童貞スーサイズ
第二章 「ウェルカム・トゥ・ニルヴァーナ」
■第12 話 ■ 変身
“死にたい……でも、死ぬのは恐い、寂しい……。
そんなあなたにオススメしたいのが、当“クラブ・ニルヴァーナ”の“心中イメージプレイ”です。
あなたのお好みは純真な少女? それとも貞淑な人妻? ほどよい色気を醸し出す三十路のOL?
当クラブにはあなたの人生の最期を華やかに彩る、個性豊かな美女たちが多数在籍しています。
人生に疲れ切ったあなた……最高の『心中プレイ』で、新しく生まれ変わってみませんか???
注意1:当クラブはいわゆる売春斡旋クラブではありません。
注意2:当クラブにて使用する薬物は、日本薬事法に抵触するものは一切使用しておりません”
クリックして開いたのは、実にそっけない、テキストだけで構成された地味なページだった。
メニューには“入会のご案内”と“『心中ガールズ募集!』”、そしていかにも捨てアドレスらしい管理者のフリーアドレスがある。
芳雄はここまで来て迷うことなんて何もないだろう、と思い、「入会案内」をクリックした。
次に現れたページのトップに表示された画像に、芳雄は思わず息を呑んだ。
ベッドの上に腰掛けた、白いワイシャツと紺のスカート姿の少女の画像。
彼女のネクタイは解かれて、だらしなく左右にぶら下がっている。少女の目線にはモザイクが掛かっていた。
しかし、見まごう筈もない。……“彼女”だった。
彼女は、あの父が残したビデオの導入部分と全く同じポーズで、ブラウザの向こうからこちらを見ていた。
その目線はモザイクによりぼやかされてはいたが。
下にはキャプションが入っている。
“当クラブナンバー1の『心中ガール』ドウ子ちゃんです。その他、OLタイプ、人妻タイプ、現役女子大生、現役看護師など、様々なタイプの女性が会員として契約しています”
ジェーン・ドウというのは、アメリカの司法当局の隠語で、身元不明の女性死体に点ける愛称である。
芳雄はそのことは知らなかったが、昨夜、彼女が別れ際に「名前はないの」と言ったことを思い出した。そしてその後の不可解な笑顔も。
キャプションの下に説明文……。
“入会費:50,000円(1年間)
セット費:2万円(女性にお支払い頂く金額です)”
……結構な金額だ。
樋口がこんなものにハマって金を浪費しているとするなら、愛が頭に来ていたのも当然だろうな、と芳雄は思った。
しかし、女とラブホテルで睡眠薬飲んでヘロヘロになるのに合計7万円とは……日本の景気が回復してきたいうのは本当なんだろうか。
いずれにせよ、芳雄には手が出る金額ではない。
……しかしモザイク処理された“ドウ子”の姿を見るにつけ……もう一彼女に度会いたいと願う芳雄の思いはますます高まっていった。
次に芳雄は、“『心中ガールズ募集!』”のコーナーをクリックしてみた。
“本番、ワイセツ行為、一切ナシ! 相手に触る必用も、脱ぐ必用すらありません! 登録完全無料!
安定収入を保証します! 顧客は一流企業社員・公務員・医師など信頼のおける男性ばかり!
安全確実に稼ぎたいアナタ! 今すぐアクセスしてください(完全無料)”
一流企業社員・公務員・医師? ……どれもあのヤク中でホモでインポのチンピラ、樋口には当てはまらない。
芳雄は広告の文言というものはまるであてにならないということを悟った。
その説明の下には、登録フォームがついている。
………芳雄はしばらく、それを見つめていた。
………そして、よくよく考えて、考え通した。
翌日、身体の具合が悪いと言って、芳雄は学校を休んだ。
母は趣味のフラワーアレンジメント教室に出かけ、姉は大学に行った。
芳雄はひとり、家に残った。……芳雄は人の気配の無くなった家の自室のベッドに仰向けになり、自分の決心を弄んでいた。
……本当に、それしか方法はないのか?……本当に、その方法で大丈夫なのか?
しかし、それ以上によい考えは浮かばなかった。
マリアに言われた言葉が蘇る。
“アンタ、カワイイカラ、ジョソシテ、キャクトレルヨ……ヤテ、ゴランヨ。タブン、ヒトバン、5人ハ、キャクツクヨ”
あのトイレの個室で樋口に言われた言葉が蘇る。
“……おめ、ほんど、可愛いわ。男(おどこ)にしとくの、もったいねわ”
自分にコーヒーを盛って犯そうとした愛に、言われた言葉が蘇る。
“……あんた、華奢だね。いやあ、ホント、きめ細かいキレイな肌……真っ白で、ほんとに女の子みたい”
やはり、それしかない。
芳雄は反動をつけてベッドから起きあがると、引出しから複雑に曲がったハリガネを取り出し、自分の部屋を出て姉の部屋へ向かった。
すこし姉は、パラノイア的に自意識過剰なところがあるので、外出のときはいつも自分の部屋に鍵をかける。
しかし芳雄は、その鍵が短い針金で開けることができることを、前から知っていた。
何故なら芳雄も同じ種類の鍵を自分の部屋に掛けていたからだ。
姉はこれまでに何度か芳雄の部屋に短い針金を使って侵入し、マンガをくすねていった事がある。
鍵を開けるのに、20秒もかからなかった。
ドアを開けると、そこは90年代半ばまでの少女の世界だった。
ディズニーのぬいぐるみやファンシーな小物で飾られた、アナログな少女趣味の部屋の中に芳雄は一人立つ。
妙な甘ったるい匂いが部屋を満たしている。
芳雄の胃の中で、朝食に食べたベーコンエッグの脂がぐつぐつと煮え立ちはじめる。
耐えろ……耐えなければ。大きな目的のためだ。姉への嫌悪感なんか捨てちまえ。
クローゼットを探る……なぜかすく目に付いた、ギンガムチェックの膝丈プリーツスカートを手にする。
ブラウスを二つ手にして見比べる……オフホワイトのシンプルなものと、派手にダブルのフリルがついたピンクの七分袖ブラウス。
姉は普段あまり身につけない服である……年に数度、合コンに行くとき以外は。
芳雄は直感に頼り、シンプルなオフホワイトのほうを選ぶことにした。
そして、戸棚のアクセサリー入れから、パンジーをあしらったヘアピンを見つけた。これも直感が選ばせた品だ。
あと、机の引き出しから、ペーパードライバーの姉にとっては無用の運転免許証を。
そして、タンスの一段目、抽斗の奧のほうから、紺のオバーニーソックスをゲット
となりの抽斗からは刺繍の入ったAAカップの古い白いブラジャー(姉は貧乳だった)、それとセットのパンツを手に入れた。
一度しっかりと固めたはずの決心がすこしだけ霞む……一体、ほんとうにこれは最善の策なのか……?
