電動
作:西田三郎

「第7話」

■それから

 明らかに夫ではない姿のない陵辱者たちは、それから毎夜のようにわたしを弄び続けました。
 わたしはその度に浅はかな快楽に打ちのめされ、何度も絶頂を迎えました。
 日が経つにつれ、陵辱者達は、始めの頃のような滅茶苦茶な愛撫をしなくなりました。
 
 わたしの躰にいくつかある、快楽の壺を知り尽くしたのでしょうか?
 
 やがて陵辱者達はその部分をゆっくりと、じらすように責めるようになり、わたしは何時間もの間、涙を流しながら絶頂を求めてベッドの上をのたうち廻りました。
 
 今でも、確かに恐怖は感じます。
 しかしいつのまにか、わたしはそんな夜を待ち遠しく思っている自分に気づきました。
 むしろ、そのことのほうがわたしを果てしない不安と絶望に追い込みます。
 
 また、陵辱者たちは時と場所をあまり選ばないようになりました。
 夫のお墓を参ったとき、墓の前で無数の振動が襲ってきたことがあります。
 また電車の中や、人と会っているときも…。
 
 次第にわたしは外出を避けるようになりました。
 今はひっそりと夫が残してくれたこの家に暮らし、いつ来るともしれないあの「振動」の群に怯えながら、いやむしろそれを待ちわびながら、日々を過ごしているのです。

 夫の霊が居るはずの仏壇の前で手を合わせる度に、わたしの心の中では、夫への申し訳なさと、こんなふうに、わたしをひとりぼっちにしたことへの恨めしさが交差します。
 いっそ何も感じないようになればいいのに…そんな風に思うこともあります。
 
 それでも今日も、わたしは夫の仏壇に手を合わせます。
 ごくまれに…夫の仏壇の前で手を合わせている時に、あの陵辱者たちがわたしを襲うことがあります。
 夫の仏壇の前で辱められ、それに応えてはしたない声を上げるときは…強烈な快感が、いつもより早く、わたしを絶頂に導きます。
 そんなわたしを、夫はどのように見ているのでしょうか?
 
 仏壇の鐘を鳴らすと、お線香の匂いと鐘の音の余韻が、静まり返った部屋を満たします。
 
 と、わたしのうなじが鳥肌を立てました。

 背中に感じるのです。
 わたしに対する果てしない欲情を抱いた、何人もの姿なき陵辱者の気配を。
 わたしはゆっくりと振り向きました。
 相変わらず、彼らの姿は目に見えません。
 わたしはもう一度仏壇に向き直り、夫の遺影に微笑み掛けます。
 そうするといつも、夫とわたしを隔てている距離が、少しだけ縮まるような気がするのです。
 
 姿を持たない無数の気配が、いつものようにわたしを飲み込んでいきました。
 
 <終>
 20048.16

 感想などありましたらお気軽にどうぞ。読んで本気汁出します(笑)

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