蛇蝎 作:西田三郎
■剥かれる
「きゃっ…」
少し強い力で、藤枝はベッドの上に押し倒された。
仰向けになったまま、七瀬を仰ぎ見る。七瀬の顔は、照明に逆光になっており、見えなかった。荒い息づかいだけが聞こえた。顔は見えず、両肩に彫り込まれた牡丹だけが暗い色を帯びている。正直、藤枝は少し怖くなった。
「…ななせ…さん?」
七瀬が覆い被さってきた。
「…やっ」
七瀬が荒々しく、藤枝の白いブラウスのボタンを外しに掛かった。引きちぎらんばかりの荒々しさだった。と、思えば、本当にボタンが二つ飛んだ。
「…ちょっと…」
あっという間に前がはだけられ、むしり取るようにブラウスがはぎ取られる。
「…いやっ…」あまりの激しさにあっけにとられながら、藤枝は露わになった薄いブルーのブラジャーを両手で隠した。すかさず、七瀬が下半身に襲いかかる。
「待って…きゃっ!」有無を言わさずベッドの上で裏返された。
ベージュのフレアスカートの後ろのホックが外され、ジッパーが引き下ろされた。あれよという間に、スカートが引き抜かれる。薄いグレーのストッキングに包まれた、藤枝の尻が露わになった。ストッキングの下の下着は、ブラジャーに合わせた薄いブルーだった。
「…待って…ねえ…」俯せのまま、藤枝は横顔で七瀬を見上げて言った。
次に七瀬は藤枝の予想の及ばない行動に出た。
「…?!」
七瀬は藤枝の尻をストッキングの上から鷲掴みにすると、そのまま引っ張って引きちぎった。甲高い音を立てて、ストッキングが裂ける。
「…やっ!!」
狼狽し、恐怖とショックに動転しながら、同時に藤枝は下半身に熱いものを感じていた。抵抗する自分の声。七瀬の息づかい。ストッキングが裂ける鋭い音。そして、荒々しくストッキングを引っ張られることによって与えられる下半身への嗜虐的な感覚…それらがいつの間にか、自分を亢ぶらせていることに、藤枝は気づいた。
藤枝の狼狽を後目に、ストッキングは七瀬の手によってボロ布のようにズタズタになった。
「やめて…」藤枝は弱々しく言った。その声に熱っぽさがこもっていることは、自分でもはっきりと判った。「…お願い」
ストッキングの残骸とブラジャーとパンティーだけにされ、俯せになった自分を七瀬が見下ろしている。藤枝はいつの間にか腰を少し持ち上げていた。
しばしの間を置いて、七瀬がふたたび藤枝に襲いかかった。ブラを外され、引き抜かれ、乳房が解放される。
「やあっ…」藤枝は両腕で露わになりそうになった乳首を辛うじて隠した。
その隙に七瀬の手が下半身を襲った。ストッキングとパンティーが、同時にずり降ろされる。
「…ちょっと…ちょっと待ってっ…!」
藤枝が腰をねじった。その動きを大いに利用されて、藤枝は空しく仰向けに転がされた。
さすがに全身で羞恥を感じた。両腕でしっかり胸を締め付けるように隠しながら。腰をねじり脚を交差させて股間を隠す。両目を固く閉じ、七瀬から顔を背けた。しかし股間は、火のように熱くなって、蜜は今にも溢れそうになっている。
「…案外、ええ躰しとるやないけ…」
七瀬が、小さな声で、呟くようにそう言ったような気がした。相変わらず、その表情は逆光でうかがえない。
「…え?」藤枝が一瞬、七瀬を見上げた。
七瀬が少し顔を下げる。逆光がつくっていた影が消え、いつもの優しい七瀬の顔が現れた。
「…いや…なんでもないよ」七瀬が目を伏せて笑う。
藤枝も、少し戸惑いながら微笑んだ。
と、そのとき上半身に七瀬がまた覆い被さってきた。
「…あっ!」
唾液をたっぷり含んだ下が、藤枝の首筋に押し当てられる。すかさず舌は、縦横無尽に藤枝の首筋をねぶり回した。大量の唾液が藤枝の首筋をなめらかにする。
「…んっ…あっ!」
