どちらへお掛けですか
 
作:西田三郎


■土曜の夜半、午前0時

 ベッドの上に広げられた薫の身体は、うっすらと赤みを帯びている。
 大きく息づく豊かな胸の上で、乳頭はぴんと天井をさしていた。下半身は汗とおれの唾液と、薫自身が溢れさせたもので濡れて光っている。それに加えて、薫は全身に汗をかいていた。
 薫の汗はおれのようにだらだらと流れはしない。朝露のように、無数に玉の汗が躰を覆っている。
 薫は顔は真っ赤だった。
 別に意地悪をしていたわけではないけども、おれは薫を見下ろしながら、しばらくその様子に見とれていた。
 しっかりとそれを、脳裏に焼き付けていた。
 
 「……ねえ」薫が薄目を開けて、悲しそうな声を出す。「……して」
 「……ほんっとうにやらしいねえ、薫ちゃんは」今度は意地悪で言った。
 「……もう、やだ……」薫がおれから顔を背ける「……さんざん、あんなやらしーことしといて……」
 「……気持ち良かった?」意地悪で言ったつもりだったが、声が歓喜で裏返っている。「ああいうの好き?」

 薫は答えずに逆方向に、ぷい、とまた顔を背けた。
 またポニーテールがふわり、と舞う。
 薫が腰をよじる。臍から茂みに至るラインが、くびれた腰から豊かな尻に至る優美な曲線によって隠される。
 さらに薫は、両胸を抱えるようにして乳房を隠した。とてもそれではまだ全てを隠しきれていない。

 「……もう、そんな、見ないでよ」薫が怒ったような、甘えたような声を出す。
 「……ごめんごめん」おれは薫の尻に触れた。
 びくっ、と薫の全身が震える。
 そのまま奥へ手を進める……尻を経由して、後からおれの人差し指、中指、薬指の3本が、薫の脚の間に滑り込ませた。
 「……んっ」薫が目を閉じ、身を固くする。
 おれは指を熱くなった濡れた淵に浸す。
 「……もうべっちょんべっちょんだね」
 「……だって……あんなことするんだもの」薫が恨めしそうにおれを横目で見る。
 「さ、よつんばいになって」
 「……」

 薫は無言でくるりとベッドに転がり、俯せになった。
 そして、ゆっくりと腰を持ち上げてゆく。

 「もっと高く」おれは映画界の巨匠のように薫に注文をつける「それで、上半身はもっと伏せて」
 「……え」薫がおれを省みて言う「……こう?」

 素直に腰を持ち上げる薫。豊かで、肉のしっかりつまった尻が天井を目指して隆起する。
 それとは反対に上半身はベッドに沈み込み、重そうな乳房がシーツと躰に挟まれて形を変えた。

 「……ねえ、これでいい?」薫が不安げにシーツから顔を少し上げる「なんだか、恥ずかしいよ……
 恥ずかしい思いをさせるためにそのポーズを取らせとんねんやがな、と俺は心の中で言う。

 薫は膝から太股にかけての部分が長く、尻の形も良かった。
 まるで、このような姿勢になるためだけに産まれてきた身体だ。
 おれは有頂天だった。ここまでよつんばいが似合う女も居ない。

 「……ねえってば」顔を真っ赤にして薫が言う「……もう、いいでしょ。ね? えっ……やっ!」
 おれが持ち上げられた尻の真後ろに配置したので、薫は慌てて腰を下げた。
 「……お尻、下げちゃだめ、下げちゃダメだ」おれは慌てて言った。「そのまま、そのままで」
 「だって……」薫がまたおずおずと腰を上げ、シーツに顔を埋める。
 耳たぶまで真っ赤になっていた。
 頭頂から低い位置に結わえられたポニーテールが、臆病な犬の尻尾のおうにおれに向かって揺れている。
 
 「よし、オッケー。それでいい。そのまま動かないで」
 おれは枕元に備え付けられたコンドームの袋を手に取り、逸る手でその包みを破いた。
 こんなものをつける機会に恵まれなくなって、もう何年になるだろう?
 しかしまあ、自転車の運転と同じで、手早くさっさと装着する手はずを忘れているようなことは無かった。
 はち切れんばかりに、充血した肉棒がゴムの薄皮を張らせている。難民のような怒張だった。

 「あっ」尻を掴まれた薫が、身を固くする。「……おねがい……ゆっくり、ゆっくり挿れて、ね」
 「うん」しっかりと肉棒を握り、薫の入り口に当てる。
 その部分がひくひくと息づいているのが、先端を通して伝わってきた。
 「ん……」薫の尻がそれを迎え入れようと、おれの方に押しつけられてくる。
 握った肉棒の先端を沈ませる。
 「…………は…………」
 薫の全身が強ばる。後から見ているおれにも、その背中の筋肉が緊張するのが見えた。
 おれがゆっくり、実にゆっくりと潜ってゆ くと…一旦は緊張した背中の筋肉が、だんだん弛緩していくのがわかる。
 薫の方からさらに尻が押しつけられて、おれの肉棒は根元まで、熱く濡れた肉に埋 まった。
 「……はああ……っあ……」薫が膝をがくがくと揺らせた。

