バベイオモイド神様が見てる
〜秋〜
作:西田三郎
■2003年7月4日(くもり)
偉大なるバベイオモイド神様昨日、おばあちゃんが死にました。
84才でした。
あたしが学校に行っている間に、おばあちゃんは部屋で昼寝をしていました。
いつもだったら夕方前には起きてくるおばあちゃんが起きてこないので、ママが起こしに行ったら、おばあちゃんはもう死んでいたそうです。のういっけつだそうです。
おばあちゃんはそのまま救急車で病院にはこばれました。
死んでいるのに救急車に乗せてどうするんだろう、と思いますけど、とにかくおばあちゃんは家で死んだので、病院で亡くなった人以外は、“変死”あつかいになるということでした。そんなわけであたしが学校から帰ると、おばあちゃんが死んだことを聞かされ、わけがわからないうちに病院に連れて行かれました。
さて、あたしは生まれてはじめて、死体を見ました。
おばあちゃんの死体はまるで眠っているようにしか見えませんでした。
おばあちゃんはよく昼寝をしていたので、あたしにしてみればそれはどうしても『昼寝をしているおばあちゃん』にしか見えないのです。
なんだかひょうし抜けしました。
よく見ると、おばあちゃんの鼻の穴には、なにか綿のようなものがつめこまれていて、あたしは思わずふきだしそうになったけど、ひっしでこらえました。
あんなふうに綿をつめこんでおかないと、なにかが出てくるのでしょうか?
あたしはものすごくきょうみがありましたが、なんだかその場のふんいきで、そんなしつもんをするかんじではありませんでした。
パパもママも泣いていました。
パパは自分のお母さんが死んだのだから泣くのはしょうがないとしても、ママまで泣いているのはとても不思議でした。なぜならママとおばあちゃんは、あんまりなかが良くなかったからです。おばああちゃんの関西弁のしゃべりがげひんだと、ママはいつもぐちをこぼしていました。おばあちゃんのことでパパとママがけんかすることもしょっちゅうだったようです。でも、いざおばあちゃんが死んだら、ママは泣いている。
本当に泣いてるの?とあたしは思いました。
せいせいしてるくせに、なんで泣いてみせるんだろうと思わずにおれませんでした。
あたし?
あたしはというと、ぜんぜん悲しくありませんでした。おばあちゃんのことは好きだったけれども、おばあちゃんが死んでもぜんぜん悲しくないのはへんでしょうか?パパもママも泣いているのでなんだか自分も泣かなきゃ、と思い、いろいろと悲しくなるようなことを考えました。元気だったころのおばあちゃんと近所のえん日に遊びにいったことや、いろんなお話をしてくれたこと、ふたりでうちでかっている犬のゴン太をさんぽさせたことなどなど………いろいろかんがえて、なんとかなみだをしぼり出そうとしました。
でもいっこうになみだは出てきませんし、悲しくもなりません。
仕方ないのであたしはあきらめてべつのことを考えはじめました。
むかしおばあちゃんがしてくれた、地ごくの話です。
たしか、生きているときに悪いことをした人は地ごくに行って、良いことをしてきた人はごく楽に行く。
それで、どっちに行けるかは、えんま大王さまが決める。悪いひとはそこでもウソをつくので、えんま大王に大きなペンチで舌をひっこぬかれる。その後、悪い人たちは血の池や針の山やノコギリでばらばらにされたりして、えいえんに苦しめられる。
たしかおばあちゃんはそんなことを言っていました。
おばあちゃんはあたしにとってはとてもいいおばあちゃんでしたが、ママにはとってもイジワルでした。いわゆるヨメシュウトメというやつです。おばあちゃんはいつもママがいやがる関西弁であたしにママがいやがるような話ばっかり聞かせて(たとばそれは地ごくの話みたいなものです)ママにあからさまにいやがらせをしていました。
そんなおばあちゃんはごく楽に行けるのでしょうか?
おばあちゃんのことですし、たぶんえんま大王さまの前で本当のことを話すはずがありません。
いまごろおばあちゃんは、えんま大王に舌を抜かれているのかなあ?
それを思うとあたしはまた、ふき出しそうになるのをひっしでこらえました。
それはそうとバベイオモイド神様、このまえ九州であった事件はすごかったですね。
あの小さな男の子を、あたしと同じ年の男の子が殺した事件です。
あの子が遺薔薇屠死夫様のファンだったのかどうかはわかりませんし、いまのところ新聞を読んでもそんなはなしはのっていません。でも、人殺しがあたしと同じ年だなんてすごい。
あたしは自分ではまだまだこどもで、とてもあたしに人殺しなんてむりだと思っていました。
せめて遺薔薇屠死夫様とおなじ年くらいにないとむりなんじゃないかなあ……って。
あ、ごかいされてはいけないのでいちおう書いておきます。
あたし自身は、じぶんで人殺しをしようとはおもいません。
あたし、あんまり体育もとくいじゃないし、ちびだし、だいたいいくじがないのでそんなことはとてもむりです。だからバベイオモイド神様、今回の九州のあたしとおない年の男の子に人殺しをさせたみたいに、だれかにまた悪いことをさせようとなさるなら、どうか別の子をえらんでいただけますでしょうか。
あたしはバベイオモイド神様が人々にさせる様々な悪いことを見ているだけでじゅうぶんです。
ほんとうに毎日たいくつでたいくつで仕方がなくて、いっそのこと学校にたくままもるさんが飛びこんできて、先生(とくにたん任の大久保)やクラスメイト(とくに女子では飯岡と島崎と三好、男子ではバカできたない大瀬)なんかをさしころしてくれないかしら、と思わない日はありませんが、あたしには新聞の三面記事を読むという楽しみがあります。
バベイオモイド神様が、人々にさせる悪いことの数々にはいつもほんとうにわくわくして、ああ、やっぱりいきていいてよかったなあ、と思います。
ところで、遺薔薇屠死夫様のいりょう少年院隊員は、あと2年くらい先だそうです。
ということは、あたしが14才のときなんですね!!
なんてすてきなんでしょう!PS:
せんげつしょちょうがありました。
これから毎月、あたしは血を流すことになるそうです。いやだなあ。
ママはお赤飯をたきました。いったいなにがめでたいのやら。
PSのPS:
あたしが10才のころからつづけていたベッドの中でパジャマのズボンに手を入れて、おしっこのでるあたりをいじるひみつの遊びですが、あれは“マスターベーション”というそうで、誰でもすることだそうです。
学校の性きょういくでおしえてもらいました。
あたしはなんだかひょうしぬけしてしまいました。
あんなことをして遊んでいるのは、あたしだけだと思っていたからです。
「みなさんの年ごろでは誰でもすることですよ」と先生は言いました。
ってことは、それを2年も前からやってるあたしはやっぱり人よりすけべえなんだろうか?
あ、あの貧血みたいになって、いしきがとんで、死にそうになるあれですが、あれは「いく」ということだそうです。いっつもそんなことばっかりしゃべっているクラスの島崎と三好が、そんなことを話していたことを聞いたのです。ふたりはまだ、「いった」ことはないそうです。
あたしはなんだか勝った気がしました。これは優えつ感というやつなのでしょうか?<つづく>
NEXT/BACK TOP