童貞スーサイズ
第四章 「アウト・オブ・ザ・ブルー、イントゥ・ザ・ブラック」
■第31 話 ■ ジョイライド
「むぐぐ……」
走行するワゴンの中で、愛は何度も芳雄にキスをした。
生やさしいキスではなかった。舌は縦横無尽に芳雄の口の中を走り回り、それはかすかに精液の塩辛い味がする。
愛が芳雄にしがみつき、唇を貪っている隣では、ドウ子が何事もないかのように本を読んでいる。
「ねえ………あんた、したくない? ………したいでしょ……あたし、すっごくしたいんだけど……」
「……あっ……ちょっと……」
愛の手が股間に伸びる。
「……ねえねえ、ほら、こうすると気持ちいいっしょ? ……ねえ、ねえったら……」
いつものようにワゴン車のハンドルを握っているのは大柳だ。助手席には大西。2列目の席には芳雄とドウ子と愛。
三列目にはあの男たちが、白い仮面を付けたまま一言も口を効かず座っている。
「ほら……ねえ、ほら、正直に言いなさいよ、したいでしょ? ……あんたもしたいんでしょ?」
「……ちょっと………ダメ、ダメだって……」芳雄は愛の手を必死で制した。
愛がますます躰を密着させてくる。愛は薄いパーカーを身につけていた……というより、薄いパーカー以外、その中には何も身につけていない。
柔らかく、湿った肉の感触が伝わってくる。
愛の体温は尋常ではないくらい高かった……芳雄はむかし、家族で出かけた自然農場でほんものの馬に触ったときのことを思い出した。
「……ねえ、固くしてよお……固くしてったらあ……」情け容赦なく愛の手がズボンの上を上下する。「……ほらあ、こうしたら気持ちいいでしょお……?」
「だめだって……こいつ今日デートで、搾りつくしてきたんだってさ」
ドウ子が本から顔を上げずに言った。
もちろん愛は聞く耳など持っていない。芳雄の首筋に強く吸い付き、濡れた唇をなすりつける。
「ほらあ……触ってよ……」
「あっ……」
突然、愛が芳雄の手首を握り、パーカーの胸元に引きずり込んだ。
いきなり指先が、固く尖った乳首に触れる。
「……ほら、摘んで……揉んでよ……ちぎったっていいからさあ………」
愛は自らの胸元に差し込んだ芳雄の手にパーカの上から手を添えると、ぐりぐりと回た。その間も芳雄の股間をからかうようにまさぐり続けている。
「ねえ……あんた、見てたんでしょ? ……あたしが、アソコにもお尻の穴にも、口にもぶちこまれて、ひーひー言ってるとこ見てたんでしょ? ……ねえ、ど うだった? ……勃った? 勃ったんでしょ?……ねえ、ああいうことしてみたい? すっごく気持ちよかったよ……ねえ、してみたいでしょ? ………あんた だったら前か後ろか口か、どれがいい? ………ねえ、ねえったら……どこに挿れたい?」
「………ま……待って……あっ」愛の手がズボンのジッパーに掛かった。
「……なんでもさせてあげる……させてあげるから……ね、ほら、任せて」
ジッパーを降ろされ、愛の指がすかさず忍び込んでくる。狭い車内で、芳雄は身をよじった。
「……あー……もうすっごくなってる………」
愛が呟き、虚ろな目で芳雄の目を覗き込む。
「えっ?マジ?」ドウ子が本から顔を上げた。「見せて、見せて」
「やっ……やめ……あっ……」
あっという間に、陰茎を引きずり出された。
どういう事だろう?……今日はフェラチオの日か?
愛の言葉通り、引きずり出された陰茎はすでに固くなっていた。
「えー……今日、デートだったんでしょ? しょーがないスキモノだねえ、あんた」ドウ子が嘲笑う。
「はむっ」愛が芳雄の股間に顔を埋めた。
「あっ…………やっ」
瞬く間に、亀頭を熱い舌で転がされる。
愛の舌は素早く、同時にねっとりと動いた。
ドウ子が冷めた目で芳雄を見ている。
ちらりと背後の3人の男たちを見る…仮面の下の表情を伺い知ることはできないが、特に彼らはこちらに興味を抱いている様子ではなかった。
「ふっ………んっ………ぐっ………」愛が頭を使い始める。
「………あっ………もう………ちょっと………」
逃げ場のない車内で、芳雄は虚しく冷たい窓ガラスに頬をつけて耐えた。
熱い息が、窓ガラスを内側から曇らせていく。
不可避的に、数時間前……あの非常階段で太田にされたことを思い出す。
太田の舌使いと愛の舌使いは、まったく違っていた。
確かに愛は今、薬物によって完全に正気を失ってはいる。
しかし、愛は絶妙な調子であっという間に芳雄を崖っぷちに追い込んだかと思うと、瞬間的にはぐらかし、はぐらかせたかと思うと、また高めた。
おもちゃのように手玉に取られながら、芳雄はどうしようもない虚しさと哀しさを感じていた。
太田の無我夢中な舌使いが懐かしかった。
ときおり歯を当てたり、痛いくらいに強く吸ったり、全く的外れなところを刺激したりする、あの稚拙な舌使いが。
あれがほんの数時間前の出来事だったとは、とても信じられない。
このワゴンがどこに向かっているのかは知らないが、太田のところに帰りたかった。
これまでにもとんでもない経験をしてきたが、一度も母や姉の待つ家に“帰りたい”などと思ったことはない。
、
“死んじまえ……”太田の声が蘇る。
何て虫のいいことを考えているのだろう、と芳雄は思った。
もう太田が自分を受け入れてくれることはないだろう。
太田を突き放し、このおぞましい世界に舞い戻ったのは自分なのだ。
もしまた太田に会えたとしても、彼女の顔をまっすぐに見ることができるだろうか? ……この手で彼女に触れることができるだろうか?
「……ねえ、気持ちいい?」ドウ子が囁く。「………気持ちよさそうだねえ……ホントに」
「………んっ………」抗議する気力すら湧いてこなかった。
「ねえ、電話のそばにいたあんたの彼女が今の芳雄くん見たら、どう思うだろうね?」と、ドウ子。「……ほーんと、芳雄くんったら快楽に弱いんだから。ねえねえ、彼女に悪いと思わない?」
「………んんっ……ぐっ……」
傷口に塩を塗り込むようなドウ子の言葉に、何故かたちまち追いつめられそうになる。
「……彼女のこと好きなんでしょ? だったらガマンしなよ。できるでしょ? ……できるよねえ、フツー」
「………そ、そんな事……言ったって………」
「えー……彼女かわいそー……デートの後で、こんなワケわかんない女の口で彼氏がイッっちゃった、なんて聞いたら、あたしだったらショックで寝込んじゃうわ。あっはっは」
ドウ子がケラケラと笑う。
「………むぐっ…………ぷはっ……」愛が芳雄の陰茎から口を離す。「……え、あんた、何? ……彼女いるのお………?」
「…………」芳雄は目を固く閉じたまま、さらに強く窓ガラスに額を押し当てた。
「……彼女にも、しゃぶってもらったあ?」言いながら愛は芳雄の陰茎に指を絡ませる。
「………………そ、そんな……」
「ねえねえ、彼女とあたしとどっちがじょおずう……?」ぎゅっと愛が根元を握る。
「………くうっ………」
「どうなのよ、この女より彼女、上手いの?」ドウ子が茶々を入れる。「……あー、もう、なんか先っぽからドロドロ出てるし……芳雄くん、さいてー」
「忘れちゃいなよお……彼女のことなんて………あたしが忘れさせたげるからあ……」
再び、愛が芳雄の陰茎を飲み込む……一気に根元まで飲み込まれ、芳雄は座席の上で仰け反った。
「ひ、ひっ…………」
愛が猛攻を再開した……あまりにも激しく頭を上下させるので、座席のスプリングがギシギシと悲鳴を上げる。
芳雄はひとたまりもなかった。
「あ、あ、ああっ……あ、あ」
本日三回目の射精だった。二回は太田の口の中で、三回目は愛の口の中。
三度目とは思えないくらいの量が、止めどなく溢れた。
それでも愛は芳雄を許さず、強引に吸い上げ続ける。
遙か向こうで、ドウ子が爆笑しているのが聞こえた。
どこまでもどこまでも、愛に吸い上げられる……芳雄は恐ろしくなって、愛の頭を両手で掴んだ。
ドウ子がスマートフォンを出してフラッシュを焚いた。
最後の一滴まで搾り取られ、芳雄はぐったりとシートに身を沈めた。
頬に当たる窓ガラスは、自分がこれまで盛大に吐き出した吐息でぐっしょりと濡れている。
「は……はあ……あ……」
いつの間にか車は高速を降り、湾岸地帯に近い開発地区に向かっていた。
外は暗く、車の姿も少ない。
愛がまた芳雄に寄りかかり、唇を求めてきた。
もはや抵抗する気力はない……芳雄は自分の精液の味がする愛の舌をねじ込まれるよりなかった。
「お楽しみのところ悪いけど……そろそろ着くよ」ハンドルを握る大柳が呟く。
「ど………」愛の唇から逃れて、辛うじて声を出す「どこに?」「夢のチョコレート工場」
デジカメのディスプレイを確認しながら、ドウ子が答えた。
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