SILMIDO/シルミド

〜大人なら誰でもひとつ心にシルミドを持つ〜

2003  韓

監督:カン・ウソク


 努力は必ずしも報われるものではありません。むしろ、報われないことの方が多い。はじめから無駄なことと判っているなら、できるかぎり余計な努力はしない方がいいに決まっています。あなたが、御自分の家の庭の地中には必ずや原油が眠っていると信じ、庭を掘り続けるのであれば、決してわたしはそれを止めようとは思いません。しかし、永遠に湧き出るはずのない原油を求めて、庭を掘り続けるあなたの努力は美しいか?…決してそんなことはありますまい。「努力は素晴らしい」、というのは我々市井の人間が、自分の人生が一貫して無駄な穴掘りであることに気づくことなく、奴隷としての人生を全うすることに疑いを抱かせないたみに、奴らが植え付けた間違った思想です。
 そう、人生とは多かれ少なかれ、報われない努力の連続なのであります。
 例えば想像してみて下さい…あなたは弱小広告代理店に勤める制作マンです。
 クライアントであるところのその専門学校は、職員募集をうたう2段8分の1モノクロ新聞広告(タテ69mm×ヨコ48mm)などというチンケな案件に際して、あなたに3パターンの図案を提出することを課し、提出したら提出したで「イメージが違う」などという抽象的な理由で3案ともダメ出し。『募集職種と応募要項と連絡先を書いたらもうイッパイイッパイじゃねえか?一体これ以上どんなイメージを膨らませようってんだ??』という常識的観点に立った至極当然な意見を、あなたはグッと飲み込みます。爆発することのない怒りはどこに行くのか……?そう、それは大人であるならば誰もが必ずひとつずつ持っている、心の実尾島(シルミド)において、暗く、静かに解放される時を待つのです。
『話が違うじゃないですか!』『聞いてませんよ、そんな話!』『どうしてくれるんですか!』
 そんな心の激情をそのまま言葉にして吐き出してしまううちは、まだオコチャマ。クライアントの抽象的なダメ出しは続き、広告掲載の期日は刻一刻と迫ってきます。3案目、4案目、5案目……いったい69mm×48mmの小さな宇宙にどれだけのレイアウトの可能性があるというのでしょう、とりあえずクライアントからOKを頂くまで、あなたは別案レイアウトをケツの穴からでも捻り出さねばなりません。
「やっぱり最初の案が一番ましやな、あれでええわ」…とクライアント様からオッケーを頂いたのは、8案目を徹夜で仕上げたその翌朝…実に入稿最終締め切り(ほんっとにカツカツの最終締め切り)の、なんと2時間前でした……。
こんな日々を送っていながら、我々が正気を失わないないで済んでいるのは、それは心のシルミドのお陰なのですね。

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