電話問答 作:西田三郎 ■電話問答
「…わっ!」おれは思わず携帯に向かって叫んでいた。切ろうと思ったが、遅かった。なぜならウチの自宅の電話は番号表示式である。
「もしもし?」妻が電話の向こうで言った。「何?だいじょうぶ?」
「…え…あの…うん、ああ、大丈夫。いや、あの…」おれは目に見えて狼狽していた。
「…切ろうとしたら大声出すよ」タチバナが下から言った。「そのまましゃべりなさいよ」
「…もしもし?もしもし?…ちょっと何よ?あなた大丈夫?」妻が心配そうに電話口で聞く。「もしもし?もしもし?聞こえる?」
おれの頭はパニックになり、混乱し、おかげでチンコは萎んだ。しかし、それを察したタチバナが、ふたたび肉棒を銜えると、激しく舌を使い始めた。
「おい!」おれは電話口を押さえてタチバナに裏声で叫んだ。「どういうつもりだ!」
「しっ!」タチバナが唇に指を当てて言う。「静かにしないと叫ぶわよ!」
「もしもし?ねえ!ちょっと!あなた!何?大丈夫?」妻が電話口で叫んでいる。
「何かしゃべりなさいよ」タチバナはそう言うとまたおれの肉棒を含み、フェラを再開する。
「…あ…あの、いや、ちょっと飲んでてさ。あの、アイツ。タカシマがベロンベロンで大変なんだよ!」おれはとりあえず出任せをしゃべり始めた。「ごめんな、ほんとに」
「ふーん」妻が冷たい声を出した。「なんだ。結構なご身分じゃないの。こっちは朝から大変だったんだから」
大変なのはこっちの方だ。タチバナの口撃はさらに激しさを増した。唇を使って陰茎を扱き上げ、舌先がスジや鈴口を這い回る。おれは腰を引いた。しかしタチバナは這うようにして追ってくる。狭いベッドの上で、おれはあっという間に逃げ場を失った。
「ユカリが大変なのよ。やっぱりなんか、幼稚園でいじめられてるみたいなの」妻は言った。「やっぱ、先生に相談したほうがいいかしら?」
まずい。
「ユカリが?いじめに?」おれは出来るだけ深刻に聞こえるよう気を使って声を出した。「そりゃ、深刻だな。まずいじゃないか」
「ねえ」タチバナがおれを見上げて言う。明らかに意地悪そうな笑いがその顔に浮かんでいる。「気持ちいい?」
「バカ!」おれはまた電話口を押さえて言った。「やめろって!」
「もしもし?あなた?ねえ、真剣に聞いてる?」妻が言う。声がいい加減、怒っている。
「もちろん!…ていうか、もちろん真剣に聞いてるよ!で、何?その、いじめてる相手って、誰?」
タチバナが舌先を使って重点的に鈴口を責め始める。気が遠くなりそうに良かった。
「ううん…なんかユカリははっきり自分では言わないんだけど、同じ組の女の子二人組らしいのよ。シオリちゃんとタカコちゃんっていう」
「…あなた、すごく固い…」タチバナが言った。「ねえ、奥さんそんなこと言う?」
おれは口の動きだけで「やめろ!」と言ったが、タチバナはまた、にやりと笑うと、今度は激しく音を立てておれの肉棒を吸った。チュバッ…チュバッ…チュバッ…その湿りを含んだ音は部屋中に響き渡り、おれは電話を通してその音が妻に聞こえやしないか不安になった。それに加えて、タチバナのフェラチオは凄絶を極めていた。おれはいつの間にかベッドにへなへなと倒れ込んでいた。それでもタチバナは容赦なく過激な音を立てて陰茎を吸い続けた。
「…あたしもシオリちゃんとタカコちゃんのお母さんは知ってるけどさあ…なんかヤな感じの人たちなのよねえ。ふたりとも、同じ会社の社宅に住んでてさあ…なんか、話すことといえば、自分のダンナの会社の自慢話ばかりなのよねえ…別にいいけどさ。それで、どこそこに旅行したとか、娘はどこの私学に入れるとか、車買い換えたとか、新しい家具買ったとか、そんな話ばっかなのよねえ…なんか着てる服も二人とも趣味悪いし。シオリちゃんタカコちゃんのことは直接知らないけど、なーんか、母親見てると想像つくっていうか…」
この状況下では、心底どうでもいいことだったが、妻の話は延々と続いた。タチバナのアグレッシブなフェラチオも延々と続いた。おれは電話に対して、自動的な相槌を打つのが精一杯だった。
地獄のような時間が続いた。
「…あなた…すっごい…」タチバナが熱っぽい声で言った。「こんなになってるよ…」
「おい!」おれはまた電話口を押さえて言った。「“あなた”っていうな!」
「もしもし?あなた?」と、今度はほんものの妻。「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
「も…もちろん聞いてるよ!」声がますます裏返っていた。
タチバナはちょっとムッとした顔をして、再びおれの股間に顔を埋めた。
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