バベイオモイド神様が見てる
〜秋〜
作:西田三郎
■2000年6月8日(雨)
い大なるバベイオモイド神様。
さい近、ほんとうに新ぶんをよむのがたのしみになってきました。
まだまだよめない字はたくさんありますけれども。
なぜなら、あなたがよの中のそこらじゅうで、人間にわるさをさせているのがよくわかるからです。
この前は、京とで別の17さいのおにいさんが、「まへきとおりも」という名まえを名乗って、こどもを3人ころしました。
あ。ころしましたってひらがなで書いちゃった。これからはちゃんと殺しましたと漢字でかこうとおもいます。殺すという字だけは、いつもいっしょうけんめいれんしゅうしています。学校でもらったプリントのうらや、スーパーのちらしのうらに、なんどもなんどもれんしゅうしました。
もちろん、あたしが「殺」という字をれんしゅうしていることは、ママにもパパにもナイショです。
いつもねんいりにびりびりにやぶって、はさみでこまかく切って、ゴミばこにすてます。
しょうこいんめつです。これはきほんですね。
はなしがずれました。
この17歳のおにいさんはハンマーとほうちょうを使って3人のこどもを殺しました。
このやりかたは遺薔薇屠死夫様(ようやく漢字でかけるようになりました)の殺しかたのまねだと、テレビのワイドショーにでていたえらい人がいっていました。あたしもそうだとおもいます。それにこのひとはもう17さいですからね。14さいでこどもをころした遺薔薇屠死夫様にはかないません。
でも、このひとはけいさつがこの人をつかまえにきたとき、だんちの10かいからとびおりて死にました。
バベイオモイド神さま、この17さいのおにいさんに、人殺しをさせ、自殺させたのはあなたですね。
かくしたってむだです。あたしにはちゃんとわかります。
17さいのおにいさんは「まへきとおりも」というわけのわからないあんごうみたいな名まえをなのりましたが、あたしはすぐピンときました。このなまえのぼいんは、すべてあなたの名前バベイオモイドと同じです。
まだだれもそのことにきづいていないようなので、これはあたしだけのひみつにしておきます。
ざんねんなのは、あたしがこの17さいのおにいさん「まへきとおりも」さんと会えるチャンスが、もうまったくなくなってしまったからです。「まへきとおりも」さんとあたしは、とても気が合っただろうな、とおもいます。なぜなら、ふたりとも遺薔薇屠死夫様の大ファンであり、そしてあたしたちがともにバベイオモイド神さま、あなたのしもべだからです。
あーあ。ほんとうに残ねん。
こどもの頭をハンマーでなぐると、どんな音がするのでしょうか?
あたまのてっぺんからほうちょうをふりおろすと、いったいどれくらいほうちょうが頭にめりこむのでしょうか。
それに、「まへきとおりも」さんは、さっきも書いたように遺薔薇屠死夫様の大ファンで、遺薔薇屠死夫様にかんする新ぶんきじをスクラップし、遺薔薇屠死夫様について書かれた本やざっしをたくさんもっていたといます。
あたしも遺薔薇屠死夫様にかんするしりょうをたくさんあつめたいのですが、どうしてもママやパパやおばあちゃんの目もありますので、できません。
だから「まへきとおりも」さんに会ったら、そのコレクションを見せてもらいたかったのです。
でも、「まへきとおりも」さんは死んでしまったのですね。
悪いことをしたり……とくに人を殺したりした人は、地ごくにいくんだとおばあちゃんがいってました。
「まへきとおりも」のことをテレビでやっているのをみていたときです。おばあちゃんはいいました。
「このクソガキも、今ごろえんまさんに舌をぬかれて、ちのいけ地ごくにつけられとるで」
おばあちゃんはもともと、かんさいにすんでいました。
だからおばあちゃんのはなす言葉は、あたしにもすこしらんぼうにきこえることがあります。
「おばあちゃん、地ごくってどんなとこ?」あたしはききました。
「地ごくっちゅうのはな、このよで悪いことしたやつらが、いかされるとこや。悪いことなんもしてへんええ人は、ごくらくへ行くんや」
「悪いひとと良いひとはどうやってみわけるの?」あたしはすごく地ごくにきょうみがわいてきました。
「それを見さだめはんのがえんま大王さんや。えんまさんはな、あの世にいった人がほんまにわるいことしたかしてへんか、それをあんじょう白くろつけて、その人がごくらく行きか地ごくいきかをきめはるんや。それでえんまさんに問い正されても、悪いやつはやっぱり悪いやつやよってに、『じぶんはこの世でなにもわるいことしてまへん』てウソつきよる。そんなん、えんまさんにしてみたらなんでもおみとおしや。うそついた悪いやつは、大きなやっとこでしたを抜かれて、そのまま地ごくいきや」
「したって、ベロのこと?」
「おかあさん、しょくじ中にそんな話やめてください」ママがいいました。
「そうや、ベロのことや。それをでっかいやっとこでな……」
「やっとこ?」
「ああ、歯いしゃさんが歯ぬくとき、ペンチつかわはるやろ。あれのもっとおおきいやつや」
「それでベロをぬくの?」
「そうやビヨーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンとひっぱてな」
「おかあさん」ママがおばあちゃんをにらみましたが、おばあちゃんは聞いていません。
「それで、地ごくにはなにがあるの?」
「いたるところに赤いおにと青いおにがおってな、舌をぬかれた悪いやつらを、いろんなことやらせてこらしめるんや。血の池につけられたり、大きないわでおしつぶされたり、石うすですりつぶされたり、ぶっといはりが何まん本もつきでた山をす足であるかされたり、ノコギリで手足をばらばらにされたり……」
「おかあさん!!」ママがどなりましたが、おばあちゃんはまるでむしです。
「そやけど悪いことしたやつはもう死んどるさかいに、どんなひどい目にあっても死にとうても死なれへん。それこそえいえんに、わるいやつはえげつないことをされつづけるんや」
「へーえ……」
あたしはものすごく地ごくにきょうみをもちました。
なんだかとてもたのしそうなところで……バベイオモイド神様、きっとあなたはいつも、そこにいらっしゃるのでしょう。そして「まへきとおりも」さんも。
あたしは地ごくに行きたくなりました。
「ねえ、おばあちゃん、それじゃあ、良い人が行くごくらくにはなにがあるの?」
「ごくらくはな、ねんがらねんじゅう、きれいな花がさいてて、あたりいちめんがお花ばたけや。まいにちいいお天気で、ちょうどええくらいのあったかさなんや。良いことしてきたひとはそのくろうのおかげで、そんなええとこに行かはるわけや」
お花ばたけにいいお天気かあ……それって、たのしい?
わたしはどちらかというと……というか、だんぜん地ごくのほうがたのしそうに思えました。
ママはおこって、だまってごはんをたべていました。
パパはずっとテレビでやきゅうを見ていました。<つづく>
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