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で、奥さんあんたいつも
ドンナふうにナニしとんねん。


作:西田三郎



この物語は、実話に基づいています。
会話の詳細などは西田三郎の創作です。


■1■ 参考人聴取

 その日、わたしは参考人聴取で近くの警察署に呼ばれ、聴取室で待たされていた。
 ずいぶん待たされてやっと現れたのは、ハゲた小男の刑事だった。
 テレビのサスペンスドラマに出てくる、脇役の刑事ふうだ。
 
 「よし!犯人は●●に違いない!」
 とか言って、主人公の刑事の冷静な判断を否定して、どう考えても間違えた方向に突っ走り、最後に大恥をかくタイプ。
 なるほど、刑事とはこんな感じなのかなあ、とわたしは思った。
 そりゃあ、警察の不祥事や誤認逮捕が絶えないわけだ。

「わざわざお越しいただいてすみません……ええと……奥さん、とお呼びしてよろしいでっか?」
「はあ……」

 まあ、わたしはあの男とは正式な婚姻関係にあるわけではないけれども、一応、一緒に暮らしているわけだし、そう呼ばれても仕方ないなあ、とその時は思っ た。
 
 同時に、いったいあんな男となぜ一緒に暮らしていたんだろう、とも思った。
 あいつがやったことを思うと、その事実自体を消去してしまいたい気分だ。

「……いやあ、なんといいますか……お綺麗な方で……」
「はあ?」
 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
 刑事はニヤニヤ笑っていた。が、わたしと視線を合わせない。
 目をそらしているのではなく、わたしの脚を見ているのだ。
 
 わたしは思わず、机の下の脚を数センチ、露骨に引っ込めた。

「……いやいや、すんまへん。奥さんがあんまりお綺麗なんで、ついつい余計なこと言うてまいましたわ……でも奥さん、言われまへんか?……よく街で、男が 声掛けてきたりしませんか?……いやあ、最近の三十代はほんま、魔性で んなあ……」
 
 刑事は、わたしのセーターの胸を見ている。
 眼力で、おっぱいが押しつぶされそうな感じだった。

「あの……」話題を変えたくて、知りたくもないことを聞いてみる。「……で、あの人……どんな様子ですか?」
「ああ、彼ね」と刑事。さもつまらなそうに言った。「……留置所で、大人しゅうしてますよ。多分、夜は自分が服の上からモミシダイた、ホステスさんのおっ ぱいの感じでも思い浮かべて、せんずりでもコイとるんとちゃいますか………へへへ」
「………」

 なんなの。こいつ。
 下ネタのつもりだろうか。
 こんなもんで笑いが取れると思っているのだろうか。
 はやくも、わたしは胃がムカムカしてきた。
 たぶん、恐ろしい顔で刑事の顔を見ていたと思う……が、この男は、まったく我関せず、という雰囲気だった。
 そして、なおも言葉を続ける。

「僕やったら、ブタバコでせんずりコクんやったら……奥さんのこと思い出してこきますけどねえ……それにしてもあほな男やなあ……こんなキレイな奥さんが おって、なんであんなしょーもないことしたんやろうなあ……いやほんま、僕があいつやったら、絶対そんなあほなことはしませんわ……毎日、仕事が終わった らもう、 ソッコーで奥さんの待つ家まで帰って、一緒にフロ入って……ほん で……」
「あの」わたしはナタでも振り下ろすように刑事の言葉を遮った。「すいません、もう本題に入ってもうてええですか?……わたしも、忙しんで……ほん で、こういう事情聴取って……テレビとかでは、ふつう、女性のおまわりさんが一緒にやってくれはるもんとちゃうんですか?……ほら、あの部屋のすみっこ で、後ろ向きに座ってノート取ったりして……」
「そら奥さん、それはテレビの中の話ですわ」と刑事。今度は、わたしの首筋を 見ている。「僕らは、テレビの警官とちゃいましてな。レインボーブリッジ封鎖し たり、断崖絶壁で追い詰めた犯人を説得したりはしまへんのんや……まあ、昨今は警察も人員不足やさかいに、合理化が図られとるわけで……奥さんのダンナさ ん、 あっちのほうの取り調べでいま、ウチの署員も大忙しですよってな。ほんで、奥さんのほうは、僕ひとりで聴取させてもらうことになりましたわけですわ……い や、 奥さん、ほんま刑事やっとって、なかなか楽しいことはおまへんけど、たまにはええこともあるもんでんなあ……」
「ええこと?」自分の声に、明らかな嫌悪感が表れている。
「奥さんみたいなキレイな人と、二人っきりで時間を過ごせるなんて……ほんま、役得も役得、役得の大海原、出して出してダシマクリマシテは、あなたのその 指で、わたしのこの耳で……」
「あの」わたしはぴしゃりと言った。「サッサ、と終わらせてもらいます?」

 刑事は好色そうに目を細めて、ここにきて初めて目を細めた。

「ほな、始めまっさ……」

 そして、バインダーに留められた調書?……らしいものをめくるため、わたしの目の前でべろりと親指を舐めた。


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