童貞スーサイズ
第四章 「アウト・オブ・ザ・ブルー、イントゥ・ザ・ブラック」
■第38話 ■ ビコーズ・ザ・ナイト
……6歳の時のあの夜って……?
とにかく今夜は浮き沈みの多い夜だ。
芳雄の頭の中で疑問符のランプがひとつ消えては、また新たなランプが点る。
まるで持ち主が仕舞うのを面倒くさがったせいで、年が明けても申し訳なさそうに立っているクリスマス・ツリーのようだ。
チカチカ、チカチカ。
芳雄はぽかんと口を開けて画面に魅入っていた。
先ほど愛に射精させられていたせいで、画面の中のドウ子の痴態を見ても肉体的に反応することはなかった。
……いや、愛だけではない。その前に2回、大田の口の中に射精したんだっけ……?
ほんの数時間前のことなのに、それはまるで何年も昔のことのように思える。
「ん……」
画面の中のドウ子が、まるで叱られた子供のように身を竦める。
画面のちょうど中央あたりで……父の陰茎が音も無く……ゆっくり、ゆっくりドウ子の躰に侵入していくのが見えた。
「………あっ………はっ………」ドウ子が顔をベッドに伏せ、声を殺すように人差し指の第二関節あたりを噛む「……くっ……」
自分でも信じられなかった。
そんなドウ子の仕草を観ていると、すっかり枯れ果てていたはずの芳雄の下腹に、湧き水のような情欲が染み出し始める。
「……ほうら……気持ちいいかい?」父が少し上擦った声で言う「もっと欲しいかい? ……欲しかったら欲しいって大きな声で言うんだ……」
「……ん…………や………やだよ……そんなの……」ドウ子が恨めしげな顔で父を省みる「……あっ……やだ……」
父が後退したのだ。
一旦はドウ子の中に浸されていた父の陰茎が、てらてらと濡れ光っているのが見える。
「……ほうら。言わないなら抜いちゃうぞおおお?」父の頬はこれ以上なく緩み、その目はごちそうを前にした子犬のように潤み、輝いている「……ほら、言ってごらん。……ほら、もっと腰を振って……“もっとちょうだい”って……言ってごらん……?」
「へ……変態………」後退していく父の陰茎を尻で追いながら、ドウ子が切なげに呟く。「………さ、さ、さっさと…………死んじゃえ………」
「……ほうら……」
父が不意に深く突き入れる。
「あうっ!………」
ドウ子の躰が、弾かれたように反り返った。
「……ほらほら、欲しいんだろ?………また抜いちゃうぞおお………」
「いやああ……やだ、もう……」
宣言どおり父の陰茎がまた、ドウ子から引き抜かれる。
今度は亀頭までが顔を出した……粘液がドウ子の入り口とその先端を、まるで糸電話のように繋いでいる。
「ほうら……ドウ子ちゃん、ちゃんと言わないとパパ、入れてやんないよおお……ほら、大きな声で言ってごらん………“ドウ子、パパのぶっといの欲しい!!”って……」
「し、死ね………こ、この変態………」
「しばらくこの調子で続くけど……」工藤が新しいタバコに火をつけながら言う。「……どうする?このへんは早送りしようか?」
「…………」
芳雄は答えなかった。
事実、そこからしばらく……父がドウ子を焦らし、焦らし、焦らしまくる画面が続いた。
それは呆れるほど長く冗長に感じた。
ところで父さん、“僕の6歳の頃のあの夜”はどうなったんだ?
芳雄は父がそのことをすっかり忘れてしまったんではないかと不安になった。
だいたい……そんなことは芳雄自身にもまったく心当たりが無い。
「んんんっっっ…………」
父が本格的に陰茎をドウ子の躰に沈める。
「しょうがない子だなあ……欲しいなら欲しいって言わなきゃ……“求めよ、さらば与えられん”……それが人生なんだよ」
「……あっ……うっ……」
父がゆっくりと……しかし確実にリズムをつけてドウ子の尻の後ろで前後運動を始める。
そのたびにドウ子の躰が、びくっ、びくっ、と跳ねる。
「……芳雄……お父さんはお前に……ほんとに済まないと思ってる」父がカメラを見ずに、まるでうわごとのように呟く「……あの晩……ちょうど7年前の、暑 い夜だった……父さんは夜中に目を覚ました。歳をとるってのは悲しいなあ……夜中に何度も目を覚まして、小便に行かなきゃならなくなる。まあいずれお前も そうなるだろう……でも、それは逃れようのないことだ……お前の歳だったら……一度眠り込んだらもう朝までぐっすりだろ? ……歳をとると……完全な熟睡 という人間にとって最高の喜びさえ奪い去られてしまう……いや、まあそんなことはどうでもいい」
「……はっ……んっ……くっ………」
突かれるたびに、ドウ子の声はより確かなものになっていく。
