実在少女
もしクラスメイトが淫行教師に調教された変態M少女だったら

作:西田三郎

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■1 「お互い子供のクセに」



 駅の裏手の待ち合わせ場所に立っていた男を見て、あたしは自分の目を疑った。

  どっからどう見ても、メールで男が名乗っていた『25歳の会社員』には見えない。そいつは肩幅がやたら大きい、ダサい灰色のスーツを無理して着ていた。あ の華奢な体だったら、スーツの中に彼がもう一人入りそうなかんじだ。目深に、ニューヨークヤンキースの帽子を被っている。野球なんか、ちっとも興味ないク セに。ぶかぶかのスーツは、お父さんのスーツでもこっそり借りてきたんだろう。小脇には、ダサいセカンドバックを抱えていた。あれを持つと、大人っぽくみ える見えるとでも思ってるの?…いや、バカだ。
 
  どこからどう見ても、中学生の男の子が、身体に合わない着ぐるみを着せられているように見える。でも、メールにあったように、灰色のスーツを着て、ニュー ヨークヤンキースの帽子を被って待ち合わせ場所に立っているのは、そいつしかいない。

 しかも、あたしはそいつのことをよく知っていた。まったくバカだなあ、男子っ て。
  思わず噴き出しそうになるのをこらえながら、そいつに近づいていった。

 「お待たせ」あたしは彼に、できるだけ大人っぽい声を作って声をかけた。「……スーツ、似合ってるじゃん」
  「………」彼は何も言わない。ムッとしたような顔であたしを見る。
  あたしと彼の身長は、ほぼ同じだった。

 帽子のつばの下から、白いきれいな輪郭と、ほんのりピンク色の頬と、リップを塗ったみたいにきれいな唇と、長いまつげが見えた。いつもこ んなふうに待ち合わせの場所に立っている、油染みたきたない肌も、タバコのせいで腐ったタラコのようになっている唇 も、荒い髭剃り跡も……というか、彼には髭が生えた形跡すらない……二重顎もない。あたしがよく知ってる、あの顔だった。
  というか、学校のクラスで3つ右隣の席に座っている、あの顔だった。

  「……高野くん、中学生のクセに何やってんの?」あたしは言った「……そんなに愛に飢えてたのお?」
  「……お前だって……」帽子のつばに隠れて、高野君が口を尖らす。「何やってんだよ…中学生のクセに」

 超かわいい。

 「……うわさが本当か、知りたかったの?」あたしはわざと身体をかがめて。「うわさどおりで、嬉しかった?……がっかりした?……ねえね え?」
  「うるせえよ」高野君がまた口を尖らせる「さっさとホテルに行こうぜ」
  「ムリじゃない?……あんたどう見ても“お父さんのスーツ借りてきた中学生”にしか見えないし。ってか、ちゃんとお金持ってるの?……言っとくけど、クラ スメイト割引とかないから」
  「……あるよ」変声期に入って少し軋んだ声を隠すように、小声で高野くんはつぶやく。「2万円だろ?……それでいいんだろ?」
  「どしたの?……そんなお金……あ、ひょっとしてお年玉でも貯めたのお?……」
  「うるせえ、来いよ!!」

 いきなり高野くんに二の腕を掴まれた。
  「ちょっと……痛いよ」
  「……ホテルに行くぞ。ホテル、もうどこ行くか、決めてあるから」高野くんの横顔は真っ赤だった。
  「えー……ムリだよ。あたしはちゃんと大人っぽくしてるけど、高野くん、ぜんぜんおっさんに見えないよ。子供どう しじゃ、ホテルには入れないって」
  「……大丈夫だよ。ってかもう子供じゃねえよ。そーいうお前こそ、子供のクセに何やってんだよ」
  「あんただって、子供のクセに何やってんのよ」
  「……こんなことしやがって……言うこときかないと学校中にバラしてやるからな」
 
  ああ、バカでかわいい。あたしは高野くんのことを、この数分間でかなり好きになった。

 「……学校中にバラされて困るのは、お互いさまじゃん」
  「おれはいいんだよ」

  ほんとにいいの……?……あたし、あんたのとっておきの秘密も知ってるんだけど。
  でも、口に出しては言わなかった。あたしにも、それなりのデリカシーはある。

  「“おれ”だって……プッ……」
  「うるさい!とっとと来い!!

 高野くんに連れられて、どんどん駅の裏手にあるホテル街に入っていく。
 
  「……あたしとこうしたかったの?……だから告ってくれたの?……ラブレター、いちおうちゃんと読んだよ。けっこうカンドー的だったよ。でも、こうしたい ならこうしたい、って言ってくれたらよかったのに」
  「黙れ!!」高野くんが、ぜんぜん迫力のない声で叫ぶ。
  「あのときから、ずっとあたしとこうしたいと思ってたの?」
  「黙れ……黙れ………天満……」
  「あたしのこと、嫌いになるんじゃなくて好きになってくれたなんて……超うれしーい」
  「……黙れってば……黙れよ……天満……天満……黙れ……」

  高野くんが、あたしの念仏みたいに名前を読んだ。
  乱暴に引っ張られながら、ちょっとだけ濡れちゃった。

 

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