ? 何様のつもりだっての。

「……ほら、この前、この部屋に……トツゼンやってきた、あの……お姉さん。お、おっぱいは無いけど……お尻がかっこいいお姉さん。“けつが素晴らしくて、部屋つきの女”ってあんたが言ってたお姉さん……」
「ああ……」
 一瞬、わたしの中に入っている飯田のものが萎えた
「どっ……どっちが気持ちいい? ねえねえ、どっちがいい?」
「お前に……決まってるだろ……ほら、ほら」
「あっ……あんっ……あああっ……」
「すげえっ……すげえよっ……すげえよお前ん中は……たまんねえよっ……」

 そんなにたまんないのだろうか。わたしは、飯田の感じている快感に興味を持った。
 そんなわけで、わたしは牛島に教わったとおり、『感度』をあげてみた。
 一瞬でわたしの意識が遠くなる……そしてわたしは、小娘の身体から解放されて……ちょっと名残惜しいが、まあ今日のところはこのへんでいいか……ウォータースライダーで滑り落ちるように、飯田の中に入っていった。
 他人の身体の中に這いる瞬間は、セックスの快感に負けずおとららず、かなり気持ちがいい。
 
「……おおうっ……」
 見上げると、わたしのお腹の上であの小娘の小さな、細い身体が……そして何度も言うけれども、不釣り合いな大きなおっぱいが、これみよがしに揺れていた。下から見上げると、さらに圧倒的だ。
「す、すごいっ……すごすぎっ!」小娘が腰を揺らせる。
 飯田のアレ……じゃなくて今はわたしのアレにまとわりついてくる、小娘のあそこの中の感じは、今、思い出しても濡れてくる。
 いやほんと、スポーツ新聞のエッチなコーナーみたいな感じで失礼。それほどまで、あの子の中の感じはすばらしかった。
 名器だった。なるほど、ケチの飯田が多少のお小遣いをあげてもこの小娘を手放さないのは、ただかわいくておっぱいが大きいからだけじゃなくて、ココの具合がこんなにいい感じだったからか。

「ほら! おら! おら! おら! おら!」いつもの飯田のマネをして、小娘を突き上げる。
「ああんっ!……やばっ……ヤバいようっ……すっごく、すっごく硬いようっ……」
 小娘は喘いでいる。
 飯田の耳を通して聞くと、その囀るような声のトーンが、さっきより倍増しでいやらしい。
「ほら! ほら! ほら! ……どうだいお嬢ちゃん……これが大人のセックスだぜえ……」
 何言ってんだわたし。いや、飯田なら言いそうなことを言ったまでだ。
「すっごいっ! やばいっ! 超アサマシイかんじでやらしい感じ!」
 小娘も、背中を戦慄かせて、重そうなおっぱいを盛大に揺らして悦んでいる。何よりだ。

 そんなわけでその晩は、飯田の身体にとどまり続けた。二回戦目は小娘を四つん這いにして、後ろからヤった。
 “ほら、いつもあのお姉さんはこうして責められてたんだよ……”とか言いながら。
 小娘は、“誰? あのお姉さんって誰だっけ?”とか言いながら喘いでいたが……。

 わたしのやってのけたことは、とても難しいことのように思えるかもしれないけれど、これはちょっとでも練習すれば誰にでもできることだ。
 まず、自分の意識を消す。
 これは簡単だ……誰もがみんな、いつも眠る前にしていることだ。
 「眠ろう」と思って眠っても、なかなか眠ることができない。眠るとき、人は自分の肉体から自分の精神を解放する。牛島が言っていたようにわた したち人間は、自分が自分であろうとすることに、恐ろしい労力を使っている。だから人間は、自分が自分であることを無意識の中で解放することで、眠りの世界に入っていく。
 あとは、ほんとうに眠っちゃわずに(ここはかなり重要)、入り込みたい人間の肉体が感じている感覚に、自分の感覚の周波数をあわせるだけ。まるで聴きたいラジオ局にダイヤルを合わせるみたいに。

 すると、“自分”は“自分”であることから開放される。
 それができれば、“自分”は“自分”である必要はないので、誰の身体にも入っていける。

 むつかしいことに思えるかもしれない。しかし、あなたが思っているほど、あなたと他人はそう違っているわけではない。
 たとえばわたしたちがだとする。だとする。イワシだとする。わたしたちは、群れをなすそうした生物のひとつひとつの違いを、見分けられるだろうか? 群れをなす生物が、それぞれ別個の自意識をもっているとして、あなたはそれぞれを尊重するだろうか?
 ひとつひとつの個体が、それほど「自己」を尊重しているだろうか?

 他人に入り込まれても、本人たちは気づきもしない。わたしが彼、彼女らの身体の中に入って、その感覚を味わっていたとしても。
 思っているほど、自分がいつも自分であることについて、人は注意深くそれを意識していないようだ。

 もっと早く気づけばよかったよ。
 そしたらこれまで、こんなにも疲れることなんかなかったのに。

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