どちらへお掛けですか
作:西田三郎
■土曜の朝、午前8時洗面所から薫がドライヤーを使っている音が聞こえる。
目を覚ますと、自分が凄まじい勢いで朝勃ちしていることに気付いた。
なんとまあ、信じられない。昨晩あれほどやりまくったというのに。
こんなことは数年ぶりだった。
おれは上にTシャツ、下はトランクス一丁という過分にくつろいだ格好で、洗面所に入った。
洗面台にしつられられた椅子に座って、髪を乾かしてる薫の背中が見えた。
薄いグリーン色のパンツ以外、何も身に付けていない。
全体的に肉付きのよい身体。しかし長身なので、デブという印象は受けない。
その年頃の女の子にありがちな体型だ。無防備で、まだ準備中で。
もともと白い肌が、湯上がりでほんのり上気している。自ずとおれは昨晩のことを思い出さずにはおれなかった。
只でさえ朝勃ちしていたおれの陰茎に、ますます力が漲る……つくづくあさましい。貧乏くさい。
とにかく、薫に近づかねばならない。そう、それを果たさなければ。
あまりにも髪を乾かすことに真剣で、おれが洗面所に入ってきたことも気付かないようだ。
多分、この子は一度に二つのことが出来ないのだろう。
セックスの時以外は。
おれはそのまま薫に近寄った。鏡に映った自分の背後に立つおれを見て、薫が飛び上がった。
「わっ! びっくりした」ドライヤーを切り、振り返っておれを見上げる。
かわいらしい小動物のような顔だった。垂れ目で、丸顔で、肌はいつも湯上がりのように(その時はほんとうに湯上がりだったのだが)つるんとしていてみずみずしい。
そして、肩までの髪は濡れていて、もともとのくせ毛がぴょんぴょん跳ねている。
すっぴんだった。昨日会ったときもそうだったけども。
「おはよう。よく寝た?」おれは言った。
「うん」薫が答える。昨夜、声を出しすぎた所為か、声が少し枯れている「とってもつかれたからね」そう言うと、薫は鏡を通しておれに笑いかけた。またドライヤーのスイッチを入れる。
おれは後から薫の肩に手を置いた。「立って」おれは言った。
「え?」ドライヤーを切って、薫がおれを見上げる。
「立って」おれはもう一度言った。
「えー……なんで……んっ」
おれは屈んで薫の唇に吸い付いた。
薫の舌は、一瞬戸惑っていたが、すぐにおれの舌を優しく迎え入れた。舌を動かしているのはおれだったが、いつの間にか薫の舌も動いている。おれが舌の動きを止めて薫の顔を見ると、うっとりとした表情で目を閉じた薫が、積極的に舌を使っていた。
なんでこういうことだけはできるんだろう?とおれは思った。
薫の舌が貪欲におれの舌と唇を求めるのに任せて、おれは薫を立たせた。
「……やだ……」ねっとりと口を離して薫が言った。「また、するの?」
「ほら」おれは薫の手を、トランクスの突出した部分に押しつけた。
「………え、すごい、元気になってる……」 薫はいきなり指を絡めてきた。なんとトランクスの窓から中に指を進めて、亀頭をいじくりはじめる。「……どすけべ」
「こんな格好で髪を乾かしてるから悪いんだよ」おれは薫の躰を、鏡によく映るように前に向かせた。「ほら」
「……え、そんな」年齢に相応しくない大きさの乳房をほっぽり出して髪を乾かしていた薫が、鏡に自分が映っていることに気付いた途端、いきなり両手で胸を隠した。おれはその手を下ろさせると、薫の右手をトランクスの中に導いた。
「……やだ…映ってるし……恥ずかしくね?」薫がちらちらと鏡に映る自分の姿を見ながら言う「ね……もう、やめよ、このへんにしとこ……んっ」
「ほれ」おれは左手で薫の左乳房を掴んだ。そして耳元で囁いた。「鏡、見てごらんよ、しっかり。ほうら、いやらしい躰だねえ。薫ちゃん」
「ん…ちょっと……あ…」
薫が身をよじる。
しかしおれは薫が鏡から逃れようとするのを圧して、トランクスの中に導いたその右手に、しっかりと肉棒を握らせた。残った方の自分の手を使い、薫の乳房 をもみ上げているのだが…それを目の前の鏡で客観視することで、ますます亢奮させられる。つくづく、おっさん臭い感じがした。いじましい。五感で楽しまな いと気がすまない。
「……やだ…………すごい、すごいってば」薫の声はどんどん鼻に掛かっていく。
「……きのうより、すごい?」
「……」薫は答えなかった。
胸を捏ねながら、薫の姿をしっかり鏡に写し、その映像を眼に焼き付ける。
うっとり目を閉じ、上気する童顔。
耳元で囁かれてひきつる首の筋肉。
うっすらと浮いた鎖骨。
おれの手によっていいように形を変える、とても16歳のものとは思えない大きな乳房。
乳頭はしっかりと固くなっている。
幼さゆえにほんの少し脂肪を乗せた白い腹。
その中央にぽつん、とかわいらしく存在する縦型の可愛いへそ。
淡いグリーンの木綿のパンツ。
その頂上部分へ至る微かな隆起。
逞しいまでの腰つき。
しっかりと閉じられた、白く柔らかい見事な太股。
薫はときおり薄目を開けて、鏡の前に晒されている自分の姿を盗み見る。
「……やだ……こんな……マジヘンタイっぽいの……」
しかしどう言おうと、薫自身が亢ぶっているのは明らかだった。
おれが首筋に舌を這わせるたびに、しゃっくりのように身を顰める。
