青ひげ
作:西田三郎
「第7話」
■言ったのはあなたです
部屋に入るなり、青山に飛び掛ったのはわたしの方だった。
妙に整頓された部屋で、部屋は芳香剤の香りがした。スズランかキンモクセイかよくわからないが、とにかくどうでもいい香りだった。
わたしはドアを閉めると、青山の口に吸い付いて、自分のおっぱいを彼の薄い胸板に押し付けた。ええもう、下半身も押し付けましたよ。彼の太股を自分の太股で挟んで股間をぐりぐりとこすり付ける。全身を使って部屋の隅にあるシングルベッドに彼を押しやりながら、彼のワイシャツのボタンを外した。こんなにはっちゃけたのは一体何年ぶりだろう?
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ川辺さん……」
「待たないよ」わたしは掠れた声で言った「……待てないよ。あんたが悪いんじゃない。わたしにいつもあんな事ばっかりして……どうしてくれんのよ。もう止まんないのよ。ねえ、どうにかしてよ。どうにかしてったら」
青山をベッドに押し倒す。
青山は戸惑った顔を見せながら、口元にはあの薄笑いを浮かべたまま。
確かに薄気味悪かったけど、わたしはそれどころではなかった。スカートのホックを外すと、自分の足でスカートを踏み下ろした。ブラウスのボタンなんかほとんど自分で引きちぎらんばかりの勢いだった。ブラジャーも自分で外して、パンストは自分で引き毟った。ちょっとパンストが破れたが、まあ今となってはどうでもいい。
頼まれもしないのに目の前でストリップを演じているわたしを、ベッドの上で仰向けになった青山が、ニヤニヤ笑いながら見ている。ええい、むかつくわ、こいつ。何ニヤニヤ笑ってんのかしら?
パンツも自分で脱いだ。
脱いだパンツは丸めて部屋のどこか彼方に投げ捨てた。「……川辺さん、ど、どうしたんですか。なんというかその……」
「どうもこうもないってば……ねえ、ほら、何とかしてよ……ねえ、何ニヤニヤ笑ってんの?……わたしおかしい?」
薄笑いを浮かべてベッドに横たわっている男の前で、自分は服を脱ぎ散らかして全裸になっている。その事実を冷静に考えると、雪崩のように羞恥が襲ってきた。
ああもう、わたし何やってんだろう?
自分で自分が情けなくなってしょうがなかった。
思わずその場にしゃがみ込む。「……川辺さん、こっちに来てください」
「……え?」顔を上げる。青山がわたしの顔を見ていた。
「……そんな風に僕にキスをして、目の前で服を脱いでくれたということはつまり……川辺さん、僕のことが好きなんですか?」
「……ええ?」っていうか……。
さっきあんたはわたしの事が心配だって……。「……あ、あのええっと………」
「僕のことが、好きなんですね?」
「え………ええっと………あっ」青山が立ち上がり、わたしに近寄ってくる。
「きゃっ………」わたしを立たせる青山。
「………そうなんですね?僕のことが好きなんですね?……そういう事ですね?……それでいいんですね?」
「…え、あの……」戸惑っていると、耳元に青山の唇が触れた「んっ……」
「どうなんです?」囁く青山。
「す、好き」どうでも良くなって、つい言ってしまった。
「……ほんとうですか?後悔しませんか?」
「……し、し、しないよ」
「……じゃあ大丈夫ですね?はっきりと言いましたね、僕のことが好きだって……よく覚えておいてくださいよ。そう言ったのは川辺さんなんですからね。川辺さんが、僕のことを好きだって言ったんですよ。いいですね?」
わけがわからないが、何だかものすごく嵌められた気がした。
わたしは唇を噛んで、青山の課を睨んだ。
しかし青山はあの薄笑いを浮かべたまま、わたしを見下ろしている。「……いいから……好きにしてよ」
「ほんとにいいんですね?」
青山がもう一度念を押した。
わたしは再び青山の上半身にしがみ付いていた。
<つづく>
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