電話問答 作:西田三郎 ■パパは性交中
「おい!」おれはもはや裏声で叫んだ。電話口を塞ぐのをすっかり忘れていた。「やめろ!」
「もしもし?あなた?聞いてる?…ちょっと、どうしたの?」
どうもこうもない。タチバナがおれのギンギンにテンパった肉棒の上に跨ろうとしたのだ。
「ちょっと待てって!…いくらなんでも…」
「もしもし?もしもし?あなた?何?」妻が聞いてくる。おれは我に返った。
「あ…あの、いや、そのオオツキ。オオツキがなんか飲み過ぎたみたいでさあ…ハハ…あの、ゲロ吐いちゃって大変なのよ。服にひっかけられそうになって…もう…ホント大変ですよ」
「…やーねえ…なんでそんなに飲むわけ?」
「ああ、ホントにいい歳して困ったもんだよ…って…おい!待て!」
タチバナがおれの肉棒を掴んで、自分に挿入した。
「…んんっ…」タチバナはおれの腹の上で、深々と腰を沈めた。
「おうっ…!」おれは思わず妙な声を上げた。ヤバい。いくらなんでもこれはヤバい。
「もしもし?あなた?…ねえ、ちょっと、大丈夫?」
「…ぐ…う…うん…あの…大丈夫…」全然大丈夫ではなかった。
「…あ…んっ…」タチバナがゆっくり腰を回し始める。
「ああっ…ちょっと…ちょっと待て!」おれは頭がおかしくなりそうだった。しかし妻にはなんとか平静を繕わねばならない。これこそ生き地獄というやつだろう。「…あ…ああ、セーフ。大丈夫。大丈夫…もうちょっとでゲロかけられるところだったよ…やあ、ヤバイヤバイ…はあっっ!!」
タチバナが腰の動きを早める。下からタチバナを見上げた。タチバナはしっかり目を閉じ、案外豊かな両乳房を扇情的に揺らせて、じつに淫靡な動きで快楽を貪っている。声は必死で堪えているようだ。そんな様子を見ていると、先ほど思い出してしまった初めてのときのタチバナの姿態がありありと鮮明に蘇ってきた。…いかん!おれの肉棒はますます固くなっていた。
「…ん…く…くうっ…くっ…」タチバナが縦揺れをはじめる。
「…ていうか、もういい加減に帰ってきたら?外で酔っぱらいにつき合ってる場合じゃないわよ。ユカリがいじめられてんのよ?それで明日、ユカリのピアノの発表会なのよ?せめてユカリが起きてるうちに帰ってきて、話でも聞いてあげたら?」
妻の言うとおりかも知れない。出来ることならそうしたいものだ。
しかしタチバナはさらに激しく動き始め、さすがのおれも適当な相槌さえ打ちづらくなってきた。それどころか、タチバナはさらに恐ろしいことを考えていたようだ。
「…あ…ん…」タチバナが歯を食いしばり、嬌声を堪えながら、異様に熱っぽい視線でおれをまっすぐに見た。「…ねえ…娘さんに…代わんなさいよ」
「…ええ?!」おれは受話器を押さえて言った「何だって?!」
「…む…娘さんに…ユカリちゃんに…んっ…代わったげなさいよ…」
「馬鹿!そんなこと出来るわけないだろ!」自分の声が冗談のように甲高くなっているのに気づいた。
「…くっ…あっ…あああっ!」タチバナが妙に大きな声を出した。さすがのおれも、このときばかりは萎えた。「…代わらないと…んっ…もっと大きな声出すよ…」
一も二もなかった。言うことを聞くしかあるまい。
「…あ…あの…そうだ…ユカリ…ユカリに代わってくれる?…」
「え?」妻が不審そうな声を出す「ユカリに代わるの?」
「…うん、…あの…ちょっと、声聞いときたくて…」
「…ふーん、じゃ、ちょっと待っててね。…ユカリ!ユカリ!パパよ」
ユカリが電話に出るまでの数秒が、永遠のように感じられた。タチバナは激しくおれの腹の上で踊っている。しかもタチバナは両手を伸ばして、おれの両乳首をまさぐった。こんなやり方も、おれが一から教え込んだものだった。一時は少し萎えた肉棒が、さらに固くなっていた。タチバナと、おれが繋がっている部分が、湿った淫靡な音を立てている。タチバナの乳房が波打つ。タチバナが髪を振り乱して、声を我慢しながら激しく悶えている。そして、今、電話には娘のユカリが出ようとしている。
「…パパ?」ついに電話口にユカリが出た。
「…あ…くっ…ユカリちゃん…?パパでちゅよ〜…」おれは精一杯娘用の声を出した。
「…パパ、今日も遅いの?」ユカリが少し心配そうに聞いた。
「…どうかな…?うん、なんとか…おうっ!」タチバナの揺れが前後に変わった。「…なんとか…ユカリちゃんが起きてる頃には…帰れそうかな〜起きてられるかな〜?」
「…うん、ユカリ、パパが帰ってくるまで、ぜったい起きてる」
