確かにシークァーサーの味がした

作:西田三郎
「第9話」

■朝。10,000円。首里城。

 翌朝も快晴だった。

  おれもりみも、ベッドにも入らずに床に寝転んでいた。
  先に目を覚ましたのは、おれのほうだった。りみは浴衣の前も派手に開いて、盛大に脚を広げて床の上に大の字になっている。おっぱいも、パンツも丸見えだった。そのパンツは……昨日おれが買ったパンツのうちの一枚で、今日は水色だった。カーテンから覗く空も朝から青かった。昨日の海も青かったし、多分、今日も青いだろう。
 
  いやそんなことはどうでもいい。
  泡盛を2本空けたが……頭も痛くないし、吐き気もしない。
  なんとまあ、素晴らしい酒だ。

 りみの寝顔を見た。

  腹が立つほどあどけない顔だった。
  やっぱり娘のことを思い出したが……それをおれは振り払った。
 
  悪いが……起きないようなのでキスをした。

  唇を舐めて、舌も入れた。そのままねぶりまわす。……確かにシークァーサーの味がした。その他、いろんな味もした。
 
  「んん………」
 
  りみが寝返りをうつ。
  胸に触れた。少し……優しく揉んでみる。そういえば昨日は揉まなかったっけ。
  いや揉んだかな?おれは真剣に揉んだ。はっきりいって、揉み応えのあるおっぱいではない。妻のおっぱいのことを思い出した。そりゃあもう、こんな貧乳とは大違いである。
  しかしおれは揉む手を休めなかった。

 「……あ…………」

 静かにりみの唇が開く。
  おれはそっとその乳頭に吸い付いた。

 「はっ………んっ………」
 
  ぴくん、とりみの身体が跳ねる。
  やばい、起きたかな?……いや、セーフだ。
 
  おれはりみの浴衣の前をすっかり開くと……ゆっくりと舌を這わせた下に、下に向かって。鳩尾から臍に向かって……そしてその下に向かって。
  どうする?まだやるか?
  おれはりみのパンツのゴムに手を掛けた。

 「……おはよう」そこでりみが目を覚ました。「なにやってんの?
  「いや、その」おれは身体を起こした。「あんまり浴衣が乱れてたからね。整えてたんだ
  「へーえ」りみが身を起こしながら浴衣を自分で整える「……ご親切に」

 そのままりみはシャワーを浴び、続いておれもシャワーを浴び、昨日着ていた服を着た。りみは自分のセーターの匂いをくんくんと嗅いでいる。

 「ねえ」りみがおれの袖を引っ張る。「10,000円貸して
  「え?」
  「あるでしょ、10,000円くらい」
  「ここの払いはおれが持つけど?」おれは言った「昨日のコンビニ代、出してもらったし」
  「いや、あたしもお金はあんのよ」りみが決まり悪そうに俯く「……でもさ、やっぱ他に行きたいとこもあるしさ、食べたいものもあるし」
  「黒い極太ソーセージ以外にまだなんかあんの?」おれはまたりみをからかった。
  「……このゲス。ホテル出たらあんたとは別行動ね。でも10,000円貸してよ」
  「いいけど……」おれは財布から10,000円札を出した。
  「ありがと」りみがそれをひったくる
  「ああそうか……」おれはそこでようやく気付いた。「これ、あれね。ロッカーの鍵代だろ?昨日溝に捨てたやつ」
  「…………」りみは返事をしなかった。

 ホテルをチェックアウトして、通りに出た。
  眩しいほどの晴天だった。

 「じゃあね」りみが言った。「うまいこと死んでね
  「頑張るよ」

 りみはそのまま背を向けて歩いていった。
  恐らくあの10,000円は返ってこないだろう。いや、ふつうはそうだ。一度財布から出た金は返ってこないもんだ。こんな単純なこと、一体なぜ忘れてたんだろう?

 おれは今日一日の予定を考えた。

  そういえば、首里城に行って見るのもいいな。琉球城蝶々園を見学してもいいし、ナゴパイナップルパークに出かけてもいい。ナゴパラダイス?あれもそこから 近いんだっけ?やんばる亜熱帯園に行ってもいい。別に植物に興味はないが。そのほかに何がある?ビオスの丘に金剛石林山?海洋博物館に行ってもいい……沖 縄に最近開通したっていう、電車で出かけるのもいいだろう。今日くらいはおれもどこかの海で泳いでみるかな。どこかで水着をちゃんと買って。さんざん泳い だ後、そのまままた那覇に戻ってみよう。今度はもう少しましな店で食事をしよう。あの社長がブログで書いてた……なんだっけ、あの豆腐よう?それを食べてみるのもいいだろう。そういえば、アンダスー。あれも昨日食い損ねた。その後はどうする?……『チャクラ』を探して入ってみるか?一日で足りるかな?……ちょっと無理かもしれない。

 で、いつ死ぬんだ?

 まあ…………あした考えるか。(了)

2006.3.30


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