電動
作:西田三郎

「第6話」

■違う

 いったいお風呂場でどれくらいの時間、そうしていたでしょうか。
 気が付くと、もう真夜中を過ぎていました。
 浴室からはあの気配がすっかり消えていました。
 わたしは冷えた身体をぐったりと床に横たえたまま、長い間気を失っていたようです。
 夢だったのかしら…。
 でも、脚の間に激しく流れた液が、すっかり乾燥していることに気づき、その考えはすぐさまうち消されました。わたしは訳もなく自分が恥ずかしくなり、慌てて脚の間をシャワーで洗い流すと、お風呂場を出ました。
 
 寝床に入っても、先ほど浴室でわたしを襲った見えない「何か」は、消しようのない余韻を体中に残していました。振動をあたえられた部分が、それぞれ脈打ち疼いているのを感じます。
 とても眠れるような状況ではありません。

 もしかすると…。

 わたしの頭に、夫の顔が浮かびました。
 
 あれは、夫なのでは…?
 
今や肉体を失った夫が、わたしを慰めるため、そして死してなお消えない、わたしへの愛情と欲情を満たすため、わたしの元に現れたのでは…。全身に寒気を感じました。と同時に、胸の奥から熱いものがこみ上げてきました。
 わたしの思いは、確信に変わりました。
 あれは、夫なのだ。
 わたしのことをあれほどまでに愛してくれた夫が、帰ってきてくれたのだ。
 寝床の中で、熱い涙が頬を伝いました。
 …ありがとう…ありがとう…あなた。
 浅ましく風呂場でひとり絶頂を迎えてしまったわたしでしたが、それも肉体を無くした夫のせめてもの愛の証しなのだと思うと…。それほどまで夫はにわたしを愛してくれていたのだと思うと…。
 わたしは1人寝床の中で泣きました。いくらでもいくらでも泣けそうな気がしました。
 
 しかし…。
 
 突然、わたしを覆っていた布団が、何者かに取り去られたのです。
 枕に顔を埋めていたわたしは、乱暴に仰向けに裏返されます
 「?!」
 夫が亡くなって以来、パジャマを着る気にもなれず、わたしはいつも下着の上にTシャツを着ているだけの姿で寝る週間がついていました。あっという間に、そのTシャツが胸の上までまくり上げられ、そのまま頭の上までせり上がりました。
 Tシャツの首の部分が、わたしの丁度目の下あたりで止まり、わたしは万歳をするような姿勢で、手の動きを封じられたと同時に目隠しをされる格好になってしまいました。
 「…いやあっっ…」
 「振動」の群れが、襲いかかってきました。
 躰のありとあらゆる部分…首筋、両方の乳頭、脇腹、おへそ、内股、膝の裏…体中のいたるところに、一気にその振動する「何か」が、押しつけられたのです。
 「…やめっ…て…うぐっ」
 悲鳴を上げようと開いた口に、「それ」が入ってきました。同じように振動する、太い何かが。
 わたしの口の内壁を、舌を、その振動がなで回します。
 全身に押しつけられたその無数の振動が、それを合図にするようにわたしの全身を這い回り始めました。
 「…うぐっ…くっ…うんっ…」
 先ほど風呂場で受けた刺激の余韻を残した躰は、わたしの心を置いてけぼりにして、激しく反応を始めました。無数の「振動」が…振動をもたらす「何か」を握った無数の「手」が、わたしの躰中を蹂躙します。
 上に上げられた両方の手のひらに、その振動する筒状の物体を握らされました。
 躰はまるでベッドに張り付けになったように、動かすことができません。
 無数の「手」が、わたしの全身を押さえつけているのを感じました。
 全身にもたらされる激しいバイブレーションに、わたしは身悶え、鳴き声を上げました。
 あっというあの部分は火のように熱くなり、快楽の液を噴き出させました。
 ベッドのシーツは腰の辺りまで、ぐっしょりと濡れています。
 まもなく、絶頂がやってきました。
 しかしそれでも、無数の「手」はわたしを許しません。
 無数の「手」はわたしをベッドの上で裏返すと、四つん這いの姿勢を取らせました。
 (いや…いやっ…)
 声を上げようにも、口の中にはまだその振動する筒が、押し込まれたままです。
 四つん這いになったわたしに、下から、上から、前から、後から、振動が再び襲いかかりました。
 乳首を、敏感な肉の壺を、お尻の穴を…。
 
 夫じゃない…。
 
 わたしは直感でそう感じました。
 わたしを弄んでいるのは、夫ではありません。
 部屋の中に、大勢の気配と息づかいを感じました。
 四つん這いの姿勢のまま、悶え、喘ぎ、嗚咽し、許しを請うわたしを取り囲む、大勢の男たち
 そして、わたしは、自分に対して向けられている、火のような男達の欲情を感じました。
 普通なら、これほど恐ろしいことはないでしょう。
 恐怖と戦慄が、わたしを震え上がらせるはずです。
 しかし、そのときわたしを支配していたのは、逃れようもない激しい肉の快楽でした。
 わたしは、その姿のない見知らぬ男達の蹂躙を受け、ひたすらその快楽が成就されることだけを求めていました。
 そんなわたしの気持ちを知ってか…姿なき陵辱者たちはわたしを焦らし、嬲り、翻弄しつくしました。
 やがて…新たに2本の「何か」振動を、躰の2つの部分に感じました。
 「それ」が、蜜を溢れさせている前の穴と、ヒクヒクと痙攣を繰り返す後ろの穴に押しつけられたのです。
 (いやああっっ!!
 後の穴の経験が、無い訳ではありませんでした。
 しかしそれだけに、いまこの状態でそのような刺激をうけて、果たして自分が正気が保てるかどうか、自信がなかったのです。
 しかし容赦なく、その2本は侵攻を開始しました。
 (んっ…くっ……うっ………ううっ…い……や……)
 じわじわとそれぞれの穴に挿入されていく「それ」…。
 わたしは枕を噛み、心とは裏腹にお尻を高く挙げていました。
 「くうっ!!
 一気に、「それ」が挿入されました。わたしの両方の肉の穴が、「それ」をきつく締め上げます。
 「…あああ…はあ………」
 思わず上を向いた口の端から、涎が一滴垂れるのが判りました。
 2つの快楽の穴の中で、「それ」がゆっくりと前後運動をはじめます…。
 その晩のことは、もう覚えていません。
 明るくなった頃には、わたしはTシャツを頭に引っかけたまま、死んだようにベッドに横たわっていました。
 わたしが身を横たえていたシーツは、わたしの汗と、悦びの液で、バケツをぶちまけたようにぐっしょりと濡れていました。
 

NEXTBACK

TOP