またも自問自答する理性と、それを否定しようとする好奇心が耳障りなデュエットを続ける。
いや……それでもやっぱり……ほかにいい案は浮かばない。
姉のドアの鍵は、針金で元通りしっかりと掛けた。開けるのよりは少しだけ時間がかかる。
芳雄は姉の部屋から手に入れた衣類を抱えて、自分の部屋に戻った。
姉の部屋からくすねてきた衣服類をベッドの上に置き、一呼吸つく。
そして姿見を部屋の真ん中まで移動させると、ジーンズを脱いだ。Tシャツと、ブルーのボクサーショーツも。
鏡の中に、全裸の自分の姿が映っていた。
芳雄は母の遺伝子を受け継ぎ、華奢な体型をしている。
手足は細く、 長い。余分なところにはまだ、体毛は一切なかった。
全体的に生っ白い躰だな、といつも芳雄は風呂に上がるたびにそう考えていた……しかし、それが思いもよらないと ころで役に立つとは。
肩のところにほんの少し筋肉らしいものがついているが、もともとなで肩なので服を着ればそれはまったく目立たない。
薄い胸板の上には、ほとんど肌色と区別がつかない乳輪がふたつ。
脇腹には肋が浮き、腹にはまったく贅肉がない……まあ14歳という年齢を考えれば、あたりまえだ。
そのかわり、腹筋もない……腹は平坦というより、むしろ凹んでいる。その中央に、縦型のきれいな臍があった。
その少し下には、薄いかげりと、おとなしくしぼんだ生殖器。
こんなんもまじまじと自分の躰を鏡に映して見るのは、これがはじめてだった。
なぜか、しぼんでいたはずの性器が、少しだけ硬さを帯びる。
思わず芳雄は赤面してしまった。
しかし、これからしようとしていることに比べると、こんなものはなんでもない。
まず、姉のお気に入り(と思われるが、ほとんど使用された形跡はない)のパンツに足を通す
……しっかり上まで上げると、ずいぶんお尻のあたりが余ってしまうことに気づく。これが男女の 躰の違いなのかな、と芳雄は思った。
確かに姉の尻は……そんな目で見たことなどこれまで一度もなかったが……ストレッチパンツなどを履いたときに、スリムな全身とは反して案外むっちりした質感が目立つ。芳雄の尻は固く、少し骨張ってさえいた。
鏡に尻を突き出して姉のショーツに包まれた尻を確認する。なんとなく違和感がないでもないが、まあ、それは仕方がない。
次に芳雄は、同じく姉のブラジャーを身につけた。背中を鏡で見ながらホックを留めるのに、けっこう苦労した。
改めて鏡に向きなおる。
……驚いた。ブラとパンツだけを身につけた、痩せっぽちの少女が鏡の中に居た。
荒唐無稽なアイデアだとは思ったが……そんなに悪くはない。
腰に手を当てて、モデルがポーズをとるように太股を併せて足を組み替えてみた。
うん、確かにこれは、いい。十人並み以上の少女のプロポーションだ……などと、自分がとんでもないことを考えていることに気づき、改めて赤面する。
そそ くさとブラウスを纏い、前ボタンを填める。スカートを穿き、ファスナーを上げた。
ウエストには少し余裕があった。このことを姉が知ったら、どんなに傷 つくだろうか、と考えると、芳雄は愉快な気分になった……が、クラスの女子たちがよくしているように、ウエスト部分をくるくると巻き上げて、なんとか調節 した。膝丈のスカートから、青白い太腿の大部分が露わになってしまった。
後はソックスだ。ベッドに腰掛け、膝小僧のうえまでソックスの上端を引っ張り上げる。
改めて、鏡の前に立った。そして、パンジーのヘアピンで、少し長めの前髪を横分けにして、留めた。
鏡を見る。
芳雄は愕然とする……それは期待していた以上に完璧だった。
鏡のなかにいたのは、完璧な美少女だった……芳雄はそれだけでドウ子に、少し近づけたような気がした。
たぶん、芳雄のクラスには……いや、自分の通っている中学には……いやいやこの町内には、これほどの美少女は存在しないだろう。
しばらく芳雄は、鏡の中の自分に見とれていた。
いつしか芳雄は、自分が激しく勃起していることに気づいた。スカートの前が、少しだけ突っ張っている。
穢れたものでも吐き捨てるように、すべての服を脱ぎ散らかす。
しかし勃起は収まらなかった……ああもう、あとでこれはなんとかしなきゃ。でも今は、それどころじゃない。
芳雄は全裸のまま机のパソコンに向かうと、『心中ガールズ募集!』”のコーナーをクリックした。
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