電話問答 作:西田三郎

■初回限定


 おれはなんとか気を逸らそうと様々なことに思いを巡らせた。いつのまにかおれは激しいフェラチオを受けながら、電話で妻に相槌を打ち、さらに頭では別のことを考えるという、自分でも信じられないくらいの離れ業をやってのけていた。頭の中に様々な思考が巡った。仕事のことや明日の娘のピアノの発表会のこと。昨日深夜テレビでみた映画の内容、今朝読んだ新聞記事。小学校時代のこと、中学時代のこと、大学時代のこと・・・。
 とにかく死ぬ気でどうでもいいことを考えるんだ!おれは自分にそう言い聞かせた。
 しかしタチバナのフェラチオは今やもの凄い勢いになっていた。
 気が遠くなった。
 何故かおれは、タチバナにはじめてフェラチオをさせたときのことを思い出していた。
 
 1年前、おれは酔ったタチバナと、ホテルに入った。このホテルだったかも知れないし、そうじゃないかも知れない。なんで二人で飲みに行くことになったのかは、忘れた。とにかく二人ともえらく酔っていた。ホテルに入ろうと提案すると、タチバナは固くなった。かなり酔っていたようだが、どきまぎして眼鏡の奥で泳ぐ目が可愛かったのを覚えている。おれは四の五の言わせず、タチバナをホテルに連れ込んだ。
 部屋に入ってキスをした。抱きしめると、タチバナがコチコチに緊張しているのがわかった。そんな反応が初々しく、おれはそれに素直に感動した。感動したので、滅茶苦茶にしてやろうと思った。そのへんが浮気の気楽なところだ。おれはタチバナの口の中に舌をこじいれ、滅茶苦茶に嘗め回した。タチバナが戸惑い狼狽する様子が、ますますおれを欲情させた。
 今日みたいに乱暴にタチバナの服をはぎ取った。タチバナは弱々しく事務的に抵抗したが、そのときにはかなり興奮していた。「いやっ」とか「やめて」とか言いながら、鼻息がとても荒かったことが印象的だった。
 タチバナを全裸に剥き上げ、ベッドに転がした。
 はじめて(未だに変わらないダサいセンスの)服を全部脱がせて、タチバナの全裸を見たときの感動は今も忘れない。こんなお宝が身近に眠っていようとは。
 しかもそんなお宝とこんな都合の良い関係を持てるとは。
 おれはには信仰などなにもないが、このときばかりは神に感謝した。と同時に、日頃の自分の行いがあまりにもいいから、こんな幸運が巡ってきたのかな、とも思った。
 とにかくおれはその時、痛いくらいに勃起していたが、すぐには挿入しなかった。
 すぐ入れてしまうのはもったいないような気がしたのだ。おれももう30を越して、それくらいの余裕は持っていた。
 おれはタチバナに覆い被さると、その裸身に吸い付いた。豊かな胸を捏ねながら首筋を舐め、乳首を舌で転がしては、指で既に熱い蜜を溢れさせている秘部をまさぐった。タチバナは必死で喘ぎ声を堪えるようにしながら、おれにしがみついてきた。
 濡れた中にタチバナの陰核を探した。はじめてヤる女の陰核を手探りで探すのは、まるで宝探しをしているようでゾクゾクする。陰核を探り当てられると、タチバナは「きゃんっ!」と大きな声を出してすくみ上がった。陰核を直に触られるのはこれが初めてなのだろうか?そんなことを思うとおれはますます興奮した。
 興奮したついでにおれはズボンとパンツを脱いで、タチバナの手を取り、熱くなっている肉茎を握らせた
 「ひっ」タチバナは目を見開いて自分が握らされたものを見た。怯えたような目だった。
 「どう?…太い?」とかなんとか、おれはくだらないことを聞いたような気がする。
 タチバナは黙って目を伏せて、顔を背けた。そんな態度がたまらなくなり、おれはタチバナの陰核を激しく責め立てた。タチバナはしばらく持ちこたえていたが、仕舞いには喘ぎ声を堪えられなくなり、泣き声を上げ始めた。おれは手を緩めなかった。タチバナは握らされた肉棒を上下に扱き始めた。ヤミクモな扱き方だったが、それがおれを有頂天にさせた。
 だって考えてもみてくれ。昨日まで単に会社の同僚だったふたりが、ほんの数十分前までは服を着ているお互いの姿しか知らなかったふたりが、今はこうやってお互いの性器をまさぐり合っているのだ。こんなすばらしいことがあるだろうか?
 しばらくそんな状態の“こすりっこ”を続け、おれはタチバナの前に立った。そして、肉棒の先端を、タチバナの顔に突きつけた。タチバナは一瞬、ポカンとした顔をしたが、すぐに自分が何をさせられようとしているのか悟ったようだ。恥ずかしそうに目を伏せた。
 「…こういうの、したことある?」おれはタチバナに聞いた。
 「…え…」タチバナが下からおれを見上げる。
 「…したことないでしょ、こういうの」
 タチバナはまた目を伏せた。おれはタチバナの頭を押さえつけて、口をこじあけ、肉棒をねじこんでやろうか、と一瞬考えたが、それはやめた。いくらなんでもそれはやりすぎというものだ。
 「…できなかったら、別にいいけど」
 「…できます
 タチバナは聞こえないくらいの小さな声でそういうと、目を閉じ、ゆっくり肉棒に手を添え、口を開けた。あの時の表情は一生忘れられない。タチバナの口がおれの肉棒を包み込み、舌がぎこちなくゆっくりと動き始めた。
 へたくそな舌づかいだった。時々、歯が当たった。強く舐めすぎたり、吸いすぎたりして、痛いこともあった。タチバナは少々、ヤケクソ気味だった。しかしおれは何も言わず、至福のひとときを送った。健気なそのフェラチオに素直に感激していた。いつしか、妻のフェラチオと比べていた。たまに、ごくたまに、妻もフェラチオをしてくれる。妻はあまりそういう事が好きではない。セックス全般に関して、妻は淡泊なほうだった。セックスのときも、あまり工夫を凝らしたようなことには応じてくれない。というか、応じてくれそうにないので、おれからもあまり妻にはそういうことを要求しない。だから妻がごくたまにしてくれるフェラチオは、酷くおざなりで、やる気のないもののように思えた。タチバナのフェラチオも、技術点はそう高いものではなく、妻とどっこいどっこいかも知れない。
 しかしタチバナは真剣だった。それがおれをなおさら悦ばせた。
 やがて、おれはタチバナの口の中にしたたかに出した。
 我ながら最低だと思う。
 なので、その後は正常位で挿入した。せめてもの礼儀だと思ったからだ。
 タチバナは貪欲だった。隣の部屋に聞こえそうなくらいの喘ぎ声を出した。
 ほんの少しだけ期待していたが、やはり処女ではなかった。そこまで人生甘くはない
 
 そんな事を思い出していると、おれの肉棒はますます固くなっていた。

 
 

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