バベイオモイド神様が見てる
〜秋〜
作:西田三郎
■2005年10月9日(晴れ)
日記さん、こんばんわ。
ええっと……どこまで書いたんだっけ……あ、そうそう、イバラキがあたしを部屋に入れてくれたとこまで書いたんでしたっけね。
イバラキの部屋は、これまた何の変哲もない質素なワンルームでした。
隅っこに布団がきちんと畳んで置いてあり、けっこうまめに掃除もしているみたいで、部屋はきれいでした。生活感がとぼしすぎるんじゃないかとおもえるくらい……彼の部屋は質素この上ないものでした。カレンダーだけが壁に掛かっていましたが、それはたぶん、近所の酒屋さんか何かからもらってきたものなのでしょう。つまらない書画の入ったほんとうにどうでもいいカレンダーで、そこには上手いんだか下手なんだかわからない字でこう書いてありました。
“ちいさい秋ちいさい秋ちいさい秋見つけた”
なんてアホらしいんでしょう。
あたしは部屋の中央で正座しているイバラキと、向き合う形で正座して……この6年間、ずっとイバラキにぶつけることを夢見てきた質問を次々とぶつけました。
「あの難しい名前はどこから思いついたんですか?」
「………………………………………………………………………………………なんなくてきとうに」
「人を殺した時の感じってどんな感じですか?」
「…………………………………………………………………………………………覚えてない」
「なぜ殺した子どもの首を切り取ったんですか?」
「…………………………………………………………………………………………なんとなく」
「世間をあっと言わせたかったからですか?」
「…………………………………………………………………………………………それもあるね」
「首を切り落とすのは大変でしたか?」
「…………………………………………………………………………………………まあね」
「首を切り落とした後、全身に血をぬりたくったって本当ですか?」
「…………………………………………………………………………………………ああ」
「その時、どんな気分がしましたか?」
「…………………………………………………………………………………………別に。忘れた」
「その後射精したっていうのもほんとうですかあ?(きゃっ)」
「…………………………………………………………………………………………」
質問をひとつ重ねるたびに、あたしの失望は大きくなっていきました。
あたしははじめ、イバラキはあたしの質問に答えたくないから、こんな生返事をしているのではないかと思いました。多分、それもあったでしょう。
でも、こんな風に質問をくりかえしていくうちに……あたしは気づいたのです。
この人には、答えたくても答える言葉がないんだ。
もともとこの人の心の中は……あの事件を起こした14歳のときから……からっぽだったんだ。
その失望はあたしの中でどんどん広がっていき……いつの間にか、あたしは泣きそうになっていました。
イバラキは青ざめた顔でうつむいたまま、あたしの質問にポツリ、ポツリとてきとうな生返事を返すばかりです。一体あたしの6年間はなんだったんだ。あたしは無性に悲しくなりました。
「じゃあ、最後の質問です。今でも………バベイオモイド神様を信じていますか?」
気がつくと部屋は真っ暗になっていました。
真っ暗な闇だけが……あたしの思い描いていたとおりで、そのことがあたしをすごく悲しくさせました。
「………………………」イバラキはしばらく黙っていましたが………やがて小さな声で言いました「…………あれは、子どもを殺しちゃってから、その後ででっち上げたんだ」
「………え?」
「……………12歳の頃から日記をつけていたなんて警察に言ったけど、ウソだよ」
「……………………そんな………………」あたしは喉がからからに乾くのがわかりました。
「………………僕は………………、未だになんであの子どもを殺しちゃったのかわからない。なんでその首を切ったのかもわからない。なんでその血を体にぬりたくったのかもわからない。そのとき、射精したのもほんとうだけど、なんでそうなったのかもわからない。なんで遺薔薇屠死夫なんて名前をひねりだしたのかもわからない。なんであんな挑戦状を書いたのかもわからない。………ただわかるのは、あの子どもを殺しちゃってから、警察に捕まるのが、とっても恐かったってことだけだ……」
「……こわ………かった?」