「…うれしいな〜…ユカリちゃん、幼稚園では、お友達と仲良くやってるかな〜?」おれは言ってから、話題選びを間違ったことに気づいた。少なくとも、騎乗位で女とまぐわいながら娘とする話ではなかった。
「うん…」ユカリが少し悲しそうに答えた。「…でも…なんか…仲良くできない子も居るの…」
「……んっ…あっ…うっ…いい…スゴイ…」タチバナが言う。「…もっと…もっと…突いて」
「おい!」おれは電話口を押さえて言った。「娘と話してんだ!頼むからやめてくれ!」
「…もしもし?もしもし?パパ、?」
「…あ…は〜い…パパで〜す…そうか…仲良く出来ない子も居るのか〜」
「…うん…仲良くできないの…」
「…き…気にすることはないよ…ユカリちゃん、仲良しの子もたくさん居るでしょ〜…だから…おうっ!…ユカリちゃんの事好きな子が10人居たら、…ぐっ…ひとりやふたりくらい…ユカリちゃんが仲良くできない子が居たって…むっ…ぜんぜん問題ないよ〜」
「ほんと?」ユカリの声が少し明るくなった。
「…ほんとだよ〜」マズい。いきそうだ。いくらなんでも娘と会話中に射精する訳にはいかない。
「ねえ…パパは、ユカリの事好き?」ユカリが聞く。こんな時には出来ることならして欲しくない質問だった。
「パパ…」何と、タチバナがそう囁いた。「…パパ…いいよ…すごく固い…」
「おい!」おれはまだ電話口を塞いで言った。「それだけは止めろ!」
「…あっ…んんっ…くっ…あっ…パ…パパ…気持ちいい…んっ…」タチバナが続ける。「パ…パパの…奥まで届いてる…」
「もしもし?パパ?パパ?」本当の娘からの声がする。「もしもし?パパ?」
「…あ、はい、もしもし…」おれは虫の息だった。「聞こえてるよ〜…」
「パパは、ユカリの事好き?」
「そんな…あったり前じゃないか〜」
「んんんっ…パパ…スゴいよ…んっ…もっと突いて…突きあげて…めちゃくちゃにして…」タチバナが続ける。「…あっ…パパの…ユカリの…奥まで届いてる…」
「ほんとにユカリのこと好き?」ほんものの娘が聞いた。
「好きだよ…愛してるよ〜…」
「ほんっとにほんと?」
「おうっ…ん…ほんっとにほんと」
タチバナの動きが、怒濤のように早く、激しくなった。
「…あっ…くうっ…」タチバナの内壁が、おれの肉棒を激しく締め上げてきた。「…んっ…もっと…パパ…パパ…もっと…もっと突いて…いっ…いっちゃう…くっ…ユ…ユカリ…いっちゃうよ…」
とんでもない話だが、おれはそれを聞いてますます固くなった。
「明日、ピアノの発表会、パパ来てくれる?」
「…あっ…あったりまえじゃないか〜…約束したでしょ?」
「…本当に、来てくれる?」
「…ぐっ…パパが…パパが…ユカリとの約束…破ったことあるかな〜?」
「パ…パパ…いく…いく………ユ…ユカリ…いっ……ちゃう………………んんっ!」
「おうっ!」
まるで雑巾を絞るようにタチバナの内壁がおれの肉茎をきつく、きつく締めた。タチバナが乳房を弾ませて後ろにのけぞる。射精が始まった。タチバナの中に出した。タチバナは、後ろにのけ反ったまま、果てるともない射精の律動を続けるおれの陰嚢を、右手で揉み上げた。こんな手口も、おれがタチバナに仕込んだものだった。頭の中が真っ白になり、一瞬意識が遠のいた。おれはしたたかにタチバナの中に射精していた。タチバナの中に出すのは、これが初めてのことだった。
「…く……はあっ…」タチバナがぐったりとおれに覆い被さるように倒れ込んだ。そして、受話器を押し当てていない、おれの耳元で囁いた。「…パパ、ユカリ、いっちゃった…」
「パパ?もしもし?パパ?」本当の娘の電話の声でおれは我に返った。
「…あ…もしもし…」
「あした、絶対来てね、パパ」
「…あ、ぜったい行くよ…」
「パパ、ユカリ、パパ大好き」父親が今どんな状態か、知ったらユカリはどう思うだろうか。
「パパも、ユカリが大好き」
「…早く帰ってきてねパパ」
「…うん、そうするよ」
「バイバイ」
「バイバイ、また、家でね」
やっと電話が切れた。タチバナはおれの上でぐったりしたままだ。おれは放心状態で、天井を見上げていた。天井が鏡になっていて、タチバナの上気した背中と、尻が見えた。それが快楽の余韻の中で生々しく息づいている。
その肩から、おれの顔が生えている。
こんな時、まともに自分の顔を見られるものだろうか?
見てみた。
思ったより、見られるものだ。そんな大層なことではなかった。
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