顔が上気して、胸が息づいている。シャンプーの匂いは柑橘系だったが、それさえ段々強くなっていくように思えた。
おれの肉棒を掴んだ右手は、もうおれが押さえつけなくても、勝手にそれを扱いていた。
「ほうら」おれはエロ小説ぽく、右手を離して、前から薫のパンツの中に手を突っ込んだ。
「……やんっ」
薫が脚を閉じようとする…が、おれが“膝カックン”をしてそれを制した。脚の力が弱まったその隙に、奥へと指を進める。触れる…思わず手を引きそうになるほど、そこは熱くなっており、湧いていた。素早く指を浸し、核心をみつける。
「……くううっ……」薫の上半身が倒れて、洗面台に手を付いた。
「ほら、手、離しちゃだめじゃん」
何とか洗面台に手をついて踏みとどまっている薫の右手首に掴み、後へ伸ばして、すでに天井を向いている陰茎を再び握らせた。
「……ああ……やっばいくらいすっごい……」濡れた髪を垂らして俯いた薫が、そう言いながらも腰を降り始める。
「……気持ちいい?」
しつこく、いじましく聞きながら、再び導いた薫の手が、凄まじい勢いで陰茎を扱きなおしてくれる。
先走りで濡れた陰茎を扱く音と、水没した薫の秘所をなぶる音が、淫靡に重なってゆく。
素晴らしい。
「……い……いく……」薫が掠れた声を出す。「……い……いって……いい?」
「ああ、おれも………そろそろ……」それ以上は言葉にならなかった。
「………んっ………」薫がぐい、と腰を上げる。つま先で立っていた。「くうう……うっ!」
薫の膝ががくがくと震えながら快楽を掴み上げ、そのそぐ後に弛緩した。
「……お、お、お」
情けない声を出しながら、ぐったりと洗面台に突っ伏している薫の白い背中に、精液をかけた。
夕べ出し切ったと思ったが……そうではなかったようだ。おれはさっきまで薫が腰を下ろしていた椅子に座り込むと、しばらく呆然としていた。
薫は洗面台につっぷしたまま、荒い息をしている。尻は蠢いていて、脚の間の下着は濡れていた。
「……見ちゃった」薫が荒い息とともに呟く。
「……何を?」予想外の言葉だったので、おれは少し戸惑った。
「……じぶんがイってるときの、ナサケナイ顔…」薫は顔を上げずに言った。
おれは思わずニヤけたが、コメントは出来なかった。俺も鏡で、自分のナサケナイ顔をしっかり見ていたからだ。
「……あーあ」薫がなんとか、上半身を起こす。「……またお風呂に入んなきゃ……」
抗議するような口調ではなく、なにかひとりごとのようだった。薫は、朝の最後のサービスだと言って、再び乾かした髪をポニーテールにしてくれた。
40分後、おれと薫はラブホテルを出た。外はいい天気だった。爽やかな秋晴れ。
爛れた夜と、さきほどまでの朝のひとときには、似つかわしくないお天気。
しかしそんなふうに悠長に空を見上げている場合ではなかった。
薫はブレザーの制服姿なのだ。おれたちは逃げるようにしてホテル街を後にした。
ホテル街を出ると、薫とおれは並んで歩いた。身長は、おれとあまり変わらない「お腹空いたね」薫が言った。
「マクドナルドに行こう」おれは言った。というか、マクドナルドでないといけなかった。
「……あ、そうか。そうだっけ。マックだったね。行こ」
実に素直だった。
マクドナルドで朝のセットを食べた。
おれはソーセージエッグマフィンセットで、薫はホットケーキのセット。薫はおれの目の前でもりもりと食べた。いずれ、この子も太ることが気になって…もりもりとご飯を食べなくなるのだろう。おれは少し悲しくなった。
朝をマクドナルドで済ませる寂しい周りの人々は、おれみたいな中年と、薫のような制服の少女が一緒に朝飯を食べているこの図を何と思うのだろう……?
少なくとも、好意的に解釈されることはないだろうな、と思った。
いや実際、けがらわしくていかがわしい一夜を過ごしたあとだった訳だし。
「……あのさ」セットを平らげた薫が、いたずらっぽく笑い、声を潜める。「ちょっと、耳貸して」
「何?」おれは身を乗り出して、薫に耳を近づけた。
「……あたし、いま……パンツ履いてないんだ」
「え?」
「ホテルで捨てちゃった……だって、べちょべちょになっちゃったんだもん」
薫はおれの耳から離れて、目を動かして辺りを見回し、ニタニタ笑った。
「じゃあこれ」マクドナルドから出て、おれは薫に26,000円を渡した。
「え……1000円多いけど?」薫は札を受け取って言った。どこまでも素直だった。
「パンツ代」おれは言った「あと、今日一日ノーパン代も含めて……安いけど、悪いね」
薫はにっこりと笑って、札を財布に収めた。赤いがま口に、ミッフィーのキーホルダーが付いていた。
何でがま口なんだ?と思ったが、聞かなかった。
「ありがと。じゃね」
薫はそう言うと、軽い足取りで駅と反対の方向に向かっていった。ポニーテールが、ほんもののしっぽのように溌剌と揺れている。
職場や学校へ向かう人々の群の中、一体誰があの子がノーパンだと知り得ようか。
薫は見えなくなった。
しかし、おれは大満足だった。
これからの人生、この日の思い出だけで生きていけそうだった。そして、待ち合わせの目印だった“青い野球帽”を被りなおした。
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