「………ああ、実際、最終的に警察につかまって、ほっとしたくらいだよ。僕の人生で、あんなに恐かったときはもうない。ぼくは、つかまった時のために、いろいろと手を考えた。あの時14歳で、僕の犯した罪が法律では問えないことなんて……知っちゃいなかった。いや、そんな法律らしいものがあるのは知ってたけど……あれだけのことをすれば、いくら14歳とはいえ、死刑になると本気で思ってたんだ。……だから……捕まったときのことを考えて、あの………何だっけ?バモイ……」
「バベイオモイド神」あたしは言い直した。その時には、完全に涙声になっていた。
「……そう、そのバベイオモイド神、なんてでたらめの神様をでっち上げて、12歳から日記をつけているみたいに微妙に字を変えながら、あの2年分の日記を3日徹夜で書き上げたんだ。……捕まったときに、精神鑑定で異常って判断されたら、さすがに死刑になることはない、なんて思ってね」
「…………………………」
あたしは自分の視界がゆっくりと回っているのに気づきました。
まるで真っ暗な中で遊園地のコーヒーカップに乗っているような気分でした。
「…………ちなみにこの話をするのは、君で8人目だ」イバラキは言いました。
「8人目?」
「…………これまでに君みたいにここを訪ねてきた人が、これまでに7人居た。みんな、いったいどこから僕の居所をつきとめたのか知らないけど………やってきては、君と同じことを聞くんだ。ええと………その、なんだったかな……バモイ……」
「バベイオモイド神」あたしは泣きながら言った。
「そう、その、バベイオモイド神を、今でも信じてるか?ってね…………僕は…………その誰にも、正直にほんとうのことを話した…………みんな、がっかりして帰っていったよ。………そろそろここから引っ越そうかと思ってるんだけど………保護監察中の身分だからね…………」
あたしは泣きました……声を出して。
自分が可愛そうに思えて思えて、仕方がありませんでした。突然、あたしはヤケになりました。
そしてイバラキに飛びかかりました。
あわてて立ち上がろうとするイバラキを引き倒し、ズボンのジッパーを降ろして、中からイバラキのちんこを引きずり出しました。
「何をするんだ!!!!やめなさい!!!」イバラキが叫びました。
あたしはいばらきのちんこを口に含んで、いわゆるフェラチオをしました。
生まれてはじめての事でしたので、ちゃんと出来たかどうかはわかりません。
本能のおもむくままに、舌を使って、頭をがくんがくんいわせながら、イバラキのちんこをしゃぶりまくりました。ぺちゃぺちゃといやらしい音がしました。あふれ出てくるよだれが、口のはしからあふれました。
あたしはめちゃくちゃ乱暴で暴力的なフェラチオを続けました。
イバラキは必死にあたしを引き離そうとする素振りを見せていましたが、それが本気ではないことくらい、あたしにもわかりました。気持ちいいのでしょう。体は正直です。
イバラキのちんこはあたしの口の中でだんだん固くなっていきました。
なに反省したフリしてんだよ。と、あたしはフェラチオしながら思いました。
こうやって6つも年下の女の子にちんこしゃぶられたら、ちゃんと固くなるじゃねえか。
反省したフリして、善人面してんじゃねーよこの変態殺人鬼が。
あたしはそう思いながらがんがん固くなるイバラキのちんこをしゃぶり続けました。
「やめるんだ!!!!」
射精まであと一歩、というとこだったのでしょうか。
イバラキがあたしを蹴り飛ばすようにして引き離しました。
あたしの唾液で濡れて、てらてら光るちんこを立てながら、イバラキが闇の中に立ち、肩で息をしています。
蹴倒されたまましばらく、イバラキのちんこを見ていました。
ちんこはみるみるしぼんでいきました。
花が枯れていくのを高速撮影した映像を見ているようでした。
「こんなこと……やめるんだ」イバラキは言いました「………君にはまだわからないかも知れないけど………人生はとても美しいんだよ。上手く言えないけど…………」
人生は美しい…………?……………はあ?
あたしは返す言葉もありませんでした。
ちんこを出したままつっ立っているイバラキをそのまま残して……ひとりで部屋を出ました。
帰りの電車の中で、あたしはずっと泣いていました。
泣いていたことしか覚えていません。
気がつくと、家についていました。<つづく>
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