詳しいことは知りませんが
作:西田三郎■ラスト・クリスマス
これだけは、絶対内緒ね。絶対、絶対、ぜえええええええったい、人に話しちゃダメだからね。
秘密だからね。ほんっと、バレるとやばいんだ。
あのね、この街の地下には、もうひとつ街があるの。
地下街?ううん、そんなんじゃない。もっともっと、深いところに、街があるの。
…ほら、もう信じてない。
ま、いいけどね。あたしも無理してアンタに聞かせてあげる事ないんだから。
バカにするならもう言わない。
…ちゃんと聞く?…………うん、判った。じゃ、話したげる。
今言ったみたいにね、この街の下、地下の深い深い…地下鉄よりもずっと深い、ふかああああいところには、もうひとつの街があるの。ほとんどの人が、その街が地下にあることを知らないの。っていうか、その街は、公式には存在しない事になってるからね。ほんのわずかな人達だけが、その街が地下にあるっていうことを知ってて、知らないふりしてんの。
なんの為にそんな街が?
うーん。なんでだろ。それはよく知らない。
多分、アレじゃない?ほら、核戦争が起こった時のための、シェルターとか。
あたしが行ったことあるのは、この街の下にあるやつなんだけど、日本国中の大きな都市の地下には、どこも同じようなのがあるんだって。これほんと。…びっくりした?
…実際、核戦争が起きたり、なんか大災害が起こったり、隕石が落っこちてきたりする時、誰もみんながその地下都市のこと知ってたら、定員オーバーになっちゃうじゃん?いくら広いとはいっても、地上の街ほどのキャパはないからさ。そんな事が起こった時に、その都市を知ってる、特別な人達だけが、そこに逃げ込んで生き残られるようにするため、その存在を内緒にしてるんじゃない?
え?不公平?
うん、考えてみれば、すっげー不公平だよね。
でもあたしもそこに行ったんだけど、行き方が分かんないんだよね。
だって、初めから終わりまで、ずーっと目隠しされてたから。だから、正確に言うとあたしは、その地下都市には行ったけど、何も見てないのよ。…うん。なんだそれって話でしょ?
でも本当なんだ。
あたしは一回だけ地下都市に行って、そこから帰ってきたの。
信じられない話だろうけど。
なんでそこに行く事になったかって?
うん、友達の友達の友達の友達の友達くらいの、遠い知り合いから巡り巡って話が来たんだ。
あたしは直接その人のこと知らないんだけど、あたしがお金に困ってて、それも急いでるっていうウワサが、いつの間にかそこまで広まってたんだよね。それにあたしがそのお金を稼ぐためなら、かなりなんだってやる気があるってこともね。ほんっとその頃、お金に困ってたんだよね。ヤバかったよ。
実際。SMもののAVとか、それもウンコ出したりするやつ、ああいうのに出ないかって話が先に回ってきてたら、間違いなくやってただろうね。それくらいお金に困ってたって訳。
で、その話よ。あるところまで一晩出張すれば、50万円貰えるっていうの。
50万?なんだかヤバい感じはしたけどね。
でも、痛めつけられるくらいはしても殺されることはないだろうって、勢いに任せちゃったんだ。
いやあ、若かったねえ。1年前とはいえ。
…それににしてもあたしみたいな女に…え?いいよ。お世辞言わなくたって。顔もそんなに綺麗じゃないし、スタイルだってそんなによくない。まあ、よくおっさんからは可愛いって言われるけどね。同年代にはモテないんだよね。古い顔立ちなのかな?それとも、おっさん心を擽るなにかをあたしあ持ってるか…まあ、別にいいやそんなことは。どこまで話したっけ?あ、そうそう。あたしみたいな23にもなった何の取り柄もないな無職女に、一晩で50万も払うってんだから、ふつう信じられないよ。
去年のクリスマス、あたしの携帯に電話が入ってさ、出てみると、友達からだったんだ。
なんでもその友達の友達の友達の友達の友達の友達くらいが仕入れた情報だけど、あるところで大きなクリスマスパーティがあって、エライ人もいっぱい来るらしいからいかないかって電話があったわけ。
で、それに出たら50万円くれる、と。
なんかみんなさすがにヤバいと思ったらしくてさ、友達から友達へ、またその友達から別の友達へって感じで、最終的にあたしに回ってきたんだな。
そして2時間くらい経って、あたしの携帯に連絡が入ったの。
全然知らない男の人の声で、なんか妙に声が遠くてノイズが多かったのを覚えてる。
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