コラテラル

〜あるタクシー運転手の日記より〜

2004年 米

監督:マイケル・マン


 11月15日。天気…雨
 雨は好きだ。路上に溢れるクズどもを洗い流してくれる。しかし雨が止めば、また奴らは這い出てくる。ジャンキーポン引き売春婦オカマ、そして阿呆面こいたフリーターども援交女子高生ブリオヤジまで…奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ?いつも街に出ると頭がズキズキする。おれは耐えられなくなって、タクシー運転手仲間が集う終夜営業カフェに向かった。
 店に入るといつもの席でタクシー先輩であるハゲのおやっさんと、同じく運転手仲間のマックス(黒人)が話し込んでいた。「よお、トラヴィス。景気はどうだい」「まあまあだな」言いながらおれは同じテーブルに着く。いつもシケた顔のマックスだが、今日は特にシケた顔をしている。「なあ、聞いてやってくれよ、トラヴィス。マックスの野郎、夕べとんでもねえ災難に巻き込まれたんだってよ」「へえ」おれは言いながらコップの水にアルカセルツァーを溶かした。マックスの野郎が青い顔で話し始める。

「夕べ、グレーのスーツを着た優男を乗せたんだよ。それでダウンタウンまで行ったところで、その野郎、ちょっと用事があるから待っててくれって抜かしやがった。仕方ねえからおいらが弁当喰いながら待ってるとよ、ビルの3階の窓から、男が振ってきておいらのタクシーの屋根に落っこちてきやがんの。おいらぶったまげたけど、さらにぶったまげたことにそれはなんと、例のグレーのスーツの色男の仕業だったんだな。奴っこさん、チビのクセに殺し屋だっていうじゃねえか。おいら、トンズラここうとしたんだけどさ、その野郎、おれに銃つきつけて今晩中にあと4人殺すからそれにつき合えって言うんだよ。冗談じゃねえぜ。何でも話によると、明くる日にマフィアのボスかなんだかの公判があるらしくてよ、その日中に、証人とかを5人殺さねえといけねえんだってよ。ちょっと待ってくれよダンナ、っておれは言ったんだ。明日公判だってのに、なんでこんなギリギリになるまでその5人を殺さなかったんだよ?。そう思わねえか?数日前から、ちょっとずつ殺しときゃあいいじゃねえか夏休みの宿題じゃねえんだぜ。しかも奴っこさん、パソコンに殺す連中のリストを入れててよ、もののはずみで、おいらがそのパソコン壊しちまうと、怒り狂って“どうしてくれんだ!これから殺す奴の全情報が入ってたんだぞ!”ときた。待てよ、その時点ではもう3人殺ってたんだぜ?あと2人の情報くらい暗記できねえのかよ?それでおいら、また銃で脅されてドライブの続きよ…なんでおれがこんな目にあわなきゃならねえ?…あと…」
 
 おれはそれ以上マックスの話を聞かなかった。奴はえんえんと喋り続けた。
 それがどうしたってんだ。

 おれだってイヤな客はしょっちゅう乗せる。一昨日乗せたチビでヒゲ面の男はヨメさんの浮気相手だっていう黒人のアパートの前にタクシーを横付けさせて、“これからアイツのマソコに44マグナム銃を突っ込んでぶっ放してやるんだあああ…うひひひひ”とかなんとか言って一人笑ってやがった。薄気味悪いったらねえぜ。昨日なんか、遊び人風のオッサンが若い女を連れて乗ってきて、シートをザーメンで汚していきやがった…。もう我慢できん。銃を買おう。そして全員皆殺しだ。
 
 あらゆる不正と無法に立ち向かう男がいる………それは俺さ

 
 

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