電動
作:西田三郎

「第1話」

■未亡人の告白
 
 多分、この話を聞いたあなたは、わたしの頭がおかしいのか、それとも単なる色狂いなのかと、そんな風に思われるでしょうね。それでもわたしは構いません。わたしはもう、あの主人が亡くなって以来、わたしを責め苛んできた、この出来事を自分の中だけに止めておくことができません。
いいですか、これからお話することは全て真実なのです。
あなたが信じようと信じまいと、これはわたしが体験したことであり真実なのです。
 そんなに長い話にはなりませんので、どうか聞いて下さい。
 
 主人が亡くなったのは5年前。夫との楽しい生活はほんの2年間でした。
 夫とわたしは40も歳が離れていました。わたしたちが出逢ったのは、わたしが24、主人が64のとき。
 家族、親戚、友人、仕事場の同僚、全てがわたしたちの結婚に難色を示しました。
 口の悪い人は「財産目当てなんでしょ?」などと陰口を叩いていたことも知っています。確かに、夫はわたしにこの家と、生命保険金をを残してくれました。すでに亡くなっていたお義父さまから、夫が相続した一軒家です。わたしは生命保険金を生活費として、ずっとその家に独りで住んでいます。
 しかし、夫が私に残してくれたものは、それだけです。
 お金やものの形に変換できない、短いけれども楽しい思い出を残しては。
 
 夫の死因は、ある部分のでした。
 非常に進行の早い癌で、夫が入院してから亡くなるまではあっという間でした。
 お葬式を済まし、財産に関しての手続きを執り行い、夫の死にまつわる全ての用事が終わったあと、わたしはしばらく、廃人のように過ごしました。
 あんなに私を愛してくれた夫が、今はもう居ないなんて。
 それを真っ直ぐに受け止めることが、わたしにはできなかったのです。
 夫は申し分のない優しい人でした。
 40も歳の離れたわたしを思いやり、その全てを受け止めてくれる、そんな人でした。
 夫に出逢う前のわたしは、はっきり言って滅茶苦茶な生活を送っていました。
 
 二十歳を過ぎた頃に経験した非道い失恋のせいで、その頃のわたしは半ば自暴自棄になっていました。
 わたしは数え切れないくらいの男と躰を重ねました。
 今ではその全てを思い出せないくらいです。
 そして男というものが女性からの性的な誘いに対しては、決して拒否をしないものであるということを悟ってからは、性交の代償としてわずかなお金を貰う、そんな買春のようなことを続けていました。そうして得たお金は、生活上全く必要のない、北欧制の高価な家具や、フラメンコダンス胡弓の演奏といったどうでもいい習い事に消えていきました。

 本当に空しく、悲しい日々でした。
 
 そんな中、わたしは夫に出逢ったのです。

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