愛の這ったあと
ある寝取られ男の記憶の系譜

作:西田三郎




■10  『そのまま数ヶ月が過ぎた。これといった問題はなかった』
 

 わたしは寝室で、その大きな尻の女……会社の経理部の、タチバナという新卒で入社して4年目の女だ……を四つんばいに這わせ、大きな音を立ててその尻を叩いていた。いや、そうしてくれ、って言われたんだから仕方がない。

 パアアアアアーーーン!!と、高い音が鳴る。

 「ああああんんっっっ!!」近所一体に聞こえそうな声で、タチバナが叫ぶ「……も、もっとおっ!!
  「叩くのか?それとも突くのか、どっち???」
  「ど、どっちもっ!!どっちもおっっ!!」

 両方ともじらせた。白く、むっちりとした背中に薄く汗の粒が浮いて、その一つひとつがふるふると揺れている。ここはタチバナに判断を任せることにした。女の中に、陰茎は半分ほどもぐっている。一向に衰える気配はない……今日、この女と2回目のセックスだというのに。

 あれから3ヶ月が絶って、その間にいろんな女とセックスをした。10人目までは数えていたが、それ以降はあほらしくなって数えるのをやめた。知っている女も……このタチバナのように……数名いた。会社の中で3人、得意先で4人か5人。そいつらもみんな、俺とはずっと、こういう関係だったという。あのいかれた女みたいな女も、何人もいた。でもあの女がいちばんいかれていた。あの女とは、あれから4回会って、セックスをした。
  あの、『自称わたしの妻』はあれからずっと帰ってこない。
 
  最初は女たちと、ラブホテルやその女の部屋でヤっていたが、それもあほらしくなって、わたしは女たちを自分の家に呼ぶようになった。だから今日も……こうやってタチバナと自宅の寝室でセックスしている。

 妻がいない生活に慣れるのは簡単だった。
  というか、出て行ったのはわたしの妻ではないのだし、あんな女がどこに行こうと知ったことじゃない。それに、自分でもこれまで気づいていなかったが、わたしは結構、ひとり暮らしが得意だった。確かに学生時代はひとり暮らしをしていたが、この家でひとりで暮らすのははじめてのことだ。そう、3ヶ月前までは、わたしには妻がいた。出て行ったあの女……この寝室で、あの寝室の窓から見える緑色の屋根の二階建ての家に住んでいるというあの頭の薄い腹の出た男に、バックから突かれておもいっきり盛っていたメスブタ……ではない、わたしの妻と。しかし、妻がいなくても、わたしは毎日仕事に行き(不思議なことに、女関係以外ではなにひとつ忘れていることはなかった)、家に帰り、自炊もした。これも意外だったが、わたしは手際よくおいしい料理を作ることができた。今ではセックス以外の楽しみといえば料理だ。昨日はポトフを作った。料理の本をたくさん買い込んだ。週末には家のすみずみをきれいに掃除した。いらないものはどんどん捨てた。妻の部屋のものはそのままにしておいた。たまった洗濯物を洗濯し、庭に干した。猫の額ほどの庭も小まめに手入れして、女とセックスする予定がないときは、自転車に乗って近くの川原まで出かけた。妻も自分の自転車を持っていた。たまに、妻の乗っていた自転車に乗って出かけることもあった。
 
  いろいろやることを自分で作り、ぼんやり考えこまないようにした。
  ぼんやり考え込みそうになるときは、女たちとセックスをすることににした。

 ただときどき、それでも女たちと都合があわなかったり、家の中の用事は何もかも済ませてしまい、ほんとうにやることがなくなるときがある。

  そんなときは……寝室から見える、あの緑の屋根の家を見て過ごした。
  発泡酒を飲みながら、あの男……この部屋で、おれの妻と自称する女とセックスしていた男が、住んでいるというあの家を。あれから男がこの家にやってきたことはない。あのときの車も、ちゃんとガレージに停まったままだ。家には人気がなかった……洗濯物が干されていることもなかった。

 あの男の言ったことがほんとうだとすれば……いや、こんな状態なんだから他人が言うことはすべて本当だと思ったほうがいいだろう……わたしはあの家に住む、あの男の女房と不倫を重ねていたということになる。
  いや、不倫というほど真剣なものではないだろう。ほかの女どもと同じように、気楽に割り切ったセックスを重ねていたに違いない。

 もちろんだが、その女に関する記憶も今のわたしにはまるでない。

 しかしまあ……今となっては、いかに出て行ったあの女が自分の記憶の中にある妻とは違うとはいえ、あの男の女房を俺は寝取ったということになる。その嫉妬に狂って、あの男はおれの不在中にうちにやってきて、すべての事実(悪いが、記憶にないのでそれを認めざるを得ない)をおれに告げ、去っていった。

 いや、まさに今となってはどうでもいいことだ……そりゃそうだろう。いくら自分のことを妻と言い張っていようと、知らない女とこの部屋でセックスしていた男に嫉妬を感じたりするのも、ヘンな話だ。問題は、見知らぬ2人が俺の家でセックスしていたことだ。……でもそれも、どうでもいい。

 「………あっ……あっ………たたいてっ………たたくだけでいいからあっっ………」
  タチバナが耐え切れなくなっておれをぎゅうう、と肉壷で締め上げ、腰をくねらせて大きな尻を振りたてる。 「叩くだけでいいの?……突いてほしくないの……?」
  「い、いじわるっっ!!
 
  パァーーーーーーーーーーーーン

 「ああうんんっっ!!」ぎゅううっ…… とタチバナが締めてくる「……………いくっ…」

 くたっ、とシーツに上半身を伏せるタチバナ。薄いゴムの皮を隔てて、締め付けるタチバナの肉がわたしの陰険に痙攣の振動を伝えてくる。なんとまあ、とんでもない女だぜ。会社ではあんなに大人しそうに、地味に振舞ってるクセに。ここまであからさまなマゾッ気があったなんて。

  「……イッちゃったの?………」差し込んだまま、タチバナの汗まみれの背中に声をかける。
  「……わ、わかってるクセに………」恨めしそうに肩越しにわたしを睨むタチバナ。
  「……もうヤメにしようか……?」なぜか意地悪な気分が高まる。「抜いちゃおうか?

 ずるずるずるっ、と追いすがるようにまとわり突いてくるタチバナの内壁の抵抗を感じながら、一気に入口あたりまで引き抜いてやった。

 「あああっっ!!……いやっ………」ぐい、と尻を押し付けてくるタチバナ。わたしはまた腰を逃がす「……抜いちゃだめ………いじわる………」
  「……突っ込んでほしい?」じり、じり、と追いかけてくる尻から腰を引いていく。「じゃあそう言いなよ」 
  「……いやあっ……だめっ……抜いちゃ……抜いちゃやだ……」ほとんど泣き声だった。「抜かないで!
  「で、どうしてほしいんだよ!!」わたしはさらに腰を逃がした。もうベッドから落ちそうだ。「……ちゃんと言えよ!どうしてほしいんだよ!!
  「つ、突いて!!」ついにタチバナが根を上げる「……突きまくってっっっ!!!!

 わたしは言われたとおりにした。激しく腰を打ちつけながら、タチバナの尻を3回、音高く叩いた。そのたびに、タチバナはぎゅぎゅっ、とわたしを締め付ける。3回目に叩いたとき、タチバナが死にそうな声を出してはげしく締め付けながら、またイッた。いや、本人が「いくっ……またいっちゃうっ!!」と言ったのだから、そうなのだろう。わたしも締め付けられて、イってしまった。

 セックスの後はしばらくだらだらし、タチバナのためにありあわせでスパゲティを作って二人で食べた。
 そして、深夜彼女がタクシーで帰るまでに、もう一回セックスをした。

 

 

 

 

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