童貞スーサイズ

第四章 「
アウト・オブ・ザ・ブルー、イントゥ・ザ・ブラック



■第29 話 ■ Raw Deal
 “死んじまえ”か……。いや、太田がそう言うのも当たり前だ。
 そう、自分は今こうしてこの部屋の前に立っていて、昨日と同じホテルの部屋の前に立ち、ドアを押そうとしている。
 ドアの向こうに何が待っているのかは知らないが、自分はそこに帰っていくしかないのだ。

 ドアをノックする。ドアを開けたのはドウ子だった。
 「あ、早かったじゃん」Tシャツに黒いカーディガンにジーンズというラフな出で立ちだ。「何? なんだか今日はヨソ行きだね。あ、そか、デートだったん だっけ?」
 「………ああ」失ったものの重みを、ずしりと胸に感じる。
 「入って、入って」
 ドウ子に誘われるままに部屋に入る。
 リビングにはドウ子しか居なかった。大西の姿も大柳の姿も見あたらない。
 ドウ子が座っていたと思しきソファには、本が開いたまま伏せてあった。宮崎学の 『地上げ屋〜突破者 それから〜』
 「……僕が知ってる人って、一体誰?」ドアの前に突っ立ったまま、芳雄はドウ子に聞いた。
 ドウ子が本を取り上げて、ソファに座り直す。
 「……そっち。ああ、昨日あたしとあんたがバイブで繋がった思い出の部屋」
 指さされた先には、寝室のドアがあった。
 
 “んっ………あっ………あああっ!
 
 突然、艶めかしい声が寝室から響いてくる。
 
 「……一足お先に、お楽しみ中だよ」とドウ子。
 「……だ……誰?」
 「……入って見てみなよ」ドウ子が顎でドアを指す。
 
 “あっ………んっ………いっ…………いい、すごく………すごくいい………”
 
 芳雄はドアのノブに手を掛け、ドアを開いた。
 
 ベッドの上の女は全裸だった。
 芳雄の位置からは女の細長い胴と、高く上げられた尻が見える。
 女の顔はその正面に膝立ちになった男の股間に埋められていてよく見えない。
 その他にも、ベッドの上には2人の男が居た。全員が昨夜の“先生方”と同じ、白い能面のようなマスクをつけている。
 マスク以外、男達は全裸だった。3人の男たちの身体はどれもこれもぶよぶよとして……それぞれの体毛の濃さ薄さで、お互いを差別化しあっているようだっ た。
 
 ベッドの上の3人……女を入れて4人は、芳雄が部屋に入ってきたのに全く気づいていない様子だった。
 部屋の隅では、大西と大柳が並んで壁にもたれ、ベッドの上の狂態を眺めている。大西は芳雄の姿を確認すると、軽く会釈した。
 
 女は正面に立った男の肉棒を、頭全体を使って……というより上半身全体を使ってしゃぶり立てていた。
 その横顔は茶色のセミロングの髪に隠されて、判別することは出来ない。
 女の尻の後ろに位置した男は、片手でその尻を固定しながら、もう片方の手を激しく動かしている。残忍なくらいに激しい手つきだったが……激しく指を突き 入れられる度に女の尻はぴくん、と高く跳ね上がり、指を引くと尻がそれを追った。
 女が太股をすり合わせ、尻を回す。濡れ光った内股が覗き、そこに新たな液が筋を作るのもはっきりと見えた。
 女は口を使い、背後から指で激しく突き上げられながら、右手で身体の横に立った男の肉棒を握り、物凄い勢いで上下に扱いていた。
 
 「ううっ………うんっ………は、はあっ…………もう、た、た、たまんない……」
 
 泣き声のような、もしくは悲鳴のような声を女が上げる。
 女は正面の男の肉棒から口を離すと、唾液でぬめるその剛直を左手で扱き始める。
 その間も、右手を休めることはない……女の動きのリズムは、後ろから突き上げてくる男の指の指の動きをベースにしているらしい。
 ひとつのリズムを基調に動く4人の肉体は、それぞれの工程を任されて動くひとつの工作機械のようだった。
 
 “知ってる人……? この人ことをぼくが……?”
 
