電動
作:西田三郎

「第3話」

■電動

 数分後、わたしは全裸でベッドに躰を横たえていました。
 性的な行為を前提に、夫にまじまじと全裸を見られるのはこれが初めてでした。
 結婚してもう3ヶ月になるというのに、自分が全裸であるという事実、それを性欲以て夫がが眺めている事実が、わたしの羞恥に火をつけました。何だか、ものすごくいやらしいことをしているような気がして、わたしの顔は熱くなり、思わずベッドの上で身をよじってしまいました。
 「隠さないで」夫が言います。
 「でも…」
 夫は手にしている、バイブレーターのスイッチを入れました。
 バイブレーターは薄いクリーム色で全長20センチ、直径はだいたい4センチ半。
 刀のように反り返った形が、異様に生々しくわたしの目に映ったことを覚えています。
 かつての買春時代に、客である男達の何人かにバイブレーターを使われたことはありました。
 男達は悦んでいましたが、わたし自身はそれほどいいものとは感じませんでした。男達は、これを魔法の杖かなんかと勘違いしており、これを使用すると女は自動的によがり狂うと考えていたようです。
 バイブを出し入れしながらAVから借りてきたような卑猥な言葉を投げかけてくる男達を前に、わたしの心はどこまでも醒めていました。
 しかし、今バイブレーターを手にしているのは、私の愛する夫です。
 バイブレーターの振動音を聞いているうちに、わたしの膝から脚の付け根までの部分がだんだん熱くなってくるのを感じました。夫とつきあいはじめて結婚まで半年。そして、このセックス抜きの結婚生活をはじめて4ヶ月。そのときはじめて気が付いたのですが、10ヶ月もの間、誰とも躰を重ねることのなかったわたしの躰の中では、知らないうちにセックスへの欲求が手の施しようもないくらいに膨らみ、膿を出していたようです。
 まるで夫を蝕み、奪っていった癌細胞のように。
 
