ヴィタール

〜ハラワタをモミモミしながらも〜


2005年 日

監督:塚本晋也


 勤め先にいたあるバイト君は、某国立大学の医学生でした。そんな将来有望で好青年の彼にパシリをさせることでわたしのような低学歴者も鬱屈した自己満足を満たしていたというような陰惨な職場環境はさておきまして、彼の話してくれた解剖実習の体験談は実にリアルなものでありました。

 医学生といえど人の子、やはり解剖実習がはじまり、目の前のホトケさんをさあ切り刻みましょうと言われたその日にはやっぱり気分が悪くなったりご飯が食べられなくなったりしてしまうのが人情。しかし、解剖実習というものは我々が思っているよりもずっと長い期間……数ヶ月間にわたって行われるものらしく、だんだんと『ホトケさんを切り刻んでいる』という行為に対する実感も、後になればなるほど鈍ってくるらしいのですね。目の前でハラワタさらけ出しているホトケさんのことよりも、ホトケさん腐敗防止のためにキンキンに冷やされた実習室の寒さの方が身に染みてくる。立ちっぱなしの足のダルさが骨身にこたえる。仕舞いには3時間も実習が続けば腹も減ってきて、ああさっさと実習終わらねえかなあ、今日は学食で何食おうかなあ、などとホトケさんのハラワタをモミモミしながら考えている自分がいる。
 
 そうやって彼らは医師としての最低条件であるところの、ある種の職業的無感覚を身につけていくというのです。
 
 いやはや感動いたしました。人生長いですけれども、こんなにもリアルな話を聞けることは滅多にありません。
 
 と、思わず言及するのを忘れるところだった「ヴィタール」ですが、ツカモト監督、あんたの四畳半風味のアングラ演出にはもうウンザリですわ。あと、浅野くん、ラクな仕事ばっかり選んでんじゃねえ。以上。
 

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