童貞スーサイズ

第四章 「
アウト・オブ・ザ・ブルー、イントゥ・ザ・ブラック



■第30 話 ■ ニヒリズム
 「はああっ……」
 大きく開かれた愛の入口に、不可解なまでに赤黒く硬直した男の陰茎が見る見るめり込んでいくのが見える。
 それに押し出されて、愛の躰を満たしていた粘液がみるみる溢れ、シーツに染み込んでいく。
 愛の躰ががくがくっと震え、乳房が揺れた。ぽかんと開いた口から、さらに唾液が溢れる……仰け反った躰には痛々しく肋が浮いていた。
 「ふっ……うんっ……」
 せき立てられた愛は、さらに自分から腰を沈めていく。
 何かが押しつぶされ、締め上げられ、押しつけられる音が聞こえてくる。
 愛が腰を揺すり、擦り付けるたびにその音は高まっていく……まるで獰猛な肉食動物のうなり声のようだ。
 愛の両側に立った男達が、その顔の両側に肉系を突き出す。
 愛は一も二もなくその肉系をそれぞれ両手で握ると、唾液で濡れ光る唇で交互に舌を這わせた。
 「あ……んむっ………ぐっ………くう………」
 
 その様を見つめながら、芳雄はおぞましさ以外のものを感じなかった。
 喉はからからに乾き、脈拍はひたすらに上昇し、ズボンの中では睾丸が縮み上がっている。
 
 「他人がああなってるのを見るのも、そんなに悪くないでしょ」背後でドウ子が言う。
 「………」
 「あんた、あたしたちの事、ひどい奴らだって思ってるんでしょ? ……でもね、それは大違いだよ。あたしたちは、とーっても親切なの。あの人の男にも、 あの人にも、あたしたちは欲しいものを与えただけ。まあ結果として、これで彼女はあたしたちの秘密を守ってくれることになったんだし、あたしらの利益にも なってるんだけどね。まあ、その……共存共栄ってやつ?」
 「ふ、ふざけるなよ!」芳雄はドウ子に向き直った「人に自動小銃持たせて無差別殺戮させるのが? ……人をクスリ漬けにして、正気を失わせるのが? ……それのどこが親切心なんだよ?」
 「ものの見方が皮相的だよ、芳雄くん」とドウ子。「人間が求めてるものって何だと思う?……ダラダラダラダラ、つまんない人生を続けること? ……テキトーに毎日を生きて、何にも面白いことがない人生をとりあえず全うすること?」
 「……人が死んでるんだぞ? わってんのか?」
 「誰だって死ぬのよ? ……知ってるでしょ? この前も言ったけど、日本じゃ年間30,000人もの人間が自殺してんだよ。それに加えて70,000人 の人間が、行方不明になってる。年間100,000人もの人間が、この日本から居なくなってんの。今日、15人だっけ……死んだの? あ、まだ死んだのは 8人で、まだ7人は死んでなかったっけ……? そんなの、数から言えば大したことないじゃん」
 「た、大したことないって……」
 おかしい。わかってはいたがこの女はどうかしている。
 「もっともっと、たくさんの人が死ぬんだよ。イラクで死んだアメリカ兵の数って2,000人くらいだっけ……すごいよねえ。で、イラクの人は何人死んだ んだっけ? ……まあいいや。でも、年間100,000人ってすごくない? 戦争もしてないのに、この国じゃあ年間100,000人もの人が居なくなって るわけ。これってすごいよねえ……でも、戦争で死んだなら、それには良きにつけ悪しきにつけ、それなりの意味があるじゃん。でも、日本で死んだり、居なく なったりする人達は一体何なんだろうね? まるっきり、まーーーるっっきり、意味ないじゃん。そう思わない?」
 
 愛は左側に立った男の陰険を口一杯に頬張りながら、自らの唾液で濡れたもう片方の男の性器を激しく扱き立てていた。
 愛の頬に、口内で転がされる亀頭の形がくっきりと浮かび上がっている。
 その間も、愛の腰は根元まで飲み込んだもう一人の男の性器から快楽を絞り出すかのように、回転運動を続けた。
 愛を膝に抱え込んだ男の陰嚢が、彼女の分泌した液でてらてらと濡れ光っていた。
 「………ふうっ………はっ……んぐっ………ふうっ……」
 背後の男の手が、愛の股間に伸びる。自らの陰茎をくわえ込んでいる愛の入口の合わせ目に男の指が触れた。
 「はっ……………」
 口に含んでいた陰茎を吐き出し、愛の上半身が天井に向かって伸びる。
 「……いいか?」背後の男が、仮面の下からくぐもった声で囁く。
 「……いい………っていうか……すごくいい……」
 「……もっとか?」男の指がその部分を執拗にこね回すのが、芳雄の位置からもはっきりと見えた。
 「………うん、うん!」愛が激しく頷く。
 「………ほんとか?」男の指が止まる。
 「………や、やだ………お願い、お願いだからやめないで………」
 「……もっとおかしくなりたいか?」
 「………もっと……もっとおかしくして…………あんっ……」
 突然、背後の男が愛の腰を持ち上げ、自らの陰茎を愛の体内から引きずり出す。
 栓を失った愛の入口から、さらに新たな液が溢れだし、シーツの表面を濡らせた。
 シーツの上に腹這いに投げ出された愛の躰は全身で息づき、その腰はさらなる快楽を求めてうねり続けている。
 「……やだ……こんなので……こんなのでやめないでよお……」
 愛が汗と涎と涙でぐしょぐしょになった顔を上げ、3人の男達の顔を恨めしげに見上げた。
 「……お願い……お願いだから……なんでもするから……もっと……して……」
 