 ベッドの上で肩が小刻みに震えている。そして、自らの肉体に侵入した異物を、薫の内壁がきゅう、と締め付けた。 やがて、ゆっくりとその腰が、前後に動き始める。
 
 「……前後運動が好きなの?」おれはまた意地悪なスケベ親父らしい質問をする。
 「……す、け、べ」ベッドに顔を埋めたまま、くぐもった声を出す薫「……ね、……う……動かして」
 「前後に?」おれは悪のりしていた。
 「……ん……んっ………す、好きにしてよ……」
 
 薫の体内に入った肉棒の先端が、薫の肉の上壁をしっかりと擦るように、ゆっくり腰を動かしはじめた。
 なんだか久しぶりだというのに余裕だな。
 さっき一回すでに射精しているとはいえ、自分でも信じられないくらい、冷静な頭で全てをじっくり味わっていた。

 「あっ……ああっ」薫がシーツから顔を上げて、声を出し始める。まだリズムには乗り切れていない。
 「腰を上げて」また下がってきた腰をおれが持ち上げる。
 「んっ……あっ……あっ……あっ……」おれのゆっくりした出し入れの運動に、薫の声が重なってゆく。
 「ほら」
 おれはだしぬけに、奥まで突き入れた。
 「ああっ……んっ……」
 「ほら」そして内壁をえぐりながら、入り口まで引き抜く。
 「……や」薫の尻が追いすがってくる。肉棒の先端と薫の淵が、糸を引く粘液でつながっている。
 「ほれ」今度は一気に突き入れた。
 「あんっ……あ、あ、あ……」

 動きにリズムをつけ、それに薫が乗りやすいようにした。
 面白いように薫は声を出し、尻を揺らせた。やはり薫の尻は前後動く。その動きしか知らないのだろうか?
 それを思うとますます燃えた。じゃあ、とばかりにそれを裏切って回すように動かすと、肉棒を包み込んでいる内壁がまた、キュッと締まる。おれは薫の尻を揉んでいた右手を前に廻し、左手を後に回した。
 熱い体液が溢れ返った結合部分を右手の指で探ると、何をされるか察した薫が慌てておれを省みた。

 「……あっ……やっ……いやっ……それだめ……」
 当然聞く耳は持たなかった。望み通り核心を探り当てると、指で丁寧に擦ってやる。
 「ああああっ………いっ……あっ…あああっ!」薫の声が1オクターブ高くなる。
 さらに後に回した左手で、高く持ち上げさせた尻の中心部に触れる。
 「……やあっ……そこもだめ……ダメだって……んっ!!」
 「こっちも好きでしょ?隠さなくていいよ」そう言いながら指先をほんの少し、後ろの恥ずかしい孔に差し込んだ。
 「……あ……はあ………あは………あっ……あっ…」

  腰は相変わらず順調に、かつリズミカルに薫の尻に打ち付けられる。そうしながら、右手の指でクリトリスを、左手の指で肛門を弄った。次第に薫の声は高くなり、掠れ、その後すすり泣きめいてきた。
  俺は電話口で薫の泣き声を聞いたことを思い出し、ますますよからぬ気持ちになった。

 「……あっ……あっ……あっ……はあ……は……だめ……もうダメ…」ベッドのシーツに顔を埋めたまま、薫が息も絶え絶えに言う。「……お願い……許して……」
 「じ……自分で……」おれの方も少し余裕が無くなってきた。「自分で、ポニーテールほどいてごらん…」
 「え……?」薫が薄目を開けておれを省みる。「……な……なに?」
 「……自分で、ポニーテールをほどいてご覧
 「……ん」言われると薫は、素直に右手を頭の後にやって、髪を束ねているゴムを外した。

 解放された豊かな黒い髪がふわりとほどけ…汗ばんだ薫の額に、頬に、被さった。
 外したゴムをぽい、とベッドの上に捨てると、薫は頭を左右に振った。
 ふわふわと、やわらかいくせ髪が舞った。

 「……ん……あ……これで……」汗で張り付いた髪の隙間から、薫がおれを熱っぽい目で見る「ねえ……ん……これで……これで……いい?」
 「“薫ちゃん、気持ちいい”って言ってごらん」そしてまたおれは、腰の動きの速度を緩める「ほら、言ってみて」
 「…へ、へんたい……マジへんたい……」言いながらも薫は、緩められた刺激を物足りなそうに貪る「……ん
 「ほら、言って」おれは腰の動きを止めた。そしてそのまま腰を引いていった。
 「ま……待って……待って……おね……おがいい」薫が髪を振り乱してぶんぶん首を振る。
 「……じゃあ言って」おれもほとんど、崖っぷちにつま先立ちをしているような状態だった。「お願い、言って」
 「……じゃ、じゃあ……言うね……か……」髪の隙間から、濡れた唇が動くのが見えた。「かおるちゃん……き、きもち……いい……んあああっ!!」

 ラストスパートを掛けた。親の敵のように薫の尻に打ち付ける。

 「いいよ、。いいよ、すごく、いい」自分でも気持ち悪いくらいの上擦った声でおれが言った。
 「……あっ……あ、あ、あ、あ、あ………かおる、イっちゃう…」
 「おおうっ」
 「んんんあ、あ、あ、あ、あ……ああああっ」

 薫は……貪欲で間抜けな少女は、白い背を反り返らせて絶頂を噛みしめた。
 おれがゴム製品の中に、叩きつけるように発射するのに2秒遅れて。
 それが4回中の1回目だった。
 

 
 

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