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青ひげ
作:西田三郎

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「第1話」

 

■ 焼きそば

 どうもおかしい。

  なんでわたし、こいつの部屋のベッドで裸で寝てるわけ?
  なんであいつは鼻歌歌いながらキッチンで焼きそばかなんか作ってるわけ? ソースが焦げるいい香りがただよってく る。
 

まあそれはいいといて、何なの、このワンルームに満ちてる淫靡で如何わしい匂いは。
それってわたしのせい・・・?
 
  「あああ・・・なんでかなあ

 わたしは思わず枕に顔を埋めた。
  罪悪感と羞恥心が一気に襲ってきた。
  自分の不甲斐なさが身に染みてくる。
  ふつうならば泣きたくなるところだけど、何故か乾いた笑いしかでてこない。
  まったくわたしはどうしようもない女だ。

 あの井口と同じだ。

 あいつは鼻歌を歌いながら、まだ焼きそばを炒めている。
  トランクスにエプロンをつけて。
  何なの、トランクスにエプロンって。裸にエプロンならよく聞くけど。
  あのエプロンは自前なのだろうか?
  それともこの部屋にやってきた誰か…白土か大杉か、そのへんの女が置いていったものなのだろうか?それとも別の誰かが?

 ……ああ、でも頭が回らない。
  わたしの頭はずきずきと痛んだ。
  お酒は一滴も飲んでいないけれども、二日酔いになったような気分だった。
  悪寒がして、吐き気がする。罪悪感と後悔は一瞬にして人を二日酔いの気分にする。

 「ええっと……川辺さん、カラいの大丈夫でしたっけ?」

 トランクスにエプロンのあいつ……青山があの生っ白い顔をこちらに向けて、輝くような笑みを見せながら言った。

 「……へえ?」わたしは思わずマヌケな声を出した。
  「大丈夫ですよね、辛いの」青山がまた微笑みかける。
  「もうなんだっていいよ……てか、お昼もいらない。お腹空いてないから………」わたしはふたたび枕に顔を埋めた「……あんたは空いてるわけ?……ふうん、 やっぱあんたはただ者じゃないわ。よくこんな時にごはんなんか食べられるねえ………」
 
  体力は限界に達していたが、わたしは最後の力を振りしぼって青山に言った。
  所詮ムダなことだとはわかっていたが………。

 案の定、ムダなことだった。

 青山がフライパンの焼きそばを大皿に盛りながら、またあの輝くような、にやけた顔でわたしに振り向く。

 「あ、ごはんもありますよ。昨日のごはんですけど。……ごはんも食べます?……ちょっと 固くなってるかも知れませんけど」
  「だーかーらー……」わたしは枕に顔を埋めたまま言った「……もう、いいって……焼きそばもいらない。ごはんもいらない。わたし、も う帰る……」
 
  大皿に盛ったやきそばを手に(箸は2本だ)、青山がベッドの傍らにやってくる。満面の笑顔。信じられないくらいのなで肩。肌は青白く、髪はつやつやとして いる。エプロンから覗く、まるで洗濯板みたいな胸板……。

 ああもう、何で?何でこうなっちゃったの?

 「食べなきゃだめすでよ〜……川辺さん。ってか、昨日からほとんど何も食べてないじゃないですか。そんなことだから痩せるん です」
  「痩せてないって」わたしは出来るだけ無愛想な声で言った「あんたなんかに痩せてるとかなんとか言われてもちっとも嬉しくない」
  「いやいや、最近の女性は痩せすぎですよ。皆んな。ってか、川辺さんなんかほんっと痩せすぎなんじゃないですかあ?……ダイエットもいいけどね、やっぱり女 性は健康的なのが一番です。ほら、食べてください」

 箸で油にまみれた焼きそばの麺を手繰り寄せた青木が、それをわたしの鼻先に近づける。
  むっと吐き気がこみ上げてくる。

 「ほら、食べてくださいよ。おいしいですよ。唐辛子も入ってますからね。夏バテにはこれ が一番ですよ。ね、ほら、食べて」

 わたしは枕から顔を上げて青山の顔を見た。
  奥目で、通った鼻筋。信じられないくらい痩せているけど、精悍な感じはまったくしない。というのも、こいつの顔はいつ見ても締まりなくヘ ラヘラと笑っている。目は透き通っていて、まるで10代の少年のようだ。

 じゅ、10代の少年のようだって……わ、わたし何考えてんだ。

 だいたい……あのニヤケ面はいつ見ても癪に障る。
  それに頬全体を覆う、青々とした髭剃りの跡。
  そ、そうだった……あのジョリジョリした感覚がほんの数十分前はわたしの内腿に………あああああああ、なんで?なんでこうなっちゃったの?

