蛇蝎 作:西田三郎


■それまでの男 



 もともと、藤枝はあまり男運がいいほうではなかった。
 初めて男とつき合ったのは、大学1年生の時。相手は何となく入ったアウトドアサークルの先輩だった。特にいい男でも、人格的に優れた男でもなかった。どこにでもいる、ありふれた男だ。
 藤枝は高校時代、どちらかと言えばまじめで奥手な方だった。当然、周りの友達には彼氏が居たし、藤枝自身もそれに対してうらやましさを隠せなかったが、実際、自分が男性とつき合うということを現実的に考えることができなかった。男性と一緒に歩いている自分、抱き合ったり、キスをしたりしている自分、そういう周りでは当たり前に行われているらしいことを、上手く自分に当てはめてイメージすることができなかった。
 まして自分が男性とセックスすることなど、何か遠い国の出来事よりもずっと、頭の中で絵として浮かんでこない事柄だった。
 それでも、大学に入学すれば、なんとなく彼氏というものが出来て、何となくつき合えるものだと思っていた。案の定サークルに入れば、その2年上の先輩が言い寄ってきた。とりあえず一番先に言い寄ってきた男と、藤枝はつき合いはじめた。
 結果はそれなりに惨めなものだった。
 

つき合いはじめて2週間、さっそく藤枝は男にを求められた。
 その男の下宿に遊びに行った時だった。
 当然それまで性体験は無かったが、その男の部屋に一人で遊びに行き、二人きりになるということは判っていた訳だし、自分でもある程度そのような事態になることを想定していたところもあった。
 しかし、いざ男に床に押し倒され、荒い鼻息で衣服を剥ぐように脱がされはじめると、恐ろしさと同時に、ひどい幻滅を感じた。藤枝は少しばかりの抵抗を試みた。あんまり本気で抵抗すると、相手を傷つけてしまいそうで怖かった。遠慮がちに抵抗する藤枝に、男はたいそう興奮させられたようだった。男は藤枝の服をすべて剥がすと、頭の悪い犬のように全裸の藤枝を嘗め回した。本当に、頭の悪い犬のように藤枝には思えた。なんで男が女の躰を舐めたがるのか、さっぱり判らなかった。
 おざなり闇雲な愛撫のあと、男はいきなり張りつめた剛直を藤枝に突き立てようとした。
 当然、それほど性交に対して乗り気ではなく、男の狼狽ぶりに戸惑っていた藤枝の躰はすんなりとそれを受け入れるはずもなかった。永遠に続くかと思われる試行錯誤と、藤枝の多大な苦痛の末に、なんとかその日の性交は実現した。藤枝の出血を見て、男は安い感慨にふけっていた。幻滅と後悔の念で白け、醒め、放心状態になっている藤枝を後目に。
 その男とはそれから2、3回性交した後、半年で別れた。
 

 その後も、3人の男とつき合った。
 大学在学中に2人、社会人になってから1人。
 それが多いほうなのか、少ないほうなのか、よくわからない
 しかし、どの男も大差なかった。2、3回デートしたら、すぐセックス。セックスが済むと、いつも藤枝は相手の男に対する積極的な興味を失った。男の浅ましい本性に幻滅するからだろうか?
 いや、なにかが違う。
 セックスに対して、もともと興味を持てないからだろうか?
 いや、それも違う。
 セックスが重要だからではないかな、と、藤枝はある時思った。
 セックスばかりが男女の全てではないのは判っている。しかし、重要な要素であることは確かだ。
 それにより満足を得られないことが、自分が相手の男との良い関係を築けない理由かもしれない。
 基本的に、自分はセックスが大好きで、それを満たされないから、男と上手くいかないのでは。
 そんなことを考えてみたりもするが、そんな時はいつも空しい孤独感に苛まれた。
 寂しさを噛みしめるような時間が増えたことに、最近藤枝は気づいていた。
 


 
 

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