女性専用車両 作:西田三郎

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■変な子を見かける



 その子を見かけたのは、先月の頭。今年はじめて雪が降った日だった。
 わたしが通勤に使っている地下鉄の路線は、始発から9時まで、先頭から5両目の車両が女性専用車両になっている。
この路線はほかの都市部の通勤電車の例にもれず、朝の通勤時には猛ラッシュとなる。ほんとうに痴漢が多くて、わたしも女性専用車両ができるまえは、しょっ ちゅう痴漢の被害にあった。
 この路線の痴漢には凶暴悪質なのが多い。わたしは結構、背が低いほうで、顔つきもなんかぼーっとしてるか らか、痴漢にひどいことをされたことも多い。スカートの中に手を入れられることは毎度のことで、ストッキングを降ろされたり、ひどいときは パンツの中に手を入れられたりもする。相手がひとりのときはまだいいほうだ。一度なんかは、4人がかりの痴漢に取り囲まれたことがあった。 怖くて声も出せずに、そのときはストッキングどころかパンツもおろされた。
 そのときはさすがにダメージを受けて、会社を休んでしまった。
 まあ、わたしは時給で働いている契約社員なので、しょちゅうズル休みもするんだが。
 そんなこともあって、わたしは女性専用車両ができてから、それを利用することにしている。
 
 ところで、その子は車両のドアのわき、わたしのちょうど正面あたりに立っていた。
 女性専用車両でも朝のラッシュ時はけっこう混んでいる。
 歳のころは14歳くらい。沿線沿いにある私立中学校のPコートを着ている。
 華奢な体型でボーイッシュなショートカット。
 色白の肌で切れ長の目をしている、結構な美少女だった。
 背は、わたしよりもちょっと低い。
 わたしにはそっち系の趣味はないけど、なんだかその子が気になってしかたがなかった。どことなく、様子がへんなのだ。
 しきりに周囲を伺っているし、わたしとも何度も目があった。
 目が合うたびに、その子はあわたてわたしから目を逸らせて、俯いた。
 そのたびに、その子の頬が赤くなるのがわかった。
 勤務先の最寄り駅まで20分。ひまなので、わたしはその子を観察することにした。
 
 どうもへんだ。
 女性専用車両の乗客は、ほとんどがわたしくらいの年齢の会社員か、女子大生、もしくは目の前のこの子のような女子中高生だ。誰もかれもが、朝シャンした ての髪。車内はふつうの車両にはないような、独特のいい匂いに満ちている。うそだと思うかも知れないけど、これはほんとうだ。
 でも、その子から漂ってくる臭いはなんだか違った。
 べつに、臭いわけではない。ちゃんと、シャンプーのいい匂いがする。
 しかし、それに交じって、なにか違う臭いがした。なんだろうか?
 しばらく考えていると、わたしは弟のことを思いだした。
 わたしより5つ年下の弟はどっちかと言えばおしゃれに気を使うほうで、服装にも気をつかって毎朝シャンプーをするような子だった。わたしは昔から、かな りそのへんには無頓着だったので、そんな弟をばかにして、よく「オカマ野郎!」って罵ったものだ。
 しかしいかに弟が気を使って毎日朝シャンをしようと、どうしても若さゆえに躰から分泌される汗やその他の臭いだけは隠せない。その子から も、弟と同じような臭いがしたのだ。
 そう思ってその子を見ていると、また変なことに気が付いた。
 その子の眉毛である。
 最近の年頃の女の子で、眉毛の手入れをしていない子はほとんど居ない。
 男の子でもそうだ。わたしの弟だってそうだった。
 でもその子はけっこう眉毛が濃くて、手入れは行き届いていない。そのせいで、その子の顔はとてもボーイッシュというか、凛々しいというか、印象的な顔に なっている。
 
 わたしがそんなふうに凝視していると、わたしの視線に気づいてその子が目線を下に落とした。
 あたしも視線を下に落とした。
 短いスカートからすらりと伸びた太股が見えた。羨ましくなるほど、ほそくて、白い太股だった。思わず釘付けになった。繰り返すけど、わた しにはそんな趣味はない。
 しかしその子はさらにわたしの視線を感じだのか、恥ずかしそうに太股をすり合わせた。
 
 と、妙なことに気が付いた。
 その子のスカートの前が、盛り上がっていたのだ。


 
 

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