さらに七瀬は藤枝の躰の上を這い下りると、藤枝の左乳首に吸い付いた。もう片方の乳房は、七瀬の小指のない左手によって乱暴に掴まれ、そのままこね回された。唇により吸い上げられた左胸の乳頭は、細くすぼめた舌先によって転がされる。湿り気をおびた、派手な音がした。同時に、右の乳房を捉えた七瀬の指が、乳首をつねるようにねじ上げる。
「…いっ…いたっ…やっ…」
痛みを感じた。しかしそれは同時に、甘美な感覚ももたらし、藤枝の躰の芯を痺れさせた。これまでに味わったことのない感覚だった。
ぴったりと合わせた太股の合わせ目で、快楽はますます熱を帯び、その証として樹液を分泌させている。太股をすりあわせる度に、藤枝はそのぬめりを内股に感じた。
「…はっ…くっ…」
そんな藤枝の変化を見透かしてか、七瀬の舌が下へ移動した。先ほどまで舌でいたぶられていた左乳房を、今度は七瀬の小指のある右手が掴みあげた。そのままの姿勢で、舌が鳩尾を下り、へそに下りる。まるで全身に唾液を塗りたくろうとしているかのようだった。
七瀬の細くすぼめた舌先が、藤枝のまるく窪んだへそにねじ込まれる。
「…んんんっ!!」
藤枝の平たい腹がうねった。すこし浮いた腰を見逃さず、七瀬の両脇ががっちりと藤枝の脇腹を捉える。舌はさらに下方へ侵攻した。
「…あっ…やっ…」
脚を閉じようとしたときにはもう遅かった。太股を閉じたときには、すでに七瀬の頭がその間にあった。ついに七瀬の舌は、藤枝の翳りに到着し、舌先が翳りをかき分けて動き回った。
「…やめ…て…」
瞬く間に藤枝の翳りは七瀬の唾液にしたたかに濡らされ、ぐしょぐしょになった。
自分の陰毛が吸い上げられ、しゃぶられる湿った音がはっきりと聞こえた。
その音の淫猥さに、思わず藤枝は顔を背けた。そして、あふれ出しそうになる声を抑えようと、人差し指の腹を噛んだ。内股に七瀬の熱い息づかいを感じた。
そんな藤枝の羞恥などおかまいなしに、七瀬は次の行動に出た。
両方の膝小僧が掴まれ、上に持ち上げられた。立てられた両膝を、間髪入れず左右に開かれる。
「いやっ!」
両脚を思い切り開かされた。閉じようとする力は膝小僧をがっちりと押さえた七瀬の手に封じられている。恥ずかしいほど濡れそぼった秘部が、七瀬にむき出しになっていた。しばらくの間、七瀬はそれを黙って見ている。身を焦がすような羞恥が藤枝を襲い、身もだえさせた。両目をしっかり閉じ、背けた顔を枕に埋める。全身が震えた。
「…おね…がい…み…見ないで…」ベソをかくような弱々しい声で藤枝は言った。
「…なんや、もうベッチョベッチョやないけ…」また、小さな声で七瀬がそう言うのが聞こえたような気がした。
「…え?」
「…いや、なんでもないよ」
七瀬の顔が、藤枝の股間に埋められた。
「いやあっ!」
藤枝が半身を起こし、叫んだ。しかし、すぐ舌が秘部を這う湿った音と、激しい感覚が襲ってきて、ベッドに押し戻された。舌はあふれ出る藤枝の蜜をすくいあげ、奥まで侵入した。すざまじい動きだった。正直な話、藤枝はこれまで男からクニリングスをしてもらったことがなかった。その洗礼にしては、この七瀬の責めは激しく、執拗なものだった。
「…あっ…ああんっ…あっ…んあっ…あっ…あああっ」
一重は激しく喘いだ。背中が持ち上がった。躰が弓なりに反り返った。舌の動きに併せて、ゆっくり腰を動かしている自分がいた。
やがて、七瀬は両手で、蠢く藤枝の腰をがっちりと押さえ込んだ。
七瀬の舌が的確に陰核の先を捉えた。
喘ぎは、甲高い悲鳴に変わった。
それからしばらくのことは、自分でも良く思い出せない。
執拗な舌の動きに、藤枝は翻弄され、追いつめられ、はしたない泣き声をあげて、肉の悦びに全てを失った。
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