蛇蝎 作:西田三郎


■真珠 


 気が付くと、七瀬がベッドの上に仁王立ちになって藤枝を見下ろしていた。長時間にわたる舌による責めで、息も絶え絶えになった藤枝は、そのことにしばらく気づかなかった。
 「…ななせ…さん?」藤枝は自分の声がすこし掠れていることに気づいた。
 七瀬は黙っていた。
 「どうし…たの?」
 「…あと、ふたつ…お願いがあるんだ…」七瀬の声は、いつもの優しい声だった。
 「…なに?」
 「…その…僕の…アレを見ても…驚かないで欲しいんだ…」
 「…?」
 藤枝は七瀬を見上げた。七瀬はすっかり元気をなくして、俯いている。
 「…なんの、事?」
 「…その…僕の…アレは…普通じゃないんだよ
 「…」
 どういう事だろうか。七瀬は黙っている。藤枝はどうしていいかわからず、しばらく七瀬が語りはじめるのを待った。普通じゃない?何か問題でもあるんだろうか?暫くすると、七瀬は意を決したようにチノクロスのズボンの前を自分で開け始めた。
 「…驚かないでくれよ…」
 ズボンを脱ぎ、パンツを降ろした。
 「…きゃ…」藤枝はそれを見て、さっき入れ墨を見せられたときと同じような、小さな悲鳴を上げた。とんでもない大きさだった。これまでに見せられた男のどんなものよりも大きかった。それが張りつめ、くっきりと上を向いている。先端は黒光りして、すでに溢れ出した先走りの液でぬらぬらと輝いていた。その恐ろしいまでの大きさに、藤枝は思わず言葉を失った。…しかし、だからといって普通じゃない、というほどのことでもない。まだ藤枝は腑に落ちなかった。
 「…あの…でも…そんなに…ふつうじゃないってわけじゃ…」藤枝は言った。
 「…近くに来て、見てごらん…」七瀬が言った。「ほら…」
 藤枝は身をおこすと、ベッドの上を這い、仁王立ちになった七瀬の前にひざまづくように尻を沈めた。なんか変な気分になったが、とりあえず七瀬に言われるままに、その逸物を間近で見た。
 「…え…」
 七瀬の陰茎の先端、亀頭の下の、くびれたあたりに、異質な突起物があった。さらに、ひとつではなかった。左右対称にひとつづつ。さらに、上にひとつ。合計3つの突起物が見てとれる。
 「…なに…これ…」藤枝が言った。
 「…その…なんていうか…真珠だよ」
 「…真珠?」そういえば、聞いたことがあった。ヤクザは女を悦ばせるために、痛い思いをして大事なところにそういうものを入れるとか、入れないとか
 「…触ってくれる?」七瀬が言った。
 「…え?」
 「…あの…イヤだったら、いいけど…」
 藤枝はそのグロテスクな逸物をしばらく眺めてから、唾を飲み込み、意を決して手を伸ばした。その間、逸物はまがまがしいばかりに張りつめ、一向に勢いを失う気配を見せない。 
 指が触れた。信じられないほどの熱を感じて、そのすぐ後に力強いを感じた。思わず手を引きそうになる。その手を七瀬の両手が包み込み、制した。
 「…あっ…」
 しっかりと、脈打つ熱い肉帽を握らされる。薬指が、その側面の突起に触れた。はっきりとした固さを感じる。手のひらに、反対側の突起を感じた。
 …これが、あたしの中に?
 奇妙な痺れが、藤枝の背中を駆け上がった。
 「…それから…もうひとつ」七瀬が少し上擦った声で言った。「…お願いがあるんだ」
 「…え…」
 「…あの…僕、その…するとき…ちょっと…言葉が、乱暴になるんだ…」
 「…乱暴って…?」
 「その…」七瀬が口ごもった。「…その、僕、出身関西だから…」
 そのような話は聞いたことがあった。時々、七瀬の言葉の端々に西の方のイントネーションを感じるときもあった。これまで、藤枝は関西出身の男とつきあったことがなかった。近い友人にも、関西出身の人間はいない。
 「…べつに…いいけど…」藤枝は言った。
 「あの…ほんとうに…言葉が乱暴なだけで…乱暴なことはしないから…」
 「…」七瀬が何を言っているのか、よく判らなかった。
 その間にも七瀬の禍々しい肉棒はさらに猛りを増し、藤枝の手の中で息づいている。