 芳雄は目を背けた。
 “ニルヴァーナ・ドット・コム”のアドレスを手渡してくれたあの日の、愛の顔を思い出す。
 朝日に照らされ、愛の顔はまるでほんものの少女のようにはかなく、美しく見えた。
 そのほんの数時間前に自分に妙なクスリを盛って、騎乗位で犯そうとした女であったとしても。
 ……あれはあの日の朝日が見せたまぼろしだったのだろうか?
 白痴のようにぽかんと開いた口の両端から涎を垂らし、焦点の定まらぬ目で男達にさらなる責めを乞う今の愛は、まるで別人にしか見えない。
 いったい、あの朝日の部屋にいた愛はどこに行ってしまったのだろう?
 
 「……あの女もね、はじめから死んでたのよ」ドウ子が背後で呟く。
 「……死んでた?」
 「……あの女も、樋口もね………だってそうでしょ? クスリでダメになって、チンコが勃たなくなったヒモなんか、死んでるも同然じゃない。そんな奴と切 れることもできずに、チュートハンパにチャットレディなんかやって、ズルズル毎日過ごしてるなんてね。ホントーに、似たものカップルだよね。放っといた ら、樋口もあの女も、意味なく死んでるところだったよ。これまでにこの国から居なくなってた、100,000人の人間と同じようにね」
 
 ドウ子は淀みなく語り続けた。そのうちにドウ子の目は、ますます透き通っていくようだった。
 その奧には答はない……それは判りきっていることだ。
 そしてドウ子の語る言葉の中にも、答はない。いや、あるのかも知れないが、それは芳雄には推し量ることができないものだ……。
 全てが芳雄の理解と、認識の幅を超えている。
 
 「……でもさ、それってもったいなくない? なーんの意味もなくズルズル生きたり、その挙げ句死んじゃったり。人間なんてそんなもんだ、って……あんた思う? 人生なんて、はじめっからなーんの意味もなくて、虚しいもんだって、あんた思う?」
 「………」
 「“人の命は地球より重い”とか、“人生は意義あるものだ”とか、いろいろ言うけどさ、そんなのは単なる言葉だよね。そんなこと自分に言い聞かせたって 何の助けにもなんない。……それくらい思うよねえ? あんたや、あたしの歳だったら、特にそういう言葉に反感感じちゃうじゃない?……でも、だからって、 “人生には何の意味もない”ってのは悲しすぎる……そう思わない?」
 
 「………はああんっ!!!!」背後で愛が一際大きな声を上げる。
 振り向くと、男達のフォーメーションがいつの間にかすっかり入れ替わっている。
 仰向けになった男の上に、愛が四つん這いになっている。愛の躰の下で、男は右手を添え、陰茎をねじ込んでいた。
 愛の尻が小刻みに震えている。その後ろに立った男が、膝立ちになって愛の尻を鷲掴みにした……入口のひとつには、すでに愛の下に陣取った男の陰茎がねじ込まれている。しかし後ろの男は愛の背後から、もうひとつの入口に侵入しようとしていた。
 「ひっ………」後ろの男の先端が、愛の尻の奧に触れる。
 「……言えよ」男は浅く腰を押しつけながら、愛に囁く。
 「………あっ………ひっ…………うっ…………」
 「欲しいんだろうが、この淫売。言えよ」
 「…………おっ………おねが………いっ…………」愛が男を省みる。
 「そうじゃないだろ?……何だっけ……ほら“消え去るより”だろ? ……その続きを言えよ」
 「んっ………ああっ!!」前を占領している方の男に、激しく突き上げられ、愛の躰が跳ねた。
 「………ほら、言うんだよ」こんどは愛の躰の下に控えていた男が言う。「……“消え去るより”……?」
 「きっ………きえ……さるより…………」愛の前に、もう一人の男が立ちふさがる。「ああ……」
 「“消え去るより”……?何だ?」今度は前の男が言った。その性器の先端が、愛の鼻先に触れる。
 「………も、…………燃え尽きたほうが………ま………し………」
 背後の男が、愛の尻に強引に陰茎を押し込む。
 「ああああっっっ…………」
 跳ね上がった愛の顎を抑え、前に立った男がその口に自分の陰茎をこじ入れた。
 「むぐ………むご…………」
 すかさず愛は夢中で舌を使い始める。
 
 思わず顔を背けようとした芳雄の顎を、だしぬけにドウ子が掴んだ。
 「ほら、ちゃんと見なきゃ」とドウ子。「……生きてるってのは、ああいう事だよ…………死んでるんじゃないってのは、ああいうことなんだよ」



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