無き世界に In a World Without Love
〜中国自動車道中1少女手錠放置死事件〜

第一章「許され
ざる者」

妄想:西田三郎

■2004/10/08 (金) 第一章〜許されざる者 1

「トラック運転手の死」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。8割5分くらいまでが妄想です。

 2001年9月30日、ヒョウゴ県カワニシ市にある県警交通捜査課高速隊分駐所取調室に、杵島さん(仮名:53歳)というトラック運転手の男性がおりました。
 
 昨日丸一日と本日の午前中をガッツリ潰した当局の事情聴取は、物腰柔らかではありましたが厳しく執拗なものでした。
 昼の1時も近くなるというのに捜査官はなかなか解放してくれません
 もとより杵島さんの心中は穏やかではなく、とても昼飯を喰おうなどという心持ちにはなれそうにありませんでしたが。

 事情聴取に夢中になっていた捜査官は、杵島さんの曇りがちな表情を伺いもしませんでしたがやがて己の腕時計を見やり、暢気な調子でこう言ったのですね。

すんませんな、杵島さん。とうにお昼過ぎとりましたわ。カツ丼でも喰べはりますか」
「いえ結構です。腰痛のお薬を飲みたいのですが、家に忘れてきました。一旦帰してもらってもええですか」
「ほな、2時に戻ってきてくれはりますか。長いことすいまへんな」

 一旦は解放された杵島さんでしたが、杵島さんが向かったのは自宅ではなく、天国でした。
 
 なんと杵島さんは当局の建物の真裏にあるアンテナ塔にロープを掛け、首を吊ったのです。

 手元には奥さんと娘さんと会社の上司に宛てた、以下のような手紙が遺されていました。

“弱いワタシで済みませんですワタシはあの可愛いそうな女の子を轢き殺したのか否か自分でもよう判りませんがもし轢いたのがワタシであるとするならもはや生きていく勇気がありませんそれでは皆さん左様なら

 杵島さんは救急病院に運ばれましたが8時間後に亡くなりました。
 
 杵島さんの魂に安らぎあれ
 <つづく>


■2004/10/09 (土) 第一章〜許されざる者 2 

「ガール・オン・ザ・ロード」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。8割3分くらいまでが妄想です。

 2001年7月24日夜10時半すこし前、その約2ヶ月後に自ら命を絶たれた杵島さんとは別のトラックドライバー、様利さん(仮名:40歳)は助手の一実さん(仮名:25歳)とともに、中国自動車道下り線を走行していました。

 ニシノミヤのインターチェンジからだいたい50キロほど走ったところで、一実さんが前方の路肩に妙なモノが横たわっているのを発見します。
 
 「あれ、なんやろ。人みたいやけど」
 「ゴミかなんかとちゃうの。緩い荷台で走る不心得ものが最近多いさかいなあ」
  などと話しながら、その物体の横を通り抜けた際、それが大量に血を流しているのを見て吃驚。
 「あかん、人やわ、あれ」
 「なんやて?ちょっと車停めるわ」
 
 様利さん一実さんとも非常に優秀なトラック野郎であると同時に善良な市民でしたので、その公共心がウインカーをチカチカさせ、さらにはトラックを停止するに至らしめたのですね。
 二人の今後に幸いあれ。
 
 物体Xから10メートルほど通過したあたりで車を止め、様利さんと一実さんは車を降りてそれに近づきます。

 「な、な、なんちゅうこっちゃ
 
 その物体Xの正体は、俯せになった少女でした。身長はだいたい150センチくらい。紺色の半袖Tシャツを着て、下は花柄の短パン。足は裸足真っ茶色に染め上げた髪の前髪をピンク色のゴムで留めているのが見えましたが、今やその髪がさらに血で赤黒く染まっています

 少女の頭の周りは血の海でした。

 様利さんは混乱しながらも、一実さんに自分のトラックから発煙筒を持って来させ、自分は携帯で警察に通報。
 電話に応答した当局担当官に、この不可解な状況を説明していたその最中のことです。
 
 緑色の帆のついた後続の10トントラックが、その少女の脚を、“ブチュッ”と轢き潰して、そのまま減速さえせずに、走り去ったのは。
 <つづく>



 
■2004/10/10 (日) 第一章〜許されざる者 3

「ガール・ウィズ・ハンドカフ」

※この物語は、実話をもとにしたフィクションです。7割5分くらいまでが妄想です。

 「た、た、たいへんです。今、その女の子をトラックが轢きツブして走り去りました」

 半ばパニックに陥りながらも、様利さんはこの悲惨な状況を警察に説明し、一実さんの持ってきてくれた発煙筒で、後続の車がさらにこの女の子を轢かないよう、現場を保持しました。
 
 そうして警察と救急車の到着を待つ様利さん…どちらもなかなかやって来ません

 血の海だった頭の周りに加えて先ほどトラックが通過した女の子の太股のあたりはこれまた血の海。
 さながら血の大海原・鮮血のワンダーランドに横たわる不幸な少女を正視できなかったというのは、事件後の様利さん、一実さんの弁ですが、お二人はその善良さ公共心ゆえに、血みどろ少女の姿と、彼女が轢きつぶされる“ブチュッ”という音、そしてもうひとつの忘れられない事実を心に刻みつけられるのです。
 
 なんたる皮肉。
 
 永遠かと思われるほど待たされた様利さんと一実さんが、約小一時間後にやってきた救急車のサイレンを聞いた時に感じた安堵は、われわれ第三者が想像するに余りあるものであったことでしょう。

 救急隊員の皆さんは、少女がこの時点ではまだ存命していたことを確認しています。

 しかし少女の後頭部は、著しく陥没しており、トラックに轢かれた左の太股の裏は大きく肉が裂け、今もなお少女の小さな身体から慌てて逃げ出すように、フレッシュな血がどくどくと流れ出ているのですね。当然、意識は不明です。
 
 さらに、救急隊員が彼女の俯せになっていた躯を裏返した時、その場に居合わせた一同は、そこに余りにも鬼畜であんびりーばぼーな事態を、目にするのです。
 
 「これは…」
 
 ぢゃらり、とが地面にぶつかり鈍い音を立てます。
 何と少女のか細い両手首を前にまとめるように、銀色に鈍く輝く金属製の手錠が填められているではあーりませんか
 
 それは、警察などが使用するような代物とは少し違い、ワッパを繋ぐ鎖の部分がやけに長い、見慣れぬ代物でした。
 
 <つづく>



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