「……あの晩、父さんは夜中に目を覚まして……小便をした後、台所に水を飲みに行った。そのまま寝床に帰ろうとしたとき……お前と姉さんが一緒に寝てた、 部屋の前に通りかかったんだ。……覚えてるかな? お前があの頃、しょっちゅう寝ぼけては家の中を歩き回っていたのを……まあ、子供にはよくあることだ。 一種の夢遊病かな……あの晩、父さんがお前と姉さんの部屋の前を通りかかったとき……ドアが開いていることに気づいた。暑い夜だったからな……たぶん、お前と姉さんは、ドアを開けたまま眠っていたんだろう……そこで父さんは、ふとその部屋の中を覗き込んだ」
……夢遊病?……
幼かった自分にそんな妙な癖があったことなんて、今まで芳雄は知らなかった。
……とにかく父は今、芳雄のまったく知らない自分についての話をしている……。
「ほら、ドウ子ちゃん……躰を起こして……」父がドウ子の肩に手を掛け、ぐい、と引き起こした。「……ほら、パパの膝の上に乗るんだ」
「や、やだ……恥ずかしいよ」
「まったく……ここまで来てグズることないだろ?」
父は結合したままシーツの上で胡坐をかくような姿勢をとると……軽々とドウ子をその上に乗せた。
そして……そのままドウ子の躰をカメラの正面に向ける。
「……や、やめて…………こんなの……こんなのやだ……」
カメラから顔を背けてドウ子が囁く。
父は聞き耳を持たず……ドウ子の両膝の内側に自分の膝をこじ入れると……乱暴に左右に開いた。
「………いっ………いやっ! ……ダメだよ……こんなの」
ドウ子が手を前に回してカメラのファインダーから父の性器を根元まで飲み込んでいる、自らの入り口を隠そうとする。
父はその手をそれぞれに両手で掴むと……あっという間にドウ子の背中で纏めてしまった。
カメラは無慈悲にも息づく結合部と……とめどなく溢れる粘液を捉える。
「あっ………んっ………お願い……こんなの……もうやだ………恥ずかしいよ……」
父はドウ子の言葉を無視してカメラに視線を合わせ……語り始めた。
「父さんが部屋を覗き込んだとき……お前は鏡の前に立っていた……窓から入る月明かりが、お前の顔を照らしていた。父さんは思わず……お前に声を掛けてい た『お……おい……お前、それは……』ってね。……あれから8年になるけど、父さんはあの時、お前に声を掛けなければ良かった……と後悔しなかった日はな い。父さんには、お前に声を掛ける権利なんてなかった……済まないと思ってる……芳雄、無神経だった父さんを本当に許してほしい」
言葉を続けながらも、父はその姿勢でドウ子を突き上げ続けた。
ドウ子はもはや声もなく……真っ赤に顔を紅潮させて、その薄い唇を半開きにし、躰を小刻みに震わせている。
「あの時、お前は………姉さんの小学校の制服を着ていた。紺色のセーラー服に……姉さんのソックスまで履いて……それだけじゃない。お前の前髪は、姉さんの赤いピン留めで留められていた……月明かりに映し出されたお前は……こんなことを言うのもなんだが、姉さんよりずっと少女らしく見えた。……お父さんは、お前に声を掛けた……するとお前はゆっくりと父さんに向かって振り返り………父さんの顔を見た。」
父が激しく腰を使い始める。
「……あっ……あっ……あっ……いや………いっ……や……いやあ……んっ」
ドウ子が自らの肩に歯を立てている。
「……あの時の冷たい目を、父さんは一生忘れられないだろう。……まあ、もう残り少ない人生なんだが……父さんは、お前が鏡の前でしていたことに対し て……声を掛ける権利なんてなかった。お前がやりたいと思っていたことに関して……干渉する権利なんてまるでなかった……お前が父さんと必要最低限の言葉 しか交わしてくれなくなったのは……思えばあの日が境だったように思う……お前は、父さんを憎んでいるん だろう? ……いや、聞くまでもないことだよな……お父さんは、お前が本気でやりたいと思っていたことを……無神経に握りつぶした。それ以来……お前は何 に対しても、勉強やスポーツや……それから女の子に関しても……まったく積極的な興味を持てない子供になってしまった……そんな人生を、お前に押し付ける 権利なんて、お父さんにはなかった……芳雄、ひどい父さんだったが、これだけは覚えておいて欲しい。」
「く、ん……く、く、く……」ドウ子のしなやかな躰がさらに長く伸びる……「だ……だめ……」
「人間は、この世に生まれた限りは、やりたいことをやって、満足して死んでいくべきだ。そうでないと……その人間の人生は自分自身の人生だったとはいえない。……お前が女の子の服を着たいなら……思う存分着ればいい。それがたとえこの世の中にとっては受け入れがたい生き方であったとしても……それがお前の人生なんだ。これだけは覚えておくんだ……他人に押し付けられた人生を生きて、不本意なままに死んでいっても何の意味もない……消え去るより、燃え尽きたほうがずっとマシなんだ」
「くうううううっっっ…………あ、あ、あ、あ………」
白い肌を真っ赤に染めたドウ子が、父の膝の上でがっくりと崩れ落ちた。
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