で、奥さんあんたいつも
ドンナふうにナニしとんねん。
作:西田三郎
■2■ 性交渉の回数
「……で、奥さん、ダンナさんとは週何回くらいナニしはりますねん」
「……ええっと」わたしは咳払いして言った。「それって、必要なんでしょうか?」
刑事はボールペンで暗号のように汚い字……あれは、“字”なのだろうか……を調書らしいものに書き留めながら、10秒に一回は手元から顔をあげて、わたしの全身を舐めまわすように眺める。
さっきからこの刑事が、事件に関して聞いたのは、一緒に暮らしていたあの男の生活サイクル、普段の帰宅時間、週に何回飲みに行くか……とか、ごくごく簡単なことで……それらの聞き込み自体、実におざなりな感じがした。
「必要も必要、めちゃくちゃ必要でっせ……奥さん、ご存じやと思いますけど(この、『ご存じやと思う』という言葉には、わたしがこれまでに経てきた性経験 の多さ、多用さ対する、思いこみからくる邪推が感じられた)、男っちゅうもんは……溜まったら溜まっただけ、この手の事件を起こしやすいもんでっしゃ ろ?」
「“でっしゃろ?”って言われてもわかりません。そうなんですか……?」
明らかにわたしが怒っていることは、刑事も十分、理解しているはずだ。
しかし、それをこの男は喜んでいる。
「さいだすわ……なんやかんや言うてもね、男は溜まると、余計なとこで出したがるもんなんですわ。そやからお聞きしますねんけど……最近、ダンナさんが奥 さんとナニする回数が極端に減った、とか、増えた、とかそういうことはおまへんか?……ようするに、セーセーカツに変化、というか……」
「ふつうやと思います」
「ふつう、ってどんな感じでっか……具体的に、何回でっか?」
「つ、月、2、3回です」
「月、2回?……ほんまでっか?」刑事が大げさに声を上げる。「そりゃ奥さん、ほんま寂しい限りやおまへんか……ほんま、あほな男やで……こんな、べっぴ んさんの奥さんと一緒に暮らしとって……月2回でっか?……信じられまへんわ……僕がもし奥さんと暮らしとったら、毎晩と言わず、毎朝起き掛けにもナニを 欠かしまへんけどなあ……奥さんもその、なんちゅうかその、女性として熟れたカラダをもてあまして……」
「あの」わたしは、“もし僕が奥さんと”のくだりに、吐き気を覚えつつ言った。「そのへん、もういいです」
「ああすんまへんすんまへん……」刑事はボールペンの尻で頭を掻く。「いやそれにしても、月2回とは少ないでんなあ……でも、最初っからそうやったわけや おまへんやろ?……一緒に暮らし始めた最初のほうは、そんなことなかったんちゃいまっか……あれでっしゃろ?……毎晩でっしゃろ?」
「…………いや、そやから、それが、何なんですか」
「毎晩、毎晩、ベッドやら床やら、台所やら、お風呂やら……部屋のいたるところで、毎晩毎晩ヤリまくらはったんとちゃいまっか?……ああ僕ね、まだ新婚の 頃、嫁はんといっぺん、部屋のベランダでハメてみたことありますねん……いや、なかなかよろしおましたで〜……」ここで刑事は、遠い目をした。「あの頃は うちのヨメも、まだ子どもがおらんかったし、それなりにええ乳とええケツしとったし……まあ顔は、奥さんと比べるんも失礼、っちゅうくらいでブッサイクですけど な……へへへ……それに、シコメのフカナサケ、っちゅーわけでもないけど、それなりに好きもんやったさかいに……素っ裸にしてベランダに連れ出して、手す りに手つかせて、後ろからこれでもか、っちゅーくらいに後ろからハメたったら、『あかん、近所から見られてまう、聞かれてまう』っちゅーて、声ガマンしながらも、メッチャめちゃコーフンしとりましたで〜……」
「はあ」耳からラー油でも垂らし込まれているような気分だった。「で、何です?」
「奥さん、新婚セーカツっちゅーたらそんな感じでっしゃろ。最初のころは、毎晩ハメまくってはったんとちゃいますん?」
「だとしたら、それが犯罪ですか」氷のように冷たい声で言い放つ。
「ほう!やっぱり毎晩でっか!…………そやろなあ〜……いやはや、うらやましい限りでんなあ…………その頃はアレでっしゃろ?……一回のナニで、何回戦も何回戦もしたりしはったんでっしゃろ?」
「そんなにしてません」
「ベランダでハメはったこと、おますか?」
「ありません」
「奥さん、するたびにイきはりますか?」
「あのわたし、もう帰ってよろしいでしょうか」
わたしが席を立とうとすると、刑事がわたしの手を取った。
「あきまへんでえ……」刑事の手は、熱く、湿っている。「まだまだ聞かせてもらいたいことが、山ほどおまっさかいなあ……」
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