蛇蝎 作:西田三郎
■真珠の思いで
それから藤枝と七瀬は、週末ごとに会うたびにセックスをした。月に1度はラブホテルに泊まったり、お互いの部屋に泊まったりした。二人いっしょに休みが取れた時などは、二人で旅行にも行った。そんな関係が1年と半年続いた。
別れはふつうにやってきた。
七瀬の仕事が忙しくなり、会う時間が少なくなった。それが理由だった。
お互い憎みあうでもなく、恨みを残すでもなく、それぞれ別れを受け入れた。
しばらく、藤枝は1人だった。
やがて、新しい恋人が出来た。それもまた、親友の恭子が引き合わせた男だった。同じ歳の会社員。どうということのない普通の男だったが、七瀬に負けないくらい優しかった。七瀬とつき合っていた頃と同じように、週末ごとのデートの日々。セックスに至るまでは、七瀬より随分早かった。
新しい相手とのセックスには、藤枝も少々不安があった。
七瀬と知り合うまでは、セックスの相性が合う相手とめぐり会えないことが、相手との関係を長続きさせることのできない理由ではないか、と考えていたくらいだった。
セックスの相性という意味では、七瀬ほど合う相手はいなかった。
新しい恋人ができるまで、七瀬とのセックスを思い出して自分を慰めることも多かった。七瀬の荒々しいが淫猥な愛撫。投げかけられ藤枝を精神から高める卑わいな言葉。熱い剛直。肉の壁に感じる真珠の感触。思い出せばひとりでに躰が高まり、恥ずかしくなるくらい藤枝は濡れた。
そんな調子だから、新しい恋人とのセックスにちゃんと適応できるか、藤枝にも自信がなかった。
事実、はじめのうちは少し物足りなさを感じた。
新しい恋人は七瀬のように長い時間を掛けて藤枝の秘部を舐めたりしなかったし、様々な体位で責め立てたりもしない。いやらしい言葉で藤枝を嬲ることもなかったし、当然、陰茎に真珠もない。
しかし、そんなセックスにも次第に慣れた。
物足りなさを感じることもなくなった。
慣れたあとは、たまにオルガスムスを迎えることもあった。
藤枝も、新しい男には誠実に奉仕した。特に口での肉棒への愛撫には、七瀬からもたらされた技術を役立てた。その巧みな愛撫に、新しい恋人は大いに悦んだ。お互いもういい年をしているので、あまりに技術にたけた藤枝の舌使いに対して、相手の男が藤枝の過去を訝しむこともなかった。そんな意味で新しい恋人は、好ましい人物でもあった。
いつの間にか藤枝のセックスも、新しい男に応じたものとなった。
七瀬とのセックスを思い出すようなこともなくなった。
人間とは、そういうふうにできているのかも知れない。
しかし新しい恋人とのつき合いも半年を迎えた頃、自分の部屋を掃除していた藤枝は、小物入れに七瀬から誕生日にもらったネックレスがあるのを見つけた。
別れた男との思いでを全て処分するほどロマンチックな性格ではないので、ずっとそのままにしていたものだった。
上品なデザインの、真珠のネックレスだった。
改めてみて、そういえば七瀬は控えめな服装の、上品な男だったな、と思い出した。そんなプレゼントの選び方も、七瀬らしいといえば七瀬らしい。これを手渡した七瀬の手に、小指がなかったこともなんとなく思い出した。
少し、真珠に触れてみた。
少しだけ、下半身が熱くなるのを感じて、藤枝は赤面した。
それ以来、藤枝は七瀬と道でばったり会うことさえ、一度もなかった。(了)
2003.12.30
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