 切っ先がまっすぐ藤枝の顔を向いていた。先走りの液を止めどなく滲ませ、潤んでいる鈴口、一瞬目が合ったような気がした
 思わず、顔を背けようとした藤枝の頭を、がっしりと七瀬の両手が押さえた。
 「?!」
 顔に鈴口が近づいてくる。その先端は、明らかに藤枝の唇を狙っていた
 「…いやっ」思わず声が出て開いた口に、亀頭がねじ込まれる。「…んっぐっ…」
 無意識のうちに歯を立ててはいけないという自制心が働き、藤枝は陰茎の口への侵入を許していた。そのまま一気に喉元まで陰茎が差し込まれる。息がつまりそうになった。
 「むぐ…」
 口の中一杯に、七瀬の陰茎があった。
 「…しゃぶれ…」七瀬が低い声で言った。
 陰茎を口に頬張ったまま、七瀬を上目遣いで見上げる。また、七瀬の表情は照明の逆光になっていて伺えない。それまで、藤枝にはフェラチオの経験が無いわけでもなかった。2度や3度、いや、4度や5度くらい、これまでつき合ってきた男に求められてやってみたことはある。だから、やり方がわからない訳ではなかった。しかし、今、口の中にあるそれはこれまで口に入れたどのものよりも、熱く、固い。しかも、そのを口の中で感じたことなど、これがはじめてだった。
 「…」藤枝は目を閉じ、舌を動かし始めた。
 「…どうや…固いか…ん?」七瀬が言う。明らかに、普段の七瀬とは別人の声だった。
 「…む…」何か言おうとしたが、口には陰茎、頭の中は酷く混乱している。
 「…なんや…結構、上手いやないか…どうや…口ですんのん、好きか?」七瀬が低い声で続ける「好きなんやろ?
 舌先に真珠のはっきりとした固さを感じた。舌を引かずに、そこを舐めた。七瀬が途切れ途切れに、関西弁で卑猥な言葉を投げかけてくる。そのたびに、ベッドの上で正座するように沈めた尻の奥で、何か熱いものが渦巻いている。背骨全体が、奇妙な痺れを帯びている。足の裏の一部が、むき出しの秘部に触れていた。舌を使うたびに、その部が熱くなり、さらに潤みを増すのを感じた。
 「…んっ…くっ…ぐ…んぐっ…」
 気が付けば藤枝は、激しく喉の奥に向かって突き上げてくる七瀬の動きに併せて、頭を動かしていた。めちゃくちゃに、舌を動かしていた。口の端からあふれ出た自分の唾液が、を伝い、首筋を伝い、鎖骨まで垂れた。
 「…どないしたんや…凄いやないか…」七瀬が少し上擦った声で言う「…誰に仕込まれたんや…それとも、こんなんが案外好きなんか…?
 妙な話だが、藤枝はそんな言葉を浴びながら、悦びを感じた。何か、学校の先生に誉められたような、そんな気分だった。さらに舌を巧みに動かした。これまでの経験など、まったく頭に無かった。思うように舌を動かし、舐め、吸った。3つの真珠を舌先で転がし、裏筋を舐め上げ、味のする鈴口を擽った。
 「…おお…ええぞ…ほんまに…ええぞ…」七瀬の声がますます甲高くなる
 藤枝はさらに気分が良くなり、頭を振りたくり、高らかに淫らな音を立てながら七瀬の逸物を吸い上げた。薄く目を開けると、部屋の壁に、細長い姿見があるのが見えた。横目で見ると、仁王立ちの七瀬の前に跪き、頭を振って激しく奉仕している自分の姿が見えた。思わず目を逸らしそうになったが、逸らすことができなかった。ますます燃え上がり、痺れてゆく自分がいた。
 「…おお…ええぞ…イク…いく…」
 このまま口の中に出して欲しかった。これまで口の中で射精されたことはない。考えただけで、ぞっとした。しかし、今は違った。もう、何でも出来そうな気になっていた
 「…おうっ!」
 突然、七瀬の陰茎が口から引き抜かれる。
 突き飛ばされるように、頭を後ろに押された。
 目を開けると、ぱっくりと開いた鈴口が真正面を向いていた。
 顔を背けるより先に、大量の濃い精液が、津波のように藤枝の顔面に降り注いだ。
 
 


 
 

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