 「いらねーっていってるでしょ!!!
 
  わたしは鼻先に突き出された箸を手で思い切り振り払った。
  そしてベッドから半身を起こして、青山が両手で持っていた焼きそばを下からすくいあげるように跳ね上げた。

 「あちっ……あちちっ………」

 焼きそばが奴の膝の上に乗っかる。床の上で飛び跳ねる青山。
  焦ってはいるようだが……それでもやっぱり顔は笑っている。

 「いい加減にしてよ!!!何のつもりなのよ!!!

 わたしは声を荒げていた。
  と、半身を起こしたせいで自分のおっぱいが青山に丸見えになっていることに気づいた。
  慌てて胸を隠す。
  ってか今更どうでもいいことなんだが、怒っているのをアピールするのにおっぱい丸出しなのはあまりにもカッコ悪す ぎる。

 ショックを受けたふりをする青山。それでもやはり顔は笑っている。

 「ひどいなあ……せっかく作ったのに」青山が肩を落とす「美味しいのになあ……食べ物を粗末にしちゃいけま せんよ、ホント」
  そそくさと自分の膝におちた焼きそばを手で拾い集め、皿にもどしていく。 
 
  「あんたね……」わたしは口を開いた。開いたけれども、何を口にしていいか考えがうまくまとまらない「……あんたね、こーいうこと、み んなにしてきたんでしょ?……わたしだって、いままであんたのエジキになった子たちと、結局は同じだっ て思ってるんでしょ?……結局あんた、女だったら相手はだれだっていいんでしょ?……ヤれたらそれでいいんでしょ?

 なんだかわけのわからない事を言ってしまったが……とにかく言葉なんかはどうでもいい。とにかくわたしがこいつに対して怒っ ていることさえ、雰囲気だけでも伝わればいいのだ。

 「……ううん……いや、そういうわけでもないですよ」と床に落ちた焼きそばをすべて皿に拾い集めた青山が笑う。「川辺さん、 ちょっと疲れてるんじゃないですか……?なんでそんなに物事を悪い方、悪い方に考えるんですか?…… 仕事のしすぎですよ。もうちょっとリラックスされたらどうです?」
  「り、り、リラックスってあんた………」
 
  わたしの肩はわなわなと震えた。
  青山に対する怒りと、自分に対する不甲斐なさに。

 「……ほら、そんな怖い顔しないでください。やきそばの事は気にしなくていいですよ……ほら、僕の目を見てください……僕が そんないい加減な男に見えますか?……そりゃ、僕だって聖人じゃないですけども……決して悪人じゃない………それはわ かるでしょう?川辺さんにだって」

 わたしの目をまっすぐに見る青山。
  やばい。
  目を反らそうとしたその瞬間だった。青山が両手でわたしの頬を包み込む。
  「や、や、やめてよ……な、な、何すんのよ……」
  「ほら、川辺さん、もうちょっとリラックスしましょう。焼きそばもいいですけど……僕はもうちょっと川辺さんと楽しい時間を過ごした いんです

 唇が……煙草を吸わない青山のきれいな色の唇が近づいてくる。

 「だ、だ、だめだって………だめだって、もう……」
  「だめじゃないです。ぜんぜん大丈夫ですよ………」
  「な、な、何が大丈夫なんだっての………って、待ってよ、待てったら……………んんんっ」

 ああもう………またチューされてしまった。
  まるでコードを引きぬかれたように、わたしの全身から力が抜けていく。
 
  女ってだめね……ってか、わたしという人間が特にだめなんだろうか?

<つづく>



 
 

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