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童貞スーサイズ

第四章 「
アウト・オブ・ザ・ブルー、イントゥ・ザ・ブラック



■第32話 ■ アウト・オブ・ザ・ブルー、イントゥ・ザ・ブラック
 はるか遠くに、波の音と船の鳴らす霧笛の音がする。
 車は寂しい住宅地に出た……住宅地とは言っても、空き地ばかりでほとんどと言っていいほど家は建っていない。
 ところどころ、思い出したように立てられた街灯が、果てしない闇の広がる空き地と……ぽつん、ぽつんと申し訳程度に建てられた一戸建ての寂しげな佇まいを照らしだしている。
 まるで飽きっぽい子供が途中で放り出した巨大な箱庭のようだ。

 「ここは……?」
 芳雄はおずおずとドウ子に声を掛けた。
 しなだれかかる愛はまだ芳雄のしおれた陰茎をまさぐっていたが、もはやなにも感じない。
 しばらくの間は……何が起こっても何を感じることも出来ないだろうと芳雄は思った。

 「……もうすぐ終点だから、ホラ、ちんこしまって
 ドウ子が本を読みながら言った。 予想はしていたが、ドウ子からは何も明確な回答は得られない。
 そのままドウ子は読書に戻ってしまった。
 ハンドルを握る大柳も、助手席の大西も、後部座席の能面を被った3人の男も一言も口を効かなかった。
 「……ねえ、いいでしょ。まだ出るでしょ……ほら、また硬くしてよ……」
 荒い鼻息とともに、愛だけがぶつぶつと呟いている。

 ヘッドライトの先に、一戸建ての家が見えた。
 大柳がゆっくりと車を減速させ、ウインカーを出す。
 歩く人も通り過ぎる車の姿もまるでないこの地帯では不要なように思えたが……とにかくあの一戸建てがドウ子の言う“夢のチョコレート工場”であり、“終点”であることは芳雄にも理解できた。

 やがて、家の前でワゴンが停車した。
 
「さ、降りて」
 大柳がサイドブレーキを引き、エンジンを停止させる。
 まずドウ子がスライドドアを開けて車外にぴょん、と飛び出した。
「ホラ、降りるよ。そのラリラリ女、どうにか引っ張ってきてよ……あーもう、ちんこしまえ、ってさっき言ったじゃん……」ドウ子が車内を覗き込みながら呆れ声で言う「……何なの?あんた。あたしに見てほしいわけ?」
「………」
 もはや抗議する気も起きなかった。
 「ねえ、硬くしてよお……どうしたのよ……ほら、ほら」車が停車したことにすら全く気づいていない様子の愛が、なおも芳雄の陰茎をまさぐっている。「……ねえ、まだ出るんでしょ?出るよねえ?…………ほら、もっともっと良くしてあげるから……」
 「……お、降りますよ」愛の手を振りほどくのにしばらく手間どった。

 なんとか性器を仕舞い、なおも迫ってくる愛を引きずるようにしてワゴンから這い出す。
 続いて助手席の大西も、後部座席に大人しく座っていた能面の男たちも車を降りた。 
 へばりつき、しなだれかかってくる軟体動物のような愛をなんとか立たせながら、芳雄は目前の家を見上げた。

 2階建ての家屋。玄関前には、子供が3対3でドッジボール出来るくらいの広さの庭がある。
 車庫にはすでに白いセダンが停められていた。
 車に疎い芳雄はその車種を判別することができなかったが、かなり年代ものの車らしい……少なくともその車自体が停車させられている車庫や、家そのものより年を取っていることくらいは判った。家の白い壁はまだ清潔で、それほど雨露に晒された形跡はない。
 庭に面した大きなサンルーフは鉄の雨戸でしっかり閉ざされていた。

 喉まで出かかった質問を、ぐっと堪える。
 ドウ子の横顔に何を問いかけても、求めている答えなど出てくるはずは無いのだ。

 一行の中からドウ子だけが家に歩み寄った。
 インターフォンを押す。

 しばらく間を置いてから。マイクロフォンを通してくぐもった声が聞こえてきた。
 「はーい………」

 聞き取りにくい声だったが、芳雄の頭の中でその音声が何かと結びつき、小さなランプが点る。……いや、とはいえ何も答えは出てこないのだが。

 「……今晩は、ドウ子でーす」ドウ子が言った。
 「………」なにか含み笑いのような声がマイクロフォンから聞こえてくる。その後、家の中の男がボソっと呟いた。「……“青から出ると?”」
 「」ドウ子が答え、返す「“黒から出ると?”」
 「“なにもなし”」マイクが答えた「開いてるよ。上がって」
 
 ドウ子が薄い笑みを浮かべたまま、大柳と大西に振り返った。
 大柳と大西も笑う……その背後に立つ男たちの能面すら、少し薄ら笑いを浮かべたように芳雄には見えた。
 笑っていないのは自分と愛だけだ。

 「じゃあ、お邪魔しよっか」
 ドウ子を先頭に、一行がドアに向かう。
 「……ねえ、どこいっちゃったの? ねえ、ほら、あんたのちんこ、どこいっちゃったのよ? ………ねえ、ほら、どこに隠したのよおおお?…………」
 なおもズボンの上から股間をまさぐる愛を引きずるようにして、芳雄もドウ子たちに続いた。

