バベイオモイド神様が見てる
〜秋〜
作:西田三郎
■2004年6月10日(雨)
偉大なるバベイオモイド神様
また九州です。
今度は11歳の女の子が同級生の女の子をカッターで殺したそうですね!
今度は11歳です!
去年、バベイオモイド神様は12歳の男の子に人殺しをさせましたが、こんどは11歳ですか!!
だんだんお選びになる使徒の年れいが下がってきているような気がしますが、この調子でいけば来年は10歳ですか?
今からなにが起きるのかどきどきしています。
なんだかその子の顔写真がインターネットで出回っているらしく、あたしも中学入学と同時にパパから買ってもらったパソコンでいろいろと探し回ったのですが、けっきょく見つけることができませんでした。とってもかわいい子だそうですね。なんだかネットの世界ではアイドルみたいになっているらしくて。かわいい子って得ですね。なにをしても許されちゃうみたいな。
でも、その子はホームページを作っていたそうです。
そのホームページも今はもう見ることができませんが、なんだかすっごく頭のいい子だったとか。
殺された同級生もホームページを作っていて、そこでのけい示板のやりとりで頭にきたその子……なんだかネットでは“ダラス”というあだながついていますが……がカッターで相手ののどを切ったそうです。その子は血まみれになりながらも、クラスにもどってきて、給食をたべようとしたそうじゃありませんか。すごい!
なんだかくやしいほどイイ人殺しです。
テレビではダラスちゃんの犯行について、社会学者だの教育評論家だの精神科医だのなんだのがいろいろとズレたコメントをしています。みんなアホばっかりです。
なんであの人たちは『自分には知らないことがある』ってことすらわからないのでしょうか?
『心の闇』って何よ?
まったく頭の悪いバカゲスブタクソ野郎どもです。
彼女が同級生を殺した理由なんて、あの連中に理解できるわけがありません。
8歳のときからあなたに祈りをささげているあたしですら、あなたの御心は理解できないのですから。
世間というのは何に対しても『理由』を求めるのですね。たとえそれがバカな学者のクソボラであっても、寝言であっても、とりあえず世間は『理由』がほしいのです。まったくアホくさいったらありません。
遺薔薇屠死夫様やダラスちゃんが何を考えていたか?
そんなこと、あたしにもわかりません。
ただ、あたしにわかるのは、あなたが彼、彼女らに『そうさせた』ということだけです。
だいたい、テレビに出てくるえらい学者先生たちは、2001年のアメリカのテロや、今もイラクで続いている戦争、日本人人質の首を切ったテロリストたちの事件と、遺薔薇屠死夫様やダラスちゃんの事件は、まったく別の問題だと考えているようです。
テロや戦争で人を殺すのと、学校で同級生を殺すこと、これにいったい何のちがいがあると言うのでしょう?
ほんとうに世間の大人のバカさ加減にはあきれてしまいます。
あたしにはわかります。
バベイオモイド神様。この世の中で人間にひどいことやむごいことをさせているのは、ぜんぶあなただということが。その理由mであたしは知ろうとは思いませんが。
ところで……中学は小学校以上につまらないところです。
たまにダラスちゃんやなんかの件で、バベイオモイド神様があたしを楽しませてくれないと、ほんとうに気がくるってしまいそうになります。人間って年をとればとるほど、バカになっていくものなのでしょうか?
耐えられないのはクラスの女子たちです。
みーんな、色ボケの下品な売春婦以下の腐ったゲスだらけです。
彼女らが話題にするのは、セックスに関する話題だけ。
何組の何々くんがイイとか、あれはよくないとか、そんなことばっかり。
男子の前ではへなへなとこびて、気持ちの悪い猫なで声だして、ほんとうに気持ち悪いったらないです。
ダラスちゃんがどんなつもりで同級生の首を切ったのかは知らないけれど、あたしにもうすこし勇気があって、自制心がなければあたしだってクラスの女子全員の首をカッターで切り落として、窓ぎわに観葉植物みたいに並べてやりたい気分です。
あたしはよく、得に退屈な5時間目の授業中なんかに、妙な空想をして過ごします。
たとえば歴史の白井がウソばっかりのインチキ日本史の授業をしているような、けだるい光が射し込む教室のドアを蹴破って、りょう銃を手にした梅川昭美が乱入してくるのです。
梅川は1979年(あたしの生まれる12年前です)、大阪の三菱銀行に立てこもった銀行強盗です。
梅川の話は、当時銀行の近所に住んでいたおばあちゃんから聞きました。
あたしにしてみれば……遺薔薇屠死夫様の次にあたるスーパースターが、梅川です。
あたしは梅川に興味を持って、図書館に出かけていっては当時の新聞や梅川に関する本をたくさん読みました。インターネットでも調べました。
梅川はアフロヘアに黒い帽子に黒いスーツ。教室に乱入してくるなり、担任の白井を散弾銃でふっとばします。黒板に白井の脳みそが飛び散るのです。なんてすばらしい眺め!!!
「ようしオマエラ、おとなしゅうせいよ。わしの言うことを聞いたら誰も殺さん」梅川が叫びます。
クラスメイトたちはみんな真っ青になって震え上がります。
いつもでかい面をしているラグビー部の吉川なんか、実は根性がなさそうなので、それだけでチビってしょんべん垂れ流すかも知れません。
梅川はあたしたち全員に机や椅子で窓や入口にバリケードを築かせたあと、全員に素っ裸になるように命じます。
多分それを拒否できる勇気のあるやつなんて、誰もいないでしょう。
クラスでいちばんの美人である(と自分で思っている)伊東も、男子の中でいちばんモテる(と自分で思っている)大石も、サッカー部の田中も、学年一おっぱいの大きい坂田も、みんな素っ裸です。
もちろんあたしも素っ裸になります。
あたしの胸はまだぺったんこで、お尻にもぜんぜん肉がついていません。
そんな子どもっぽい身体をみんなに見られるのは恥ずかしいですけども、みんな裸なのです。
あたしは恥ずかしさよりも、何か別の感情で胸をどきどきさせながら、全裸になります。
クラスの全員が全裸になると、梅川は女子を全員窓際に並べます。
警察が来たときにバリケードにするためです。
みんなべそをかきながら窓辺に並びますが、あたしは梅川のことが気になって仕方ありません。あたしたち女子の背後では、クラスで一番図体がでかいくせに真っ先にしょんべんもらしたラグビー部の吉川が、梅川にりょう銃で脅されながら、白井の死体の耳をカッターで切り取るように教養されています。吉川はりょう銃の銃口を頭につきつけられて、泣きながら、さらにおしっことうんこをたれ流しながら白井の死体から耳を切り取っています。
あたしはものすごく興奮して、おしっこに行きたくなります。
「すみません」あたしは梅川に声を掛けます。
「なんや」梅川があたしにりょう銃を向けます。
「おしっこがしたいんですけど」あたしは梅川に言います。
「ほな、ここでせえ。わしの見ている前でせえ」
あたしは梅川のりょう銃の前まで行くと、梅川の真正面を向いて、その場にしゃがみ込みます。
そして、梅川に真正面から見られながら……そして全裸のクラスメイト全員に見られながら……床にしゃーっとおしっこをします。
そんなことを考えていると、45分の授業があっという間に終わります。
PS:
終わるころには、あたしはいつもすこし濡れています。<つづく>
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