 バイブレーターの先端が、わたしの膝小僧にちょん、と触れました。
 「ひっ」
 それだけでわたしの全身がわななき、体中に鳥肌が立つのを感じました。夫はそのまま、バイブレーターの先端をわたしの肌に当てながら、ゆっくりと膝小僧から内股まで、線を引くように動かしていきます。
 「…んっ…あっ…」早くも、わたしの口から声が漏れます。
 夫は何も言わず、バイブの先端でわたしの躰をなぞり続けます。
 しかし内股までくるとお腹のほうに、おへその下あたりまでくると、乳房の間に、そして乳輪の周りを一週すると、首筋に…そんな風に夫は巧みにわたしを焦らし続けるのです。
 一体、この人のどこにこんないやらしい部分があったのだろう、そう思うと、何故かますますわたしの躰は熱くなりました。
 「あっ…やっ…」
 バイブの先端が、わたしの乳頭の先に触れたのです。わたしはベッドの上で、ビクン!と躰をくねらしてしまいました。と、夫の指がわたしの脚の間に分け入り、湿りを帯びた肉の部分を目指します。
 「…んんっ…」
 「…すごいよ、ものすごく濡れてるよ…」夫が低い声でいいます。いつもの優しい夫ではない、いやらしい夫がそこに居ました。
 わたしは、これまで知らなかった夫のそんな一面を知り、悶えながらもますます夫のことが愛おしくなりました。
 夫の攻撃は少しずつ激しくなっていきます。バイブレーターの振動によりそそり立った両方の乳頭を、夫の舌が交互に嬲りました。その間、脚の付け根ではバイブレーターが、蜜を溢れさせた裂け目の周りを行ったり来たりします。夫は起用にもバイブを持っていないもう片方の手で、濡れた中にわたしの快楽の花心を探り当てました。
 「はあっ……あっ」思わず近所に聞こえそうなくらい大きな声をだしてしまいました。
 「ほら…ここ…?」おっとが耳元で囁きながら、花心を的確に捉えた指を、まるで蜜を塗り混むようにして動かします。
 「…いやっ……ああっ…ああっ…」わたしはほとんど泣きそうな声を上げました。
 「……君は、こんなにいやらしかったんだね」夫が耳元で囁きます。
 「…あなただって…」夫の顔を恨めしく睨みつけながらも、わたしの口からは新たな嗚咽がこぼれおちます。「あっ…やっ…いい…」
 「いい…?」
 「…うん」
 「これを、入れて、欲しい?」耳を舐めるように近づけられた夫の口が、いやらしい言葉を囁きます。「ねえ、入れて…欲しいの?
 「…うっ…くっ…い…れ…入れて…」もはや泣き出しそうなわたしは、夫に懇願するように言いました。「入れて…」
 「しょうがない…いやらしい子だなあ」夫はそういうと、わたしから離れました。
 そして、わたしの足下まで移動し、わたしの膝を立てます。夫が何をするか即座に理解したわたしは思わず大きな声を出しました。
 「いやっ!
 しかし夫は強い力でわたしの両膝を左右に開きました。いつもは性的なことに淡泊で、柔和な夫が、いやらしく蜜を溢れせたわたしの裂け目をまじまじと見つめています。わたしは、まるで生まれて初めて男性にその部分を見られたときのように、いやそのとき以上に、燃えるような羞恥を全身で感じました。
 「…お願い、見ないで…」わたしはまともに夫の顔を見ることもできず、蚊の鳴くような声で言いました。「ね…恥ずかしいから…お願い」
 「…きれいだ…」そう呟くなり、夫はわたしの脚の付け根に顔を埋めました。
 「…いやあっ…!」
 夫の舌がわたしの花心を探り当てるより早く、わたしは甲高い声を上げて弓なりに反り返りました。夫はいやらしい水音を立てながら、溢れ返っていたわたしの蜜を舌ですくい、また塗り込め、吸い上げます。わたしは自分が、恥知らずなまでに大きな声を上げていることに気づき、思わず自分の手の平を噛んでそれを必死に押さえ込みました。
 あっという間に、わたしは絶頂まで追いつめられました。せり上がってくる炎のような快感を、自ら解放しようとしたその瞬間、夫の口がわたしの裂け目から離れたのです。
 「…ああ…」わたしは追いすがるように夫に手を伸ばしていました。夫にこんな意地悪でいやらしい部分があったなんて…そしてこんなにも、わたし性的な快楽を求めていたなんて…わたしの頭はぼーっとして、もはや理性を失っていました。
 「…お願い……それ……入れて…」わたしの指が蠢動するバイブを指さしていました
 夫は優しい笑みを浮かべると、わたしの両脚をさらに開き…先端を濡れそぼった入り口に、ちょん、と当てました。
 「…はううっ!」バイブレーターの振動が、まるでわたしを串刺しにするように、脳天まで駆け上がりました。腰がそれのさらに深い挿入を求めて、円を描くように動きます。
 「…いやらしい…いやらしいよ…」と夫。「いやらしい君は…もっと素敵だよ
 「…はや…く…いれ…て…」涙が一滴、目の端からこぼれ落ちるのを感じました。何故なのかは、今でもよく判りません。「…おね……がい…」
 ゆっくりとバイブの先端が侵入を始めました。
 わたしの肉壁が、性器を模して作られたその人工物をきつく締め上げます
 「…もっと…奥…ま…で」わたしはバイブの侵入を助けるように、主人の手に腰を押しつけていました。「……はやく……はやくう…」
 「いくよ…」
 「ふうっ!!!」バイブレーターが一気に奥まで挿入されました。
 バイブを締め上げるわたしの肉壁から、快楽の粘液が止めどなく流れるのと同時に、わたしの目からも熱い涙が流れました。これまでに数え切れないほどの男と躰を重ねてきたわたしでしたが、そうした中で、これほどまでの快楽を感じたことはありません。肉体の快楽と精神の悦びが、これほどまでにはっきりと結びついたことはありません。
 笑わないで下さい。これが私たちの初夜だったのです。
 夫のバイブの使い方は、わたしの肉体を気遣い、そしてわたしの快楽だけを考えた献身的なものでした。
 夫はわたしに様々な体位を取らせ、バイブレーターでわたしを愛しました。
 夜明けまでに、わたしは7回、絶頂を迎えました。

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