 「お邪魔しまーす……」
 ドウ子がドアを開けると、玄関に面した廊下と二階へ続く階段が見えた。
 スニーカーを吐き散らして、まずドウ子が玄関を上がる。続いて大柳と大西が上がり、能面の男たちもそれに続いた。
 芳雄は愛をなんとか玄関に引きずり込んだが、股間への集中攻撃を続ける愛の手をかわしながら靴を脱ぐのは至難の業だった。
 薄暗い廊下から、ドウ子が芳雄と愛を省みる。
 まるでぐずる子供を見下ろす、愛情を失った母のような目つきだった。
 少し舌打ちしてから、ドウ子は言った。
「あ、大柳さん大西さんさ、その女、ほかの人とたち一緒に二階の寝室に運んどいてくんない?」そして能面の男たちに視線を移す。「あんたらも一緒に、二階 に上がっといてよ……その女、また好きにしていいから………あ、大西さん、殺さないようにちゃんと見張っといてね。ああ……それと、大柳さん、あんまりや かましいようだったら、またクスリで眠らすなりなんなり、テキトウにやっといて」
「りょうかーい」
 大柳がいつもの軽い調子で答えた後、愛の肩を乱暴に掴んだ。
 能面の男たちもそれに加わる。
 愛はぐだぐだとその場で大暴れし、男たちの手を大いに煩わせた。

「……いーやーだーーー………だって、だって、まだ出るもん、あの子。まだあたし、あの子の4分の1も搾り出してないもおおおん……ねえ、放して、放してったらあ………まだ出るよーーー……まだまだ出るってばこいつ………ねえ、放してってばあ……」

 大柳と3人の男たちに半ば持ち上げられるようにされながら、そのまま愛は玄関を上がり、二階へと続く階段へと運ばれていった。
 玄関に残った大西が、やれやれ、という顔で肩を落とす。

 「じゃ、大西さん、頼んだからね」
 「はいよ」大西は答えるとそのまま靴を脱ぎ散らかし、階段を上っていった。

 気が付くと芳雄は、五組の靴がめちゃくちゃに脱ぎ散らかされた玄関のたたきにたったひとりで立っていた。
 今自分が関わっている連中がどういう類の連中で、何を企んでいるのかはまったく理解できないが、とりあえずこいつらの間には“玄関で脱いだ靴はきちんと揃えておく”というルールは存在しないらしい。

「ほら、ボサっとしてないでさ、上がんなよ」
 ドウ子に即されて芳雄は靴を脱いだ。
 さっきまで愛がぴったりと躰をくっつけていた自分の左半身が、いきなり冷気に晒されていきなり冷えたように感じられる。
 家の中は外よりも冷気に満ちているようだった。

  階上から早くも愛の締められた鶏の断末魔のような声が聞こえてきた。

 「……はあ、もう。あーなっちゃ人間ラクだよねえ」ドウ子が呟く。
 芳雄は何も答えなかった。そうしたのはドウ子、きみだろうが。

 廊下の奥に進むドウ子に続いて、ひんやりしたフローリングを靴下はだしで歩く。
 一階にはキッチンへ続くらしいドアがひとつに、さらにもうひとつの部屋。
 廊下の突き当たりにはリビングに続くらしいドアがあった。
 芳雄は妙な親近感を覚えた……不思議なことに、この家の間取りは、かなり自分の家と似ている。

 「今晩は」ドウ子がノックもなしに奥のドアを開けた。
 先ほどの合言葉めいたインターフォン越しのやりとりは何だったのかと少々拍子抜けしたが、まず芳雄の目に飛び込んできたのは部屋の奥に設えられた巨大なプラズマテレビのディスプレイに映し出された映像だった。

 画面に大写しになっていたのは……ラブホテルのベッドの上で、ドウ子を膝に抱え挙げてそのパンツの中に手を突っ込んでいる、父の姿だった。
 そう、あのビデオ……1年前、父の葬式で……確か“工藤”と名乗るヒゲ面の男に手渡されていたあのビデオに焼き付けられていた、あの何よりも楽しそうで生き生きしている父の姿だった。

「やーねーもう、また観てんのお?」

 テレビ画面の前にはコタツが置かれ、男が背を向けて座っている。
 男は暖かそうな綿入れを着ていた。 
 コタツの左の傍らには、みかん箱大段ボール箱と、楽器でも入れるような細長いダンボールが置かれている。
 みかん箱には青いガムテープが貼られ、細長い段ボールは黒いガムテープで梱包されていた。

「よく来たね。寒かったろう」コタツの男が振り返らずに言った。

 この男を僕は知っている。男が振り返る寸前に、芳雄はその男が誰であるかを悟った。
 男が振り返る……予想どおりの顔がそこにあった。

「コタツに入りなさい。蜜柑でもどうかね?」
 
 ヒゲ面の男が言った……あの父の葬式でUSBメモリを手渡されて以来……1年ぶりに見る顔だった。
 その男……工藤は、芳雄に蜜柑をひとつ差し出した。
 

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