 芳雄は声もなくその様を凝視していた。
 男の指が、女の尻から抜き取られる。
 男の指にからめ取られた女の粘液が、細く長い糸を作る。
 
 「……あ、や、やだ……ぬ、抜いちゃ…………もっと…………」
 
 男たちがそれぞれベッドの上で動き、フォーメーションを変えた。
 その間も女ベッドの上で四つん這いになったまま、ピンク色に染まって汗で滑る身体を息づかせている。
 
 「あっ……えっ………」
 
 男のうちの一人が、女の身体をひょい、と持ち上げて膝の上に抱え上げた。
 女の身体が芳雄の正面を向く形となった。残りの男二人は女の左右に位置して、女の両手を取り、それぞれの肉棒に導く。
 女を抱え上げた男が女の両膝の間に膝を割り込ませ、大きく左右に開いた。
 ぐっしょりと濡れた陰毛と、その下の入口がはっきりと見える。
 背後から伸びた男の指がその部分を開くと、さらに新鮮な液がひとしずくこぼれ落ちる……。
 芳雄は目を背けることができなかった。
 やがて男の亀頭の先端が下から入口に、ぴたりと押しつけられた。
 
 「んっ………」
 
 そこではじめて女が顔を上げる。
 茶色の髪がまだ顔面に掛かってはいるが、ようやく芳雄はその女が誰であるかを知った。
 
 本日、東京某所で自動小銃を乱射した男……樋口の部屋に居た女…… 愛だった。
 セーラー服をしてチャットレディをやり、薬漬けの樋口を支えていたあの女だった。
 翌朝芳雄に媚薬入りのコーヒーを飲ませ、芳雄を手で射精させたあの女だった。
 そして芳雄に“クラブ・ニルヴァーナ”のサイト、“ニルヴァーナ・ドット・コム”のアドレスを教えてくれたあの女だった。
 
 愛の目はどんよりとして、焦点はまったく定まっいない。
 だらしなく開かれた唇からは、涎が零れていた。
 まるで座ったまま寝入りそうな赤ん坊のように、その頭はぐらぐらと揺れれている。
 
 「あー……」一瞬だけ、愛の視点が芳雄を捉える。
 「…………な」芳雄が一歩後じさると、その背中が何か柔らかいものに触れた。
  
  振り向くと、背後にドウ子が立っていた。
  
 「イイ感じでしょ?」ドウ子がニヤニヤと笑う。「……結構、彼女もお気に召したようで何よりだわ。ありゃあ……すっごい事になってんじゃん、もう」
 「な……」今度はドウ子から後じさる。「……何したんだよ、彼女に」
 「……あんたと同じよ。……まあ、あんたよりはキツーイ薬を召し上 がってもらったんだけどね」
 
 「うんっっ!!」声に振り向くと、丁度愛の入口に男の性器がめり込んだところだった。
 
 「……なんで……」芳雄はさらに2歩、後じさっていた。「なんで、こんな事を?」
 「ちょっとねー……彼女が一緒に暮らしてた男があんな事になっちゃったじゃない? ……それで、彼女はいろいろ知り過ぎちゃってたから……」そう言って ドウ子は、一歩芳雄に歩み寄る。「いくらなんでも、殺したりすんのはアレでしょ? ……まああたしらもそれほどまで徹底した悪党じゃないから。だから、お 巡りさんより先回りして、彼女にここに来てもらったわけ。それで、いっそのこと、仲間になっちゃってもらうことにしたんだ」
 「……………」
 「……あたしらの仲間になれば、彼女は安全。あのまま正気に戻らなければ、もっと安全」そう言ってドウ子は白い歯を見せた。「……あたしたちって、親切 でしょ」
 「………一体」さらに一歩近づくドウ子から、一歩退く「………一体、お前らは何を?」
 「あーもう、また間違えてる。“お前ら”じゃなくて“ぼくら”……」ドウ子がぐっと顔を近づけた。またあの目だった……底なし沼のよ うな、透き通った目。「……何なの? ひょっとしてあたしらの事、ボランティアで海岸のゴミ拾ったりする団体かなんかだと思ってたあ……?」
 



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