2×2 作:西田三郎


■ハートに火をつけて

 部屋の中が黄色い光で満ちていた。自分の心臓の音が信じられないくらい大きな音で響いていた。
 気が付くと直紀は違う部屋にいた。さっき居た和室とは違う、一面が白い壁の洋室だった。やがて直紀は自分が横になっているのに気づいた。とても広いベッドの上に、顔の右半分をつけて横たわっている。目の前で何かが動いていた。直紀は目を凝らした。
 「よお、大丈夫か」上の方から男の声がした。「彼女の方は、えらいええ感じやで」
 直紀は上を見上げた。上から男が覗きこんでいる。男が指さす方向を見た。
 視界がはっきりして、目の前にあるものが見えた。
 同じベッドの上で、千晴と女がキスをしているのが見えた。すでに千晴のスカートは取り払われ、千晴の下半身は白い下着一枚だった。ブラウスの前も臍のあたりまでボタンを外され、そこから女の右手が侵入している。
 「…ん…」女の口に唇を塞がれた千晴が声を出した。目は焦点を失い、とろんとしている。
 合わさった口から溢れ出た涎が、千晴の顎のあたりまで垂れていた。
 千晴と女の唇が離れた。唇と唇の間を、唾液の糸が引く。
 「…あんた、見かけによらずいやらしいなあ…」女の左手の人差し指が、千晴の顎を持ち上げる。胸元にさしいれられた右手が、もぞもぞと動くのが見えた。「乳首、もうコリコリやで…
 「…や…」千晴が顔を背けようとするが、しっかりと顎を掴んだ女の手がそれを許さない。
 「…最近の子は発育ええっていうけど、あんたはそうでもないみたいやねえ」
 「……だめ…」千晴がちらりと直紀の方を見る。「…見てるよ…」
 「…ええやん…見せたりいな。たまにはこういうのもええもんやで…」女も直紀の方を見た。「…なあ、あんたもそう思うやろ?」
  と、突然、直紀は自分の下半身に異物感を感じた。下半身を見る。何と、いつの間にかズボンが脱がされ、下半身がブリーフ一枚になっている。その股間に、男の手があった。
 「…うん、こっちもなかなかええ感じやで…」男が直紀の顔を見て、抜けた前歯を見せて笑った。
 「ちょっと…やめ…」
 「やっ…」千晴が声を上げた。
 女が千晴のブラウスをはぎ取った。すでにブラジャーのホックは外され、千晴の細い肩に引っかかっているだけで、その用を足していない。千晴のかすかな膨らみが見えた。さっき女が言ったとおり、両方の乳首が固く立ち上がっていた
 「…なに?恥ずかしい?」 両手で胸を庇う千晴に、女が声を掛けた。「景気づけが足らんな」
 女がまたあの紙巻き煙草に火を点ける。深く吸い込み、煙を吐く。気が付けば部屋中に煙が充満し、まるで雲の上に居るような気分だった。火のついた紙巻きを、女は千晴に差し出した。
 「ほら、吸い」
 千晴はしばらくとろんとした目でその紙巻きを見つめていたが、やがて自分から手を伸ばしてそれを受け取った。煙を吸い込み、大きく吐き出す。千晴は暫く目を閉じてその余韻を味わっていた…次に目を開いた時には、そこから意思というものは全く消えていた。
 先ほどまで、憎々しげに直紀を見つめていた千晴は、もうそこには居なかった。
 千晴がふわりとベッドの上に仰向けに横たわる。女がブラジャーを抜き取るが、千晴はもはや胸を隠そうともしない。続いて女が千晴の膝を立たせ、パンティーをゆっくりと脱がせた。千晴はうつろな目で、女の手によって自分の下着が剥がされていくのを見ていた。
 「どや、なかなかええやろ、こういうのも」男が直紀に言う。
 「…ん…」男の手が、上からブリーフの中に入ってきた。
 「なんや…もう、カチカチやないか…」男に言われたが、確かにその通りだった。
 「…やめて…」口ではそう言ったが、抵抗する力がなかった。
 「…安心しいて…すぐ気持ちようなるから…」男も紙巻きに火を点けた。女が千晴にしたのと同じように、男も直紀に紙巻きを回す。「ほら、自分も景気づけや…」
 前を見ると、いつの間にか女も全裸になっていた。ぶよぶよとした脂肪のかたまりの表面に、無数のシミが浮いている。目を背けたくなるような裸身だった。その醜い肉塊のかたわらに、千晴の少年のような、伸びやかで青白い肉体が横たわっている。まるで何かのいけにえのようだ。
 ゆっくりと男の手が直紀の性器を扱き始めた。
 大杉の乱暴な手つきとも、千晴のもっと乱暴な手つきとも明らかに違うその動き。
 「…ん…あ…や…」直紀は腰をくねらせてその淫靡な動きから逃れようとしたが、男の手はどこまでも追ってきた。
 目の前では、女の醜い裸身が千晴の上に雪崩のように覆い被さっていった。
 「…くっ…んんっ…」
 女のぶよぶよした体が、千晴の躰の上を這い回った。長い紫色の舌が、千晴の右乳首を捉えている。左の乳首は女の野太い指によってこね回され、開いた手は千晴の股間に差し入れられていた。
 「…や…やめ…て…」千晴が泣き声のような声を上げる。しかしその声には独特の潤みがこもっていることは明らかだった。
 「…ほら…気持ちええやろ?…彼氏はいつもどんなことしてくれんのん?」女が乳首から口を話して言う。「…言うてみ…同じようにしてあげるから
 「……ん」千晴が女から顔を背ける。直紀と目があった。
 直紀は男に股間を弄ばれている。千晴の位置からも、直紀のブリーフの中でいやらしく蠢く男の手の動きが見えるはずだ。
 「…ほら…、自分、いつもどんなふうに彼女にしてやってんねん」男が耳元で囁いた。「…おばちゃんに言うたってくやれよ」
 「…んは…やっ…!」男の手が直紀のブリーフを下ろした。固く隆起し、先を滲ませた直紀の性器が晒された。男の人指し指が直紀の先端の潤みをすくい取り、鈴口にゆっくりと塗り込める。「…ん…く…」
 「…ほら、彼氏のほうも気持ちよさそうにしてるやろ…あんたも、彼氏に負けんように気持ちようなるんやで…」女はそう言って、千晴の両膝を大きく左右に開いた。
 「…いやっ…」もはや千晴は言葉以外で抵抗する気はすっかり無くしたらしい。恥ずかしそうに顔を背けてはいるが、開かれた脚を閉じようとする抵抗は全く感じられない
 女の顔が、千晴の股間に埋まった。
 「…んんんっっ……ふはっ……」千晴の背中が弓反りに反り、両手がシーツの布をしっかりと掴んだ。顎が天井を向く。言葉と息を失った唇が、むなしくぱくぱくと動いた。
 暫くの沈黙の後、千晴の股間から湿った音が響いた。まるで電気を流されたように、千晴のしなやかな肢体がベッドの上で波打つ。
 「…あっ…ああっ…あっ…ああ…んんっ…うっ…あっ…」
 千晴の嬌声が部屋中を満たした。
 その間も男は剥き出しになった直紀の肉茎に微妙な強弱をつけて刺激を与え続ける。
 直紀は絶頂ともどかしさの間で翻弄され、身悶えていた。
 「…すごい声出すな…自分の彼女」男が直紀の耳元で囁く。「…いつも自分がやる時も、あんなんなんか?」
 男の手も直紀の出した粘液を受けて、湿った音を出した。
 直紀はシーツにしっかりと顔をつけ、その布を噛んで快楽に耐えていた。と、男が手を止め、態勢を変える。
 「…彼女と同じようにしたるわ…その方がええやろ?」
 「!?」
 下半身に移動した男が、直紀の躰を仰向けにした。両脚が左右に開かれる
 「…いやっ!」何をされるかを察した直紀が起きあがるより先に、男の口が直紀の肉茎を包み込んだ。「うんっ!」
 千晴の股間から聞こえてくるような淫らな水音と、手で与えられるのとは全く違う快楽が襲ってきた。
 これまで直紀は千晴から口での奉仕を受けたことがなかった。というより、生まれて初めて受ける口での奉仕だった。男の舌は巧みに肉茎をなぞるように這い回り、唇は鈴口から溢れる蜜を吸った
 「…あ…ん…くっ…あっ…や…ん…いっ…」いつしか千晴と同じように、愉悦の泣き声を上げていた。「…や…め…て…」
 片耳からは女からの舌の責めにむせび泣く千晴の声が聞こえてくる。そして下半身からは自らの性器が嬲られる湿った音。そして部屋を満たしている淫靡な空気と、あの紙巻きの煙。
 直紀はわずかばかりに残っていた理性も失おうとしていた。
 今や千晴は自らの人指し指の背を固く噛み、汗じみた顔を歪ませて、与えられる快楽を主体的に愉しんでいるようだった。その証拠に千晴の腰はベッドから浮き上がり、股間を女の顔にこすりつけるように、左右に、上下に動いていた。
 なんと浅ましい姿なんだろうか、と直紀は思った。
 しかし、自分とてさして変わりない。
 自分の腰も浮いていた。男はまるで餌の皿に顔を突っ込んだ犬みたいに、直紀の肉棒を貪欲に味わっている。そのおぞましい姿を見て、自分がさらに背徳的な悦びにしびれていくことに気づいた。
 そう、あの日千晴に言われたように、自分はこのようにされるのが好きなのかもしれない。
 あれから何度も、何度も繰り返した千晴とのセックスよりも、今男から受けているこの責めの方が何倍も気持ちいい。それに千晴だってどうだ。あの怪物のような豚女の舌に犯されて、よがり狂っているじゃないか。罪悪感が消え、倫理観が消え、理性が消えて、本当の快楽が津波のように襲ってきた。
 直紀は目を閉じた。終点が見えてきた。
 と、千晴が大きな声を上げた。
 「…んあああああっっ!!」
 ブリッジ状に反った千晴の肢体がガクガクと痙攣し、やがて電池が切れたようにベッドに沈んだ。絶頂に達したらしい。千晴はまだピクピクと痙攣の余韻を見せながら、うつろな目で直紀を見た。
 千晴と目が合った。その瞬間、全ての血液が音を立てて股間に集中した。
 「…はあっ!」
 直後、直紀も同じように弓反りの姿勢で、男の口の中にしたたかに射精していた。
 

 
 

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