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童貞スーサイズ
第二章 「
ウェルカム・トゥ・ニルヴァーナ



■第18話 ■ 死んだ翌朝、僕は早く目を覚ました。

 家に帰ると玄関で待ちかまえていた母と姉が、泣きながら何かをわめていた。
 芳雄は冷え切った心でしばらく靴も脱がずに叩きに立ちつくし、しばらくそれを聞き流す振りをしていたが、やがてもうどうでもよくなってきた。
 母と 姉の間を押しのけるようにして階段を駆け上がると、一瞬、呆気にとられていた母と姉が後を追ってくる。
 芳雄は素早く自らの部屋に 飛び込み、ドアに鍵を掛けた。
 
「一体どうしちゃったの?? 何があったの??」
「開けなさい!!! なんであたしたちをそんなに悲しませるの!!!」
 
 どちらがどちらの声かはわからないが、ドアの外で母と姉がぎゃあぎゃあ喚き続けている。
 一体何なんだ、と芳雄は思った。
 一体、あんたらに何の関係がある?
 芳雄はしばらく明かりも点けずに、母や姉が叩きまくるドアに額をつけ、目を閉じていた。
 まるで自分の身体が自分の身体ではなく、魂が鎧を着ているように重い。
 魂がベッドでの休息を求めていた。
 ああ、何もかも忘れて眠りたい。
 しかし頭の中では、ドウ子の言葉がエンドレスで繰り返されている。
 
「わかった……? 子どものあんたは、今日で死んだの」
 
 意味もなく、泣きたい気分になった。
 と、思ったときにはその場に崩れ落ちて泣いていた。
 気持ちいいくらいに涙が溢れ、それが頭の隅に残留していた薬と酒によるまどろみの残滓を洗い落としていく。
 やがてドアの外は静かになった。母も姉も、今夜はもう諦めたのだろう。
 
 涙によってきれいに洗い流された心には、早くも羞恥と自己嫌悪と罪悪感と後悔の連合軍の、ときの声が聞こえてくる。
 
 そう、身体は死にそうにくたびれきっているが、まだ心は芳雄を安らかに眠りにつかせるつもりは無さそうだ。
 とにかく姉からくすねた服とドウ子に渡された“今後の生命線”となるというオレンジ色のガラケーが入ったボストンバッグを床に投げ出す。
 そし て、ベッドに仰向けに横になった。
 目を閉じ、意識を無に泳がせる……数時間前の疼きが、躰の奥底から遠雷をともない蘇ってくる。
 芳雄はその感覚の再現にひ とりベッドの上で身もだえした。
 
 口の中に蘇ってくる大柳の唾液の味と舌の感覚。
 そしてそれによって漏らした自分の甘い吐息。
 ドウ子の目の前で大柳と大西によって服を剥かれ、ガム テープで屈辱的な姿勢に固定された時、確かに感じたおぞましいときめき。
 そして体中をはい回った大西の舌……あの生きながら腐っているかのような 紫色の舌が自分の肌に作ったいく筋もの唾液の筋。
 そしてその舌先が乳頭にちょん、と触れた時、自分があげてしまった、いたいけな少女のような喘ぎ。
 
“すっかり女の子になってんじゃん……あんた、ほんとはこうされたかったんでしょ? こういうことされに、わざわざそんな格好でノコノコ出てきたんでしょ?”
 
 ドウ子の声がありありと蘇る。耳を塞いでも無駄だった、声は心から聞こえてくるのだから。
 腹まで大西の舌が遠征した時、自分はどう感じただろうか。
 特に臍の上を舌が通過した時……確かに自分から腰を浮かせて、揺すった。
 逃れるためではない。一刻も早く、快楽の中枢を刺激してほしかったからだ。
 
 “すっごい、もう先っぽ、びちょびちょになってんじゃん”
 
 気が付くと芳雄はジーンズのジッパーを下ろしていた。
 まるで当然のように、そこに自分の指が吸い込まれていく。
 指先に触れた布地は、姉の下着のものだった……ジーンズの下には、まだ姉の下着をつけていたことにはじめて気付いた。
 それにしても……驚くべきことに、姉の下着の中で、陰茎はまたも窮屈そうに硬直している。
 布地には、早くも湿りがあった。
 産まれてはじめて、人の手によって包皮を剥き上げられた衝撃が蘇る。
 記憶の再現は、自らの指による刺激によりさらなる現実性を帯びていた。
 
 「……んっ」
 
 全身から汗が吹き出た。
 そう言えば窓を閉め切った部屋に冷房は入れていない。
 吹き出た汗を吸い込んだTシャツが、ジーンズが、異様な不快感をもって全身に張り付く。

 芳雄はベッ ドの上でしばらくその薄気味悪さに悶え苦しんだ後……Tシャツを脱ぎ、それを丸めて部屋の隅に投げ飛ばした。
 続いてジーンズも脱ぎ、力任せに壁に投げつけ る。
 一体自分は何をしているんだろう……?
 芳雄は違和感を感じながらも、身体が動くままに任せた。

 姉のパンツ一枚のみを身につけた姿で、芳雄はベッドから立ち上がった。

 そして部屋に投げ捨てていたボストンバックの中から、ドウ子に渡されたオレンジの携帯電話を取り出す。
 それ自体は何ということのな い無害な物体である。ゴミ箱に放り込めば、その他のゴミと同じくただのゴミになる。
 しかしその携帯電話は、今や特別な意味を持っていた。それは、自分がこれまでとは違う別の何者かに変わってしまったことの証だった。
 
 ふらつく足取りで机に着き、パソコンを起動する。
 
 ディスプレイの光が、眩しいくらいに芳雄の目を照らした。
 ああ、自分はどうなってしまうんだろう?
 恐ろしかったが、今は躰が求めるままに動くしかなかった。
 パソコンが使用状態になるまでの時間が、まるで何時間にも感じられた。
 
 メールを立ち上げた。宛先“ドウ子☆”からの、ぞっとするほど大量の受信メール。すべてに画像が添付されている。

 一体、何のためにこんなことをしてるんだ……? 
 こんなものを確認して、どうなるてっんだ?

 しかし見ずにはおれなかった。次々に添付画像を開いていく。
 そういえばドウ子は、狂ったようにシャッターを押し続けていたっけ……。

 動きのないそれぞれの画像の中で、芳雄はさまざまな痴態を見せて喘ぎ、悶えていた。
 デジタルの無機質な再現画像は、無機質であるがゆえにその時、その場所に存在した瞬間を克明に再現する。
 濡れ光る唇が、固く立ち上がった乳首が、せり上がった顎が……そして今にもはちきれそうな、剥き上げられた亀頭がその中にあった。
 机が、パソコンが、そして部屋全体が揺れているような錯覚を覚えた。

 それは自分の鼓動だった。

 ひとつ画像を見るたびに、芳雄の心の中で本能をせき止めていた堤防が揺らいでゆく。
 そう、あと一歩で自分は狂気に飲み込まれようとしている。恐ろしくもあったが、それは同時に甘美でもあった。
 
 姉のパンツを降ろし、下腹に張り付くほど硬直した肉茎をしっかりと握りしめる。
 そしてディスプレイの中で大柳の手によって激しく扱き上げられる、画像の中の自分の性器を凝視する。
 記憶よりも鮮烈な刺激が、芳雄を襲った。
 まるで自分で自分の躰を壊してしまいかねない猛烈な勢いで、芳雄は自らの陰茎を激しく扱いた。

 目から火花が散るようだった。
 
 どうせ……どうせ、これまでの自分は死んだのである。

 これまでいろいろあった。
 わけのわからない外人娼婦に路地裏に引きずり込まれ、無理矢理フェラチオされた。
 ヤク中のチンピラに、薄汚いトイレの個室でパンツを脱がされ、肛門を 犯されそうになった。
 かと思えば、そのチンピラの情婦に、妙なクスリを盛られて騎乗位で犯されそうになり、手で射精させられた。

 しかしそれがなんだ。
 そんなものはただのイントロに過ぎなかった。
 激しく陰茎を扱きながら、芳雄は自嘲的に笑っていた。

 マウスをクリックすると画面に大写しになったのは、ドウ子の指によって肛門を貫かれ、白目を剥いて喘いでいる自分の姿だった。
 そう、これがぼくだ。芳雄は思った。
 これが、ぼくなんだ。
 陰茎を右手で扱きながら、左手の中指を口に含む。根元までくわえ込んで、たっぷりと指全体を唾液で濡らす。
 唾液に濡れた指を目の前に翳すと、普段見慣れ ているはずの自分の手の一部分が、まるでそこだけ性器に変質してしまったかのようにさえ見える。
 
 改めて見ると、つくづく男らしくない手だった。
 白く、か細く、 まるで女の子のようだ。ドウ子の手に……負けないくらい、芳雄の手もなめらかで繊細だった。
 画面の中で芳雄の肛門を容赦なく攻撃しているドウ子の手と、自分 の手をしっかりと見比べてから……芳雄は改めて中指にたっぷりと唾液をつけ、自らの肛門にその先端を押し当てた。
 
 「ああっ……」
 自分の口から漏れたその声は、異様なくらいなまめかしかった。
 恐るおそる……指に力を入れて先端を肛門に沈ませていく。
 「くっ……」
 
 強い抵抗があった。頭の中に幾分か残っている理性が、肛門を緊張させているのだろうか。
 構わず指を進めた……第一関節までが、かなりの抵抗を伴いながらも、なんとか身体のなかに収まる。
 
 「あっ……はあ…………」
 半身が前に倒れ、額がパソコンのキーボードに埋まる。
 構わず指を進めた……そこから先は思ったより楽だった。
 というより、肛門のほうがすすんで指を受け入れたようだった。
 その勢いに乗って、今度は腰の方を浮かせて、その上に座り込む形で指を沈みこませる。
 「…………うっ……………んっ……………はあっ……」
 キーボードに頬を埋めたまま、しばらくじっとしていた。
 活躍筋が、一旦は受け入れた指を激しく締め付ける。直腸の中は、火山の中のように熱く煮立っていた。

“……知ってる? ヤギを去勢するとき、どうするか? …………こんなふうにね、キンタマと竿を、ヒモで縛るんだよ。そしたら、そこに血が通わなくなるじゃん? そのまま、ヤギのチンコは死んじゃうの。それで感覚がなくなった時に…………”

 ドウ子の声を思い出しながら、ドウ子に捉えられた“あの部分”を探した。
 まるでおぼろげな記憶を頼りに、入り組んだ路地を彷徨っているような気分だった。
 
 そう、ドウ子はどうしたっけ………?
 
 直腸の中で自分の指が“あの部分”を目指してゆっくりと一回転する。
 そう、もう少しだった……もう少し………芳雄は太股で自分の手を締め付けていた。
 椅 子の上の裸の腰はゆっくりと弧を描いている……額からキーボードに汗の滴が、いくつも垂れていく。
 その間も、右手は永久機関のように猛烈に陰茎を扱き続ける。
 
 「あ……は………ああ」
 
 喘ぐ口からは、唾液が垂れ、それもキーボードを濡らせた。
 そして遂に、指先は睾丸の真裏あたりにある、“あの部分”を探し当てる。
 
 「はんっ!!!!」
 
 一度反動で持ち上がった顔を、激しくキーボードにぶつける。
 数時間前とまったく同じ、爆発的な射精感が芳雄の肢体を引き裂く。
 
 「あああっ…………」
 
 出し尽くしたと思っていた精液が、勢いよく噴出した。
 机の天板の裏側に激しく衝突した精液の飛沫が、芳雄の太股に降り注ぐ。
 ああ、と芳雄は心の中で思った…………死ねる………これで、死ねる。
 
 
 目が覚めると、明け方だった。

 顔を埋めていたキーボードから顔を上げる。
 スクリーンセーバーが解除され、ディスプレイには上半身を精液まみれにしてのけぞる、自分の姿が大写しになっていた。
 膝の上では、昨夜気を失う前、派手に吹き上げた精液が乾燥して固まっている。
 
 意味もなく泣きたくなったが、泣いたからと言って、もはや後戻りはできない。
 受け入れ、前進しなければならない時もある。
 
 パソコンの傍らに置いたオレンジ色の携帯が、今にも鳴り出しそうに思えた。

 “ガキ”の自分が死んでから、はじめて迎